罠
モブキャラにはモブキャラの矜持がある。
私は王命を果たすために、ココに居る。
「アルベルト、ロイド。何があっても、出てきちゃ駄目よ。あと、ソフィアの支援よろしく。」
「姫さん、マジで言ってんのか?」
「大マジよ。ロイドをお願いね、アルベルト。ロイド、この屋敷の造りは頭に入ってるわよね?本気で頼んだから。」
「…………わかった。」
不満そうなロイドの頭を撫でながら笑う。
大きくなっても、こういう表情は昔と変わらないな。
「大丈夫、お姉ちゃんを信じなさい。」
二人の背中を押して促す。
「姫さん。」
物言いたげなアルベルトに笑って手を振る。
そうすれば険しい顔をして、ロイドの背中を押していく。
「終わったら説教な。」
ソフィアと同じような言葉を残すアルベルトに苦笑する。
さすが幼馴染と言うべきか。
「あ、あの、お嬢様。」
「どうしたの、ユミエル。」
「……、何かあるのですか……っ?」
不安そうな、心配そうな、怖がってるような。
そんな、表情。
「あるかもしれないし、ないかもしれない。」
「…………。」
「もしもに備えてるだけよ。」
ユミエルの頭に手を乗せれば、今にも泣きそうな顔をする。
「ふふ、そんな顔しないの。いつもみたいに笑ってなさい、ユミエル。」
「…………は、い。」
屋敷の外に覚えのない気配が複数。
「ユミエル、温かい飲み物淹れてきてくれるかしら?」
「わかりました。」
「ガゼル、ユミエルのこと手伝ってあげてくれる?少し不安だから。」
「かしこまりました、お嬢様。」
「お願いね。」
二人が厨房へと向かう姿を見送っていると、セバスが近づいてきて。
「ユリアお嬢様。」
「中に入りたいって駄々こねてる?」
そう尋ねれば苦笑して。
「よろしいですか?」
「えぇ、構わないわ。必要なら応接室へ。」
「はい。」
セバスが客人を迎えに行く。
そうすれば、無遠慮な足音を響かせて中へ入ってくる。
人数は……三人。
もう少し大所帯で来るかと思ったけど、そうでもなかったようね。
何もない応接テーブルに目を閉じる。
ドタドタと無遠慮な足音と扉を開閉している音がする。
ベロニカの注意を促す声が響き、ユミエルやガゼルが騒ぎを聞きつけて、駆けつける足音が聞こえてくる。
そして、何度目かの扉の開閉音の後、ノックとともに応接室の扉が開いた。
「失礼する。貴様がユリア・コースターだな。」
「…………。」
「貴様に王妃暗殺を目論んだ黒幕だとわかっている!大人しく投降しろ!!」
「…………。」
大人しく立ち上がり、三人に近づく。
そしてそのまま腰にはかれた剣を抜き取り、柄の部分で意識を手早く奪う。
「セバス、縛るもの。」
「こちらに。」
手早く縛り、猿ぐつわを噛ませて三人を転がす。
「外に転がしておいて。」
「かしこまりました。」
「い、良いのですかお嬢様。この人たち騎士団の人じゃ……。」
「大丈夫よ、偽物だから。」
「え。」
「これが正規の騎士団員だったら身辺調査からやり直すことをおすすめするわ。」
息を吐き出し、ソファに座り直す。
「ごめんね、結構荒らされたから掃除お願いして良い?」
「わ、わかりました!」
「お嬢様、お飲み物をお持ちいたしました。」
「ありがと、ベロニカ。」
「あぁっ!忘れてました!!ありがとうございます、ベロニカさん!」
ベロニカが小さく笑う。
そのいつもどおりの笑みに微笑み返していると、新しい気配が二つ。
セバスが対応しているのか、ゆっくりと顔を出す。
「お嬢様。」
「応接室にお通しして。」
「かしこまりました。」
セバスが再び客人を迎えに行くのを見届け、ベロニカを見上げる。
「そんな顔をしないで、ベロニカ。笑って見送って。」
「…………お嬢様は本当に似ておられますね。」
ベロニカが少し退がり、控える。
応接室に現れた二人の客人に視線だけを向ける。
「ユリア・コースター辺境伯令嬢とお見受けする。私は騎士団長ギブハート。貴方に、王妃暗殺の容疑が欠けられている。ご同行願います。」
「…………全くもって身に覚えのない容疑なのだけれど。」
「貴方が毒を所持していると通報がありました。」
「あらあら。その通報が、外に転がしておいた偽物騎士団員の雇い主でないとイイわね。」
茶器を置き、ギブハート騎士団長を見る。
苦虫を噛み潰したような瞳で私を見ると、グッと拳を握りしめて。
「無罪が証明されれば、すぐにココへお帰りいただけます。」
「団長…!!」
「抵抗しなければ手荒なマネもしません。同行、願います。」
「…………そこまで言うのであれば仕方がありませんね。一緒に行きましょう。あぁ、まだ容疑の段階なのであれば牢獄ではなく客室一室用意していただけますか?」
「監視はひどくなりますよ。」
「手荒なマネはしないのでしょう?でしたら大丈夫ですよ。私がうっかり殺してしまうような人を傍につけなければ、私は大人しく過ごします。」
「…………。」
「そういうわけだから、ちょっとの間、屋敷をお願いね。」
泣きそうな顔をする面々に笑いかける。
ユミエルとガゼルが何かを言いたげにこっちを見てくる。
「あらヤダ。なぁに、その顔。私は無罪なんだから大丈夫よ。普通にちょっと家空けるだけなんだから、笑って見送ってちょうだい。」
「おじょ、お嬢様……っ。」
「見送りに笑顔は基本よ?」
ニコリと微笑めば、セバスとベロニカが同じようにニコリと微笑んで。
「「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」」
いつもどおり、一糸乱れぬ所作で見送ってくれる。
ソレに目を見開いて唇を噛みしめると、同じようにお辞儀をする二人。
「さ、行きましょうか。」
「…………ずいぶんと、堂々としておられますね。」
「当然です。私にとっては戦地に赴くのと同義。臆せば死にます。それに私、無罪なので。」
「…………。」
「私が無罪だったら、誰が謝礼金払ってくれるのかしら。楽しみだわぁ。」
「…………貴方は、コースター辺境伯ですね。」
ニヤリと口角をあげる。
「そのコースター辺境伯に喧嘩を売った代償はきっちり払ってもらうつもりなので、楽しみにしていてください。」
「…………肝に銘じよう。」
あとは時間との勝負。
頼んだわよ、みんな。
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