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コースター辺境伯の計画

いつでも独立できるように。

どんな状況でも生きていけるように。

何があっても、前を向けるように。


私達はずっと前からこの計画をたてていた。


「ラチェット様、助けてくださりありがとうございます。ありがたく招待受けますので、参加者名簿ください。」

「開口一番ソレか。」


会長席に座りながら、ペンを置き見上げてくる。


「裁判の方はまだ終わってないと思うが?」

「そうですね。司法省の判断に委ねてるので、気負っても仕方がないでしょう。」

「ハハハッ!さすが、野蛮令嬢!!王都の貴族にはない浅慮さだ!!謁見の間での判決がひっくり返る可能性を微塵も考慮していないな?いや、したうえでの対応か?いずれにせよ、正気の沙汰じゃない。」


褒めてるのかけなしてるのか、ひどく迷う言葉だ。

まぁ、ラチェット様のことだから普通にこの状況を楽しんでるのかもしれないけど。


「招待を受ける理由は、自分で判断するためか?」

「ソレ以外に何があるのですか?」

「私と仲良くなりたいとか。」

「ラチェット様のことは商会会長としてはとても尊敬しておりますが、ソレ以外の感情は皆無です。」


というか、こんなテンションの高いモブキャラと一緒に居られない。

私は攻略対象とどうこうなりたいわけでもないし、王都に居続けるつもりもない。


領地に帰って、やるべきことがある。


「ハハハッ!やはり、面白いな!それでこそ、コースター辺境伯だ!」


ラチェット様が笑みを消し、息を吸い込む。


「…………私の家族に、帝国との繋がりが疑われる者が居る。」

「…………。」

「驚かないところを見ると、調べはついているな?」

「まぁ、そのくらいは。」

「ククク、素直だな。」


ラチェット様が机の上に紙束を乗せる。

商会の帳簿とは違うソレに眉を寄せ、手に取る。


わ、コレって……!


「……良いのですか?コレ、持ち出したことが知られれば無事では済まないですよ。」

「問題ない、ソレは写しだ。」

「…………この束全部?」


軽く五センチはありそうな紙束ですが?


「あぁ。」

「すご……。よく写せましたね……。」

「私にかかれば造作もない。」


うん、さすがメインヒーロー攻略のお邪魔キャラ。

正確にはお邪魔キャラじゃないけど。

私からすれば悪役令嬢よりもよく名前を聞いたモブキャラとして君臨している。


ヒロインどころか悪役令嬢との逢瀬も邪魔していたであろう貴方のことは転生する前から忘れられない人です。


「私の手助けをしてくれる理由はなんですか?」

「!」

「王妃毒殺の容疑者になった私を調べるのは理解できます。仮にも副会長の肩書を預かっていますから。でも、コレは違います。完全に、コースター辺境伯の問題です。ラチェット・カルメーラが動く理由がない。」


この人は最強のモブキャラ。

メインヒーロー攻略時に必ず出てくるモブキャラ。


今のところヒロインが殿下を攻略できる気配はないし、悪役令嬢がヒロインに嫉妬するという雰囲気も今のところはない。


何より、私とお嬢様の関係をラチェット様は知らない。


「…………私は、オズワルドに恩がある。」

「お父様に?」

「その恩を返したい。こんなことで返せる恩ではないし、喜ばれないのも重々承知だ。私は、家族と縁を切ってでも、この商会を成功させて、君と……、コースター辺境伯と交わした契約を遂行させる。」

「!!」

「安心したまえ。コースター辺境伯領に商会の駐在所を作る手はずは整っている。」


その言葉にポカンとすれば、ラチェット様が一枚の紙を差し出してきて。


「コースター辺境伯当代当主であるオズワルドに許可をもらい、二日後には着工工事に入る。工事業者はコースター辺境伯領の領民たち。オズワルドの指示だ。」


この一枚の契約書にはお父様の条件が、事細かに書かれている。

その一つ一つに会長であるラチェット・カルメーラは同意したことも証明されている。


「全く。設計図どころか資材も全部商会で用意するというのに、領民に建設させると言い出すとは思わなかったぞ。いくらなんでも排他的ではないか?」

「私達にとって領地の外……王都から来る人間は良い印象がありませんから。また逆も然り。」


お父様は今回のこの建設で、新しいことを学ばせようとしているんだろう。

学び舎で教えきれなかったこと、自分たちで家を建てることができるようになった皆に教えるのだろう。

お父様も皆も素人だけど、そこらのプロに負けないくらいの技量は持っている。


「コースター辺境伯領の支部には、理解あるものを配属する予定だ。揉め事は起きないだろう。」

「細やかな配慮、感謝します。」

「このくらいは当然だな。商会として、あんな辺境地に売上なんて期待もできないと言う声もあがっていたが、俺はコースター辺境伯領(あそこ)が重要な土地であることを認識している。この王国に出回っている食物のほとんどがコースター辺境伯領のものだ。王位争い以降、出荷が減っているとは言え、国内一なのは変わらない。」


王位争い以降、痩せた土地のために色々と手を打った。

行商人からボッタクリだろうと闇商人だろうと苗を買った。

あ、もちろんちゃんと適正価格に引き下げさせてからだけどね?


「あそこで売上が出れば、帝国にも噂は広まる。」

「商会を国外に広げるつもりですか?」

「当然だ。商人は情報屋だ。何より帝国に商会を出せれば、コースター辺境伯領に手を出す必要もなくなるとは思わないか?」

「…………頻度は減っても狙われる理由は改善されませんね。何より、それだけで攻め込まれなくなるのら、私達は苦労してませんよ。」

「ふむ、それもそうか。」


でもまぁ、その気持ちは嬉しいから。


「ありがとうございます、ラチェット様。そのお気持ちが嬉しいです。なので、ラチェット様も覚悟は決めておいてくださいね?私、手加減するつもりはないので。」

「あぁ。だが、その前に自分の無実を証明して生き残るんだな。」

「えぇ、そのつもりです。」


そのために私は一週間も地下牢に閉じ込められて、監視の目を全てこちらに向け、みんなを自由にしたんだから。

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