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嘘つきの代償

ルナが届けてくれたシーツのお陰で久しぶりにぐっすりと眠ることができた。

布団には、少し歪なラベンダーのポプリが縫い付けられていたから、屋敷の誰かが作ってくれたんだろう。


ロイドやアルベルトは環境上縫い物が得意だし、ソフィアには仕事をお願いしてる。


「んー!はぁ……。ココも飽きたなぁ。」


空の見えない空間。

毎日同じスープとパン。

スープなんて毎回投げられるから飲めない状態だし、パンも美味しいけど口の中の水分が奪われていく。


ま、このくらいは王位争いの頃に比べれば全然マシなんだけどね。

食べ物があるだけ、全然良い。


「…………来たわね。」


ぞろぞろと重たい足音が地上から聞こえてくる。


その中でも一つ、聞き覚えのある足音の主に笑いかける。


「行き先は裁判所?」

「謁見の間だ。」

「あら。」

「あらゆる貴族が立ち会う。覚悟は良いか?」


甲高い音をたてて檻が開く。

松明の光がゆらゆらと揺れ、影が不気味に映る。


「もちろんです。」


檻の外へ出ると同時に軽くストレッチをする。

私のその行動を黙って見守り、手錠を差し出してくる。


「ソレつけて、私が無罪だった場合どうするつもりですか?」

「ユリア嬢、貴方は無罪だ。でも、多くの貴族はソレを知らない。」

「…………。」

「すまない。」


心底申し訳無さそうな殿下に息を吐き出す。


両手を揃えて前に出せば、手枷がはめられる。

モブキャラ転生して手錠をはめられるなんて思わなかった。


「さっさと行きましょ。手首が気持ち悪いわ。」

「驚くほど君はいつもどおりだな。」

「当然です。慌てても仕方がありません。」


殿下と騎士団に挟まれながら地下牢を出て、謁見の間へ。


うわぁ、本当に貴族が集まってる。

よっぽど暇なのね。

あ、お嬢様。


ニコリと笑えば、泣きそうな顔で笑う。


視線を前に向ければ、陛下がこっちをジッと見下ろしていて。

こうして見ると、お父様と戯れていた人には見えないな。


「久しいな、ユリア。色々と苦労をかける。」

「ええ、全く持ってその通りですね。」


私の態度に周囲がざわめく。


「これより、王妃暗殺未遂の容疑者、ユリア・コースターに口頭試問を執り行う。」


陛下の言葉に場は静寂に包まれる。


「ユリア、そなたには王妃暗殺の疑いの容疑がかけられている。」

「無罪を主張します。」

「証拠があるらしいが。それでも、無罪を主張するか?」

「えぇ。私を容疑者にするための、でっちあげられた証拠品だと主張し、証拠品の提示を求めます。」


そう言えば、陛下の眉がピクリと動く。


その反応にニコリと微笑みかける。


「無罪を主張する罪人に証拠品が提示されるのは至極当然のこと。司法省の裁判でも、証拠品は開示されます。当然、私を有罪たらしめる証拠があるんですよね?」

「うむ、それもそうだな。己の罪を見つめるには必要なものか。書記官長。」

「こちらに。」


謁見の間でのやり取りを書き取りしていた書記官長が、証拠品の束を陛下に差し出す。

その中の一つを手に取り、こちらを見る。


「この証拠品には一週間前の明朝、王妃に毒を盛ったユリア・コースターが多数目撃されたと報告がある。これについて言いたいことはあるか。」

「一週間前の明朝、ですか。」

「あぁ。」

「残念ながら、ソレは私ではありません。見間違いでしょう。」

「ソレを証明するものはあるか?」

「私の入牢記録を確認していただければわかりますよ。私、一週間前の明朝ならすでに地下牢に入っております。」

「そうであったな。ココに記載された日付の前日には地下牢に入っている。だがまぁ、記録違いということもある。一応確認しよう。」


陛下の合図で、書記官長が離れていく。

おそらく、目的の物を取りに行くのだろう。


「では、入牢記録が届くまでの間に次の証言を確認しよう。王妃暗殺のために闇商人と繋がりを持ち、毒を入手したと証言がある。」

「覚えがありませんね。ですが、私が忘れてるだけかもしれません。私が闇商人と落ち合っていた場所と日時、闇商人の名前、購入した毒物の種類……それらの開示を要求します。当然、ソレを証拠品として陛下に提出しているのですから、揃っているのでしょう?」

「残念ながらココには記載されていない。ただ、闇商人と会っているのを目撃しただけのようだ。」

「へぇ。ではその目撃者は私と会っていた相手が闇商人と判断できる材料をお持ちだったのですね。」


ニコリと微笑めば、陛下が顎をさする。


「それもそうだ。どこで判断したのかワシも気になる。この証言をした者を連れて参れ。」


陛下の命令に騎士団数名が動く。


一体誰を連れてくるのか楽しみだ。


「では次の証言だが……。これは嘘だな、確認するまでもなく。」

「?」

「ココに記載されている日時が学園で行われている剣術大会の日時なのだ。」

「あー。」


それはお粗末すぎる。


「あの大会にユリアが出場していたのは教師及び数多くの生徒が見ている。学園支給の木刀を折るような逸材の女性剣士がユリア以外に居るのであれば、ぜひともお目にかかりたいものだな。」

「…………。」


ソフィアならできるかなぁ。

いや、ソフィアは力はないから折れないか。


というかココでできる人居ますとか言っちゃうと剣術大会には偽物が出ていたとか言われかねない。


「む、書記官長が戻ったようだ。」


渡されたファイルのようなものを確認する陛下。

ソレを眺めつつ、書記官長に視線を向ければ瞬きを数回。


視線を周囲の貴族に向ければ、覚えのある気配が三つ。

姿は確認できないけれど、この場に紛れ込んだのは間違いない。


「ふむ。ユリアの入館に立ち会った者はその場で手を上げろ。」


ちらほらと上がる手。

陛下があがった手と手元の記録を見る。


「ギブハート団長、入牢日は。」

「剣術大会最終日の深夜です。」


続いて手をあげている騎士団員たちに質問していく陛下。


「うむ。入牢記録と同じだな。」


手をおろせとの合図で騎士団員たちが安堵の息をこぼす。


「偽の証言か……。闇商人の目撃者はまだつかんのか。」

「そ、ソレが……。」

「なんだ。」

「証言をしたのは私ではなく王妃だと喚き散らし、同行を拒否しており……。」

「はぁ……。王妃共々連れて参れ。」

「は……ですが…………。」

「かまわん。」


力付くで連れ出すことに決めたらしい。

さすが陛下、そういうところが国王たる所以だろう。


「すまんな、ユリア。」

「謝るくらいならこの手錠外してください。偽の証言が二つ。ソレが証明されただけでも私の無罪主張は通じるかと思うのですが。」

「それはならぬ。」

「なぜ?」

「もしもがあるからだ。」

「なるほど。では証言者次第ってことですね。」


ニコリと微笑む。


「私の無罪が証明された時、どんな罰を与えるのか楽しみにしております。」


謁見の間の扉が大きく開く。

それだけで、誰が現れたのか聞かなくてもわかる。


振り返り、道を譲れば王妃がその場で一礼。


「すまぬな。体調はどうだ。」

「ずいぶんと良くなりました。良い薬を手配していただいたおかげです。」

「!」


書記官長を見れば目元をほころばせる。

もう届けたのか。

さすがだなぁ、お父様が色々と手を回したのかもしれないけど。


「そうか、そうか。まだ本調子ではないだろう。こちらへ座ると良い。用があるのは、そこの侍女なのでな。」

「では、お言葉に甘えて。」


王妃が陛下の隣に腰掛ける。

うん、謁見の間って感じ。

さっきまでその空席が寂しかったんだよねぇ。


あぁ、この二人のこの並んだ感じ。

その他のスチルであったなぁ。

条件なしで出るスチルだったから、何回も見たことある光景だ。

転生してから見るのは初めてだけど。


王都に来てすぐお父様と挨拶に来た時は陛下一人だったし。


「ソリュート侯爵夫人。貴方が証言したユリアの罪について確認したいことがある。」

「な、なんなりと……。」

「ユリアが闇商人と落ち合っていた日時と場所はどこだ。」


陛下の声が静かな空間によく響く。

証言者として連れて来られた侍女は顔色悪く震え、玉座を見ないように必死だ。


「ず、随分前のことなので正確なことは…………。」

「一ヶ月前のことだと証言しているようだが?」

「そ、そうです。一ヶ月前のゆ、夕刻です。」


助かったと言わんばかりに頷いて、言葉を発する。

陛下は真剣な表情で顎を撫で、私を見た。


「なるほど。では、なぜ闇商人だと判断した?判断した材料はなんだ?」

「そ、れは……。」


震える声音をごまかすように、祈るように手を組む仕草を見せる。


「きょ……許可を得た商人は、商会のマークが入った小物を持ち歩いてると聞いたことがあります。その商人には目印になるようなものが、何一つあひ、ありませんでした。」


緊張のあまり噛むソリュート侯爵夫人。

陛下が何やら思案する素振りを見せ、隣に座る王妃に視線を向ける。


たったそれだけの仕草に、助かったとでも言いたげに表情を緩める。


「王妃よ、侍女に外出許可を出したか?」


その質問に侍女の笑顔が固まる。


「いいえ、陛下。ですが、使いに出てくれていた可能性も否定はできません。」

「ふむ……。ソリュート侯爵夫人よ。見かけたのが夕刻ならば、顔は確認できたか?」

「み、見たような気はしますがよく覚えてはおらず……申し訳ございません。」

「背格好はどうだ?」 

「彼女とあまり変わらなかったと思います。」


震える顔を隠すように頭を垂れる。

その口角がうっすらと上がっているのは私しか見えてないだろう。


全く。

私をはめるには証拠不十分だわ。

大きく息を吐き出す。


覚えのある気配が三つ、さっきよりも近づく。


「陛下、ユリア・コースターの無罪を裏付ける証拠を持って来た方が居るのですがお通ししてもよろしいですか?」

「何?」

「…………。」

「……ふむ、よかろう。連れて参れ。」


その合図で大きく扉が開く。


「はーはっはっはっ!私が来てやったぞ!?感謝するが良い!!」


誰が来たのか、振り返るまでもない。

でも、どうしてココに……。


「闇商人がどれかわからないから一通り連れて来ました。これが、この者らの調書です。」

「ふむ。ところでラチェット。なぜ、そなたがココに?」


ラチェット様から調書を受け取り、最もな疑問を陛下が口にする。

ソレに同意するように周囲の貴族たちもラチェット様に注目する。


縛られて連れて来られた人たちは猿ぐつわまでされている。


「大切な商会会員が騎士団に連れて行かれたのです。会長として、事実がどうか調べる責任はあるでしょう?」


ラチェット様の言葉に貴族がざわめく。


「王妃暗殺者を雇っているなんて、我が商会の存続と信用にも関わる問題、放置するほうが危険です。」


ラチェット様の視線が陛下から私に移る。

そして、上から下までじっくりと見て頷く。


「手錠がかかっているということは事実だったか。残念だ、野蛮令嬢。短い付き合いだったが達者でな。」

「もうちょっと信用してくれても良くないですか。あとその呼び方やめてください。」


思わずいつもと同じように返せば目をパチパチと瞬いて。


「野蛮令嬢ならやりかねないと正直思っていた。オズワルドには私からもちゃんと説明しておこう。」

「諦めないでください。ラチェット様の調書に私の命賭かってるんです。」

「安心しろ。アレは、この者たちの調書だ。野蛮令嬢の無実を証明するには弱いだろう。」

「会長、何しに来たんですか。」

「王妃を毒殺しようとしたのがユリア・コースターかどうかを確かめに来ただけだ。いわゆる野次馬だな。」

「すみません陛下、この人ぶん殴る許可ください。」


この人本当に、モブキャラとして最強の位置づけだからって油断してるんじゃない?

領地に商会の行商人を定期的に向かわせる約束は済んでるから、ココで殺っちゃっても問題はないハズだ。


「まぁ、落ち着け。ラチェットの調書によればこの者たちが悪徳な商売をしていたことは間違いなさそうだ。主等、そこの令嬢を知っているか?」


連れて来られた面々が怯えつつ私を振り返るとブンブンと首を勢いよく振る。

だけど、その中の一人が何度も頷いて。

陛下の合図で猿ぐつわを外される。


「知ってる!!俺、コースター領に行商で行ったことある!!お代、上乗せして告げたら適正価格で売るつもりがないなら二度と来るなって告げて来た人!!アンタ、コースター辺境伯領の貧乏貴族令嬢だろ!?」


飛んでくる殺気にも似た怒気に、足の裏で地面を打つ。


霧散する殺気にため息一つ。


「言葉には気をつけなさい。」

「ご、ごめ……じゃなくて、申し訳ありませんでした!!俺、間違えても絶対に喧嘩売らねぇよ!!んな

命知らずなことしねぇ!!」


男が喚く。

俺は無実だ関係ないと叫びまくる男に再びさるぐつわがはめられる。


「ずいぶん怯えられているな。」

「トラウマなんですかね?大したことはしてないのですが。」

「何をしたんだ?」

「本当に大したことはしてませんよ。ただ、ちょうど帝国が攻めてきたので、先陣切らせてあげただけです。」

「…………。」

「その商品に見合った適正価格というものが存在するのでしょう?提示された額にふさわしいかどうかを試す機会がタイミングよく訪れたので、送り出してあげたんです。」


ま、あんなにビビられるとは思ってなかったけど。


シーンと静まり返る人々の空気を変えるように陛下が咳払いを一つ。


「この者たちの行動記録によると、ソリュート侯爵夫人、そなたが接触していたという記録しかないな。」

「な……!何かの誤解です!!私は、何も……!!」

「陛下、夫人のことをソリュート侯爵夫人と言うのは間違いです。ココに、ソリュート侯爵からの離縁状と夫人の今までの悪事の数々を記した書記があります。」

「は!?離縁状!?私は何も聞いておりませんわ!!」

「毒物の購入記録に許可の無い外出、王妃の専属医務官不当解雇の証拠品……あらゆるものを提供してくださったソリュート侯爵からの、ありがたい離縁状だ。すでに司法省にて認可された書類だ。大切にすると良い。」

「は…………。」


ラチェット様は至って真面目な顔でソレを夫人に優しく握らせる。


「ソリュート侯爵は良い人だな、夫人?」


そう微笑みかけるラチェット様は、最強のモブキャラに相応しい笑みを浮かべていた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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