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信頼 Sideソフィア

ユリアにお願いされて、ワイナール侯爵邸を訪れて。


「リッド侯爵に取次をお願いします。」

「何度も言わせるな。訪問の話は聞いていない。」

「急ぎです。コースター辺境伯の遣いだと伝えていただければ伝わりますので!どうか、お願いします!」


私にはもう、時間がない。

ユリアが何をしようとしているかなんて、聞かなくてもわかる。

どうせ、危険なことするつもりなんだ。


あの目をしたユリアは、止められない。


「お願いします!リッド侯爵に会わせてください!!」

「その手紙を渡したいだけだろう?渡しといてやるから、さっさと帰れ。」

「駄目です。コレは、直接リッド侯爵様に渡すように言われております。」

「だから渡しておいてやる。」

「拒否します。」

「俺が信用できないってのか!?」

「はい。」

「…………ッッッ。」


命令はされていない。

だけど、ユリアが直接渡すようにと言った。

それには少なからず意味がある。

ユリアは……領主様たちは、意味のないことは絶対にしない。


「……、旦那様は外出されている。いつ帰って来るかもわからない。それでも渡さないってのか?」


この門番、しつこいな。


「それでは私はこちらで待たせていただきます。」

「は……。」


このくらいの屋敷なら侵入可能。

だけどユリアはソレを望んでないように思う。

急ぎだと言われたけれど、リッド侯爵の居場所も言わないのであれば仕方がない。


「本当に外出ならば、問題ないでしょう?私はココで待たせていただきます。」

「お前、ワイナール侯爵を出待ちするつもりか!?切り捨てられても文句言えない立場だぞ!?」

「他家の侍女を許可なく切り捨てるようなお方だと?」

「だ、誰もそんなこと…………っ。」


うろたえる門番の男を鼻で笑い、距離をあけて待機する。


正直強行突破したい。

だけど、ソレはユリアに迷惑をかけるかもしれない。

何かをしようとしているユリアの足手まといにだけはなりたくない。


かと言ってココで帰るという選択肢は私にはない。


最短で、ユリアのお願いを遂行する必要がある。


「門番が客人と言い合いしていると近隣で噂にでもするつもりか?」

「!!」


チラリと見れば、屋敷の方から歩いてくる領主様より少し若く見える人。

この人が、シノア・ワイナールの……?


「貴方も帰りなさい。主人の面子を潰したくはないだろう?」

「申し訳ありませんが、それはできません。」

「できない?」

「はい。私、お嬢様よりリッド侯爵に直接お手紙を渡すようにと申し付けられ、ココに居ます。」


家紋の入ったお仕着せのリボンを見せるように整えれば目を見開いて。


「リッド侯爵は外出されているとそこの門番に言われましたので、貴方が本物のリッド侯爵であると証明できるものがない限り、私はココを動くつもりは毛頭ありません。」

「ふむ。」


この人だと思う。

だけど、勘で動いて間違えていたら?

私は、ユリアの足手まといにしかならない。


「ハハハッ!良いね!すごく良い!!うん!やっぱり良いなぁ、コースター辺境伯は!!」


ポケットから当主の証である指輪を取り出し、差し出してくる。


「本物かどうか手に取って良いよ。君は、わかるだろう?」

「…………失礼します。」


手を伸ばし、その指輪を手に取る。

彫刻に乱れはない。

学び舎で教えられた王都の貴族が所持する当主の指輪。

偽造すればすぐに分かると言われた。

そして、本物ならそれなりの重さがあるし、台座の部分が開く。


門番から見えないように持っていた手紙で視線を遮り、開く。

そして元あったように閉じて、差し出す。


「本物の当主印だと判断しました。リッド・ワイナール様。ユリアお嬢様より、可及的速やかに目を通して欲しいと言付かっております。」

「あはは!良いね、やっぱり彼女はオズワルド先輩の娘だ!」


その場で封を開け、目を通す。

視線が険しく剣呑になっていく。


「…………なるほど。すぐに返事をしよう。ついてきなさい。」

「…………。」


促されるまま広大な敷地へと足を踏み入れる。

庭は少し手狭な気がするけれど、屋敷の中はとてつもなく広い。


屋敷の中だけでも何十人と気配を感じる。


「入りなさい。」

「失礼します。」


中に入れば、堅苦しい雰囲気のある部屋で。

多分ココが執務室。


「ソフィア・ローゼン。コースター辺境伯領、自慢の薬師。」

「!」

「ユリア嬢から薬の分析をお願いされてるね?その分析の手伝いをするように要請された。読んで良いよ。」

「…………。」


手渡された手紙に目を通していく。


「一週間以内に分析結果と解毒薬を持って王城へ。それが、君のお嬢様からの要請だ。ワイナール書記官長という肩書と君の薬師としての能力が奪還の鍵になる。」


グシャリと手の中で便箋にシワが入る。

絶対に、説教してやる。


「コースター辺境伯の屋敷よりもココのほうが安全だろう、足取りはつかないハズだ。悪いけど、ココの一室で頑張ってもらう。異論は?」

「ありません。」


それが、ユリアの導き出した最短の手段。

だったら私は、ソレに従うだけ。


「良いのかい?他のことを調べられないよ?」

「問題ありません。私がお願いされたのは薬の分析のみ。」

「…………よろしい。」


執務室の本棚を一つ抜き取れば、隠し扉が現れて。

その扉を開けば研究室のような器具がたくさん揃っていて。


学び舎で教えられた、王都でしか手に入らない器具たち。


「好きに使うと良い。他に必要なものは?」

「口の固い、貴方が信用できると思う知識ある者を助手として求めます。」


そう言えば、ニコリと楽しそうに口角を上げる。


「あー、良い。良いね。本当。君たちは、良い。コレも全部読みきったオズワルド先輩には本当に頭が上がらないね!ちゃんと僕が手助けしたって伝えてね?」


そう言ったかと思えば、執務室の方へと戻って行って。

パタンと部屋を出た音がしたかと思えば、すぐにまた扉が開いて。


「え…………。」

「オズワルド先輩が四日間限定でうちに滞在させるように依頼してきたお客だ。」


どうして、ココに…………。


「頑張ったな、ソフィア。大丈夫、領地の方も心配だけど、今はこっちが優先だ。」

「僕が手配した人物よりよっぽど信用できるだろう?」

「あ…、ありがとうございます。」

「ふふふ。彼がココに滞在できるのは四日間だけだ。ソレ以上は我々もリスクが高いからね。さて、王城へ運ぶルートは任せてくれ給え。君たちはソレを頼んだ。」


隠し扉がゆっくりと閉じられていく。


「お父さん。」

「母さんが領地で頑張ってる。私達も頑張ろう。大丈夫。領主様が闇商人が売りさばいてる薬のリストを持たせてくれた。合致するものがあるハズだ。薬は?」

「コレよ。」

「砕いてるね。もう半分は?ひょっとしてお嬢様飲んだ?」

「ううん、リッド・ワイナール侯爵が持ってる。手紙と一緒に入れられてたから。手分けして調べて欲しいって手紙に書いてあった。」

「なるほど。なおさら急がないといけないね。お嬢様のことだ、もう一粒持ってる可能性が高い。」

「……うん。ユリアなら確実に飲む。」

「調べよう、時間が惜しい。」

「分析からだね、了解。」


待っててユリア。

絶対に届けるから。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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