折れたフラグと招待状
バキッと折れた二本の木刀。
領地なら組手が始まるところだけどココは王都で、しかも学園の剣術大会。
先生からの強制終了の合図にお互いに折れた木刀を見て先生にすかさず謝罪をしたのは言うまでもない。
笑って許してもらえたけど……、口角引きつってた気がしなくもない。
「あーあ。姉さんが大人げないから。」
「何よ!領地での訓練さながらに殺気飛ばしてきたロイドのほうが大人げないじゃない!」
「そうやってムキになるところも大人げない。」
「…………。」
「まぁまぁまぁ、姫さんもロイド坊っちゃんもそのあたりでやめておけよ。決着つかなかったからって外遊チケット無しになった事実は変わらないんだし。」
そう。そうなのだ。
チケットが先生たちの手によって没収された。
私としてはヒロインと殿下のフラグをバキッと折れたから良いんだけど……お嬢様と殿下のラブラブ旅行計画まで頓挫した……!!
この事実だけは……!!
「ごめんなさい、お嬢様……!殿下との旅行計画を台無しにしてしまいました……!!」
「そのことなんだけど……。」
「?」
「ユリア、貴方娯楽施設に興味あるって言ってたわよね?」
「そうですね。」
「行く?」
尋ねてくるお嬢様に首を傾げる。
「私、殿下との逢瀬の邪魔はしませんよ?お嬢様が行くのなら護衛として一緒には行かせていただきますが。」
決して二人の邪魔はしないので、そこは安心して欲しい。
「クロード様。決まりですわ。」
「わかった。」
「?お嬢様?」
「クロード様の誕生日プレゼントの行き先よ。実は少し前から計画をたてていたの。」
「残念ながら自国での小旅行になってしまうんだけどね。」
「!お二人のデートですね!バッチリ守りますので心配いりませんよ!」
「みんなもどうだろうか?」
殿下がにこやかにロイドたちに尋ねる。
さすが、メインヒーロー。
「お誘い嬉しいのですが、こちらで大切な仕事があるので。姉だけ連れて行ってください。アルベルトたちに関しても領地へ遣いに出す予定なので。」
「…………そうか。では、仕方がないな。」
本当に残念そうにする殿下に、内心謝る。
でも、仕方がない。
殿下の誕生日パーティーは、長期休みの間に行われる。
私の商会での計画もあるし、アルベルトは今じゃ立派な子爵で領主。
学園に通っている間に目を通せていない書類に目を通す必要がある。
「この国に娯楽施設が集合してるところなんてあるんですかね。」
「えぇ。会員制だから、誰でも入れるわけではないのだけれど……。」
「へぇ……。」
ヒロインも知らないんじゃないか、コレ。
というか、ヒロインでも入れない場所の可能性が大いにある。
「はーははははっ!!」
聞こえてきた笑い声。
「待っていたぞ!!野蛮令嬢!!」
聞き覚えのあるセリフ。
「その呼び方やめてください。」
ラチェット・カルメーラが仁王立ちで私達を出待ちしていた。
「クロードとレオナルドもご苦労であったな!!相手があのコースター辺境伯であれば、仕方がない結果!あまり落ち込むな!!」
「ありがとうございます。ラチェット兄上はどうしてココに?ユリア嬢を待っていたようなセリフに感じましたが……。」
「うむ!!コレを渡しておこうと思ってな!!」
渡されるのは一枚の封筒。
前回の時と同じようにお茶会の封筒かと思ったが、どうやら違うらしい。
「コレは?」
「オズワルドを招待する予定だったんだがな!王都での催し物は野蛮令嬢が出向くのであろう?」
「えぇ、そうですね。」
封を切り、便箋を取り出す。
後ろからアルベルトが覗き込んでくる。
「な……っ!!」
私の反応に満足したのかラチェット様がニヤリと笑う。
「そういうわけだ。ソレがどういう意味のものかはわかるだろう?待っているぞ、野蛮令嬢。」
立ち去っていくラチェット様を見送り、封筒を元あったように戻すとロイドに押し付ける。
本当、権力のあるモブキャラは難儀だわ。
どこまで見越してるのか。
「お嬢様、お休みをいただきたい日があります。」
貴方のその誘い、乗って上げるわ。
「良いわよ。いつ?」
「ソレを話し合うのに、今日コースター辺境伯の屋敷に帰って良いですか?お嬢様は今日殿下とお城に戻る予定でしたよね?」
「ふふ。わかったわ。」
「ありがとうございます。」
「貴方が勝手なのは今に始まったことではないから、良いけれど。言えるようになったら言うのよ?」
「はい。」
大丈夫ですよ、お嬢様。
王命通り、婚姻の儀まで守りますから。
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