無罪確定
呼び出されるまま、裁判所へ。
謁見の間での口頭試問の時もかなりの人数が集まって居るように思ったけど……、貴族って暇なのね。
「すっごい人数。みんなお仕事はないのかしら。」
「中枢に関わりのない貴族は邸で仕事をしてる人が多いから、時間の調整はいくらでもできるんだよ。」
「リッド侯爵。」
名前を呼べば、嬉しそうに破顔し両手を広げる。
「落ち着いているね!良いね!その姿勢!!オズワルド先輩はきてないのかい!?」
「お父様がわざわざ出てくる騒ぎではありませんよ。」
「ハハハッ!良いね!うん、実に良い!!さては口頭試問で無罪判決が出たから油断しているね!?」
「…………。」
「ふむ、その表情は……ふふふ。あぁ、良いね。やっぱり中枢に欲しい人材だ。」
「お気持ちだけで。」
「連れないね!そこも良い!!」
笑顔のリッド侯爵を遠巻きに見る貴族たち。
私がどこの誰かと探る人も数名はいるけれど、ほとんどの貴族が私をコースター辺境伯だと認識している。
「さて、そろそろ行かなければ。ユリアさん。僕はね、君は勝つと信じてる。だからあえて今言う。」
「…………。」
「新しい支部の人員に僕を入れるように会長に掛け合って欲しい。」
「却下です。」
「少しは悩んでくれても良いんだよ?」
「お断りします。」
「まぁ、そういうだろうと思ったけどね!オズワルド様にも断られたし。」
「お父様に?なら、なおさら却下ですね。というか、リッド侯爵。それならなぜ断られてるか、わかっているのでは?」
「そーなんだよ!でもね!オズワルド先輩の傍に行きたいじゃないか!」
「お気持ちだけで。」
「親子揃って冷たいね!だけどそこも好きだよ僕!」
リッド侯爵の熱々ラブコールを受け取りつつ、響き渡る木槌の音に息を吸い込む。
「では、私はコレで。」
リッド侯爵の返事を待たずに証言台に立つ。
裁判官には怪訝な顔をされたが、さっさと終わらせたいという私の意思表示だ。
ニコリと微笑めば、開廷の合図が出されて。
「被告人、ユリア・コースター。貴方は罪を認めますか?」
「否。私は無実です。」
口頭試問でもしたようなやりとり。
毒薬を飲まされたと主張する王妃側の人間による証拠品提出。
そして私を無罪だと主張する人間による証拠品の提出。
前世と違うのは検察官も弁護士もこの場に居ないこと。
口喧嘩するのは当事者である私と裁判官。
もちろん、私と入れ違いで地下牢にぶち込まれていた夫人もいらっしゃるが……アンタはそこでコテンパンにされてなさい。
「この裁判の前に提出された証拠品、目を通していたが……見事なものでした。」
裁判官が証拠品を提示してくれる。
もちろん、全てではない。
私と夫人、どちらが犯人かを明確に示している部分だけを声高に伝えてくれる。
「……よって、ユリア・コースターは無罪!!夫人、貴方は本来なら死罪に処すところだが……今回、今までの働きを認め減刑。」
「!」
「減刑………。」
どこから手を回された?
王妃様?それとも、タールグナー伯爵家?
いや、ソリュート侯爵の可能性もある。
減刑を視野に入れてなかったわけじゃない。
わけじゃないけど……。
「終身刑に処す。己の行いを悔い改めるが良い。これにて閉廷!!」
木槌の音が響く。
「…………ふふ、やったわ。私はまだ、この世界に見捨てられてなど居ないのね……!!」
笑う夫人の声が聞こえてくる。
傍聴席に座っていた貴族たちの声が聞こえてくる。
いっそのこと、私の手で終わらせる?
いや、落ち着け。落ち着くのよ私。
終身刑ってことは、顔を見ることもないということ。
でも、彼女を大人しく牢に入れておくような連中には思えない。
証言台から降りて、念の為にとつけられていた手枷と足枷を外してもらう。
何度つけられても気持ち悪い。
手首を撫でつつ、深呼吸を一回。
「貧乏貴族なんかに私を裁くことなんかできないのよ!!あはは!!」
「コラッ、静かにしろッッッ!」
気でもふれたのか、それともそういう作戦なのか。
連行されている夫人の進路を遮るように立てば、連行していた騎士団員が足を止め私を見る。
「夫人に一言、よろしいですか?」
「手短に済ませろ。」
「えぇ、もちろんです。」
両端から抑えられている夫人を見る。
地下牢で過ごしていたせいか、肌艶も髪艶も失われているけれど、健康的な食生活を送っていたのがわかる。
「夫人、まだ答えてもらえてない質問に対してなんですが……。」
「は?」
「あぁ、忘れましたか?犯人が私でなければいけなかった理由ですよ。」
「!」
「ふふ、忘れていたのですね。仕方がありませんね、気長に待つことにします。私を犯人にした理由、聞ける日を楽しみにしております。」
ニコリと頬笑み道をあければ、連行されていく。
きっと近いうちに理由を聞けることだろう。
「ユリアさん!無罪おめでとう!!報告ついでに会長のところへ行って今後の予定を詰めよう!!」
「リッド侯爵、お仕事はよろしいのですか?」
「大丈夫さ!!少しだけだからね!」
「少しって……。」
この人、少しとか言いつつ二時間くらい普通に居座ってるんだよなぁ。
「今日は息子を紹介するだけだからね!しばらく忙しくなりそうだからね!仕方なくね!!」
どうやらようやく、シノア様のお兄様と会えるらしい。
少しだけ楽しみだ。
「好きになっても良いからね!」
モブキャラとは言えど、距離感ある付き合いをしようと思う。
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