悠々自適な監禁生活
ガシャンと檻が鳴る。
「…………ふぅ。」
容疑者でもないのにこの対応。
ギブハート団長と陛下は私をちゃんと来客対応するつもりだったみたいだけど……、どうやら黒幕が動いたらしい。
どーせ、王妃様の御身が危ぶまれ〜とか言ったんでしょーけど。
「ほら、食え。お前の飯だ。」
投げ捨てられるように渡される木皿に乗ったパンとシチュー。
中身はほとんどこぼれて食べられそうにない。
落ちたパンについたホコリを払い落とす。
うん、こっちは食べられそう。
「作った人に感謝が足りないわね、貴方。」
「あ?何言ってんだ?」
「料理を作った人への敬意が足りないって言ってんのよ。アンタ、この料理がどれだけの時間と食材を使ってるか知ってる?」
「知るわけねーだろ。俺の仕事じゃねーし。」
あぁ、そうか。
王都の貴族にとって、料理を粗末にすることはそれ程度のことなんだ。
十年前も三年前も、この人は死ぬかもしれないという恐怖を味わうことがなかったんだ。
「…………そう。ソレもそうね。」
「当然だろ?俺は貧乏貴族の辺境伯令嬢とは違うんだっつうの。こんなパン一つで必死になる必要なんかのーの。」
ケラケラとココの見張りを任されたのであろう、黒幕の息がかかった騎士団員が笑う。
「お前がやったって認めたらまともな飯が運ばれて来るかもな。」
「私、身に覚えのない罪なので。」
「……いつまでそう強気で居られるか見ものだな。」
騎士たちが松明を持って離れていく。
また、暗闇が訪れる。
「警備もずさんね、ホント。」
少し硬くなったパンにかぶりつく。
こんな牢獄の中でマナーがどうのって怒られることはないだろう。
「…………。」
仕込んでいた針を取り出し、スープが染み込んだ場所に付ける。
あーあ、やっぱり。
「コレは仕込まれた毒と同じかしら?それとも、別のもの……?」
というか、アイツら毒を仕込んだスープを台無しにされた腹いせに怒られれば良いのに。
食べ物を粗末にするヤツは、嫌いだ。
「……美味し。」
人の気配と少し駆け足の足音が響いて近づいてくる。
「ユリア嬢!!」
「あら殿下、ごきげんよう。どうしたんですか?そんな血相変えて。イケメンが台無しです。」
「どうしたじゃない!!どういうことだ!!」
「さぁ?誤認逮捕ってヤツですね。王妃様が毒殺されかけた罪が私のせいになってるんですよ。」
「…………、貴方にはできない。剣術大会に出て居たのだから。」
そう。私にはできない。
でも、そんな単純な話ではない。
「まぁ、心配しないでください。一週間もせずにこの騒ぎは解決しますから。」
「!何か勝算はあるのか!?」
「え?むしろ無いと思われてたんでしすか?心外ですね。私、ちゃんと考えがあってココまでついてきました。まぁ、まさか地下牢に入れられるとは思いませんでしたが。団長も陛下も私を客人としてもてなすと言われていたのに。」
「それは……、すまない。本当に。」
「まぁ良いですよ。あ、でも殿下ココに入って来れるってことは私の罪は確定してないんでしょ?お願いがあるんですけど。」
「?なんだ。」
「お嬢様にはココに居ること言わないでくださいね。心配かけちゃうので。もしバレたとしても、私には私の計画があるので、口出しせずに安心していてくださいと伝えてください。」
「わかった。最善を尽くす。」
その返答にニコリと笑う。
さすがメインヒーロー、物わかりが良くて助かる。
「あぁそれから。ココに椅子と机、お願いします。それから便箋も。三つ揃えられたら嬉しいですが無理でも一つくらい用意してください。」
「わかった。ユリア嬢が無罪なのは明らかだ。なんとかなるだろう。他に必要なことはあるか?」
「一日一回湯浴みしたいので、お願いします。監視つけても良いですけど女性でお願いします。」
「わかった。手配してくる。」
殿下が来た時同様に足早に立ち去っていく。
やっぱお城の中での出来事は回るのが早いなぁ。
この調子で行くと、明日中には生活用具一式揃いそうだな。
「さて、何人釣れるかな。」
今頃、私の汚名を大々的に流していることだろう。
その汚名を返上するすべも全部、用意してるけど。
「……スー……ハァ。」
失敗すれば死ぬ作戦。
だけど、死ぬつもりはない。
私は、負けない。
湯浴みの許可は取れたらしい。
監視はついてるけど、問題ない。
「お洋服はこちらに。」
「あ、大丈夫です。着替えだけ用意していただければ。」
「そのお洋服とコレしかないのにどうするつもりですか?何もできないお嬢様が。」
「あらヤダ。心配してくださるのね、ありがとう。とても嬉しいわ。でも、心配いらないわよ。だって私は貧乏貴族の辺境伯令嬢だもの。洗濯物得意なのよ。」
ニコリと笑い、洗剤と桶をひったくり湯浴みと同時に衣服を手洗いする。
前世の文明の利器が欲しい。
そう、洗濯機とか洗濯機とか洗濯機とか。
「っし。」
できるだけ絞り、新しい衣服を身につける。
ボロボロで、シーツに首の部分だけくり抜いたような……そう、言うならマラソンタオルのような…。
「へぇ、斬新な服ですね。王都で流行ってるのですか?」
「えぇ、最先端の衣服です。」
「へぇ。」
「貴族令嬢なら羨ましがると思いますよ、貧乏貴族の貴方ごときが着用するという事実に。」
「羨ましいですか?」
「ええ、とても。」
「本当に?」
「はい。」
「……そうなんですね!じゃあ、コレ、譲ってあげます!」
「は?」
「王都で流行りってことは貴方も持ってるのでしょ?やっぱりこういうのは慣れた人が着なくちゃ!私は侍女のお仕着せで良いので!」
「は?いや、は?何言って…………。」
「私、着方わからないので!あ、王都の貴族令嬢は一人で身支度整えられないんでしたっけ?脱ぐの手伝ってあげます!任せてください!私手伝いは得意なので!」
戸惑う侍女の身ぐるみを剥ぎ、身につける。
代わりに羨ましいと言っていたソレを渡してあげる。
「どーぞ!じゃ、私は牢獄に戻りますね!」
「ちょ、待っ……!!」
「いやぁ、王都はやっぱり最新ですねぇ。まぁ、貧乏貴族の辺境伯令嬢の私には一生手に取ることはないでしょうけど。」
ポカンとした顔をした侍女にニコリと微笑みかける。
「ま、待って……!」
泣いたって、許してあげない。
「この服はもらいますね。同僚にでも助けてもらってください。」
あ、洗濯紐。
コレももらって行こう。
地下牢とは言えど、干していれば乾くだろうし。
湿気臭くなりそうだけど。
「おまたせしましたぁ。帰りましょうか、地下牢に。」
騎士団員に連れられて再び地下牢へと戻る。
道中、何やら小声で話しをしていたが仕事には関係なさそうなので放置。
ガシャンと音をたてて閉じられる檻の鍵に肩をすくめて。
「さすが殿下。用意が早い。」
小ぶりの木製のテーブルと椅子が用意されていて。
便箋が置かれている。
ペンとインクも用意してくれている。
「わ、コレ良いペンとインクだ。さすが殿下。」
こんな一級品の物を求めたわけじゃないのに、すごい。
カベについた傷と突起を利用して洗濯紐を引っ掛ける。
そして洗っていた衣服を干す。
まぁ、簡易的ではあるけれど、目隠しにもなるし一石二鳥だ。
「まず今日わかった敵側の情報ね。」
暗闇の中、目をこらして紙にペンを滑らせる。
夜目がきく野生児で良かったと今ばかりは思う。
まぁ、多少読めない字を書いたとしても支障はないけど。
「もらった手紙の対処もしなきゃいけないし、お願いしている件の調整もしなきゃいけない。せっかく副会長になったんだから、一つくらいは仕事しないといけないなって思ってるのに。」
こんな牢獄じゃできることなんか限られてる。
ん?
「誰。」
気配の主を見る。
顔を覆っているのか、顔が見えない。
「布団一式、お持ちいたしました。」
聞き覚えのない女性の声。
鍵が開き、檻がゆっくりと開けられる。
「陛下からです。寝心地は悪いだろうが、耐えてくれとのことです。」
「助かりました。」
「それでは。」
「外の様子はどうですか。」
「貴方を処刑台へと連れて行く準備が進んでおります。数日以内にはココから出ることができるでしょう。」
「そう。ソレがわかっただけでも充分よ。」
「幼い城使えから伝言です。」
「!」
「頑張ります、と。」
あぁ、そうか。
ロイドたちが動いているのね。
「わかったわ、ありがとう。」
「…………。」
「私も頑張るわ。」
この気配だけの女性は、侍女長に認定された“影”で間違いないだろう。
想定よりも腕が立つ人らしいし、安心だ。
ヒロインが城内のモブキャラ使って悪巧みする前に、どうにかして欲しいと思う。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




