午後の部開始
シード参加の私を入れて四人の戦い。
私、ロイド、殿下、レオナルド様。
モブキャラ二人に攻略キャラ二人。
「クロード殿下ぁぁあ!!頑張ってぇぇえ!!」
本当、ヒロインの声がよく響く。
チラリとお嬢様を確認すれば騎士団長とアルベルトの間に大人しく座っていて。
「お嬢様が応援してますよ、殿下。」
「あぁ、そうだな。」
「いやぁ、まさか殿下がロイドと当たるとは……。私も殿下とはしたくなかったので良いんですけどね。レオナルド様と当たるものとばかり……。」
「仕方がないだろう。前回の実績を考えるとレオナルドとユリア嬢が当たるのは妥当だ。初参加同士、頑張るよ。」
「お嬢様のために勝ってくださいね。」
「あぁ。」
舞台へ上がっていく殿下の背中を見送る。
チラリとお嬢様に視線を向ければ、一点集中と言わんばかりに殿下を見ている。
お嬢様、顔が険しいです。
あ、こっち見た。
トントンと眉間を叩けば、気付いたのかお嬢様が眉間に手を当てて恥ずかしそうに表情を改める。
そういうところが可愛いです。
「はじめッッッ!!」
ガキッと音をたててぶつかり合う木刀。
おぉ、ロイド強くなってる。
殿下、思ったより強いなぁ。
さすがメインヒーローか。
「クロード殿下ぁぁあ!!頑張れ〜っ!!」
ヒロインの声、いろんな人の歓声を押しのけて聞こえてくるんだけど。
どうなってんの、喉に拡声器でも仕込んでんの?
それともヒロイン効果ってヤツですか?
そうですか??
ヒロインの居るであろう場所を見上げれば、スチルイベントをバッチリ拝めるであろうポジションで。
去年私もそこ見つけて一人テンション上が……、ちょ、オペラグラス持ってない?
アレ、オペラグラスだよね?
剣術大会でソレ持って来る人始めて見たわ。
気持ちはわからなくもないけど。
にしても……。
「すごいなぁ、殿下。」
あの攻撃を真正面から受けてる。
力加減してるとは言えど、腕しびれるだろうに。
剣術の先生が良かったのね。
「……クッ。」
殿下のくぐもった声が聞こえたかと思えば、後方に飛んで。
だいぶつらそうだなぁ、殿下。
「…………。」
ロイドは余裕そうだけど。
ん?
「え〜。」
そこどけって。
仮にも姉に向かって、そこどけって合図しますか。
「はぁ。」
身体の位置をずらせば、ロイドがニヤリと口角をあげて踏み込む。
バチィッ!!
ひときわ大きな音とともに殿下の身体が場外へと吹き飛び、木刀が落ちる。
誰もが予想してなかった結果に会場が静まり返るのがわかる。
「殿下、大丈夫ですか。」
「あぁ……。強いな、彼は。」
ロイドが舞台から降りてくる。
「殿下、骨折れてないですか。」
「あぁ、大丈夫だ。ちゃんと受け身はとった。」
「良かったです。念の為医務室行きますか。」
「いや、このくらいなら問題ない。」
「ちょっとロイド!ぶっ飛ばし過ぎなのよ、アンタは!見て!お嬢様の顔!!顔面蒼白よ!?」
「申し訳ありませんでした。」
「ま、まぁ、本当に大丈夫だから。それより、ユリア嬢、貴方の番だ。」
「勝って来いよ、姉さん。瞬殺して来い。」
「レオナルド様は殿下の護衛よ?瞬殺なんてしたら反感買うじゃない。」
「できないとは言わないんだな。」
「ロイドみたいな殿下との打ち合いよりは瞬殺の方ができる。」
というか、力の差を考えたら瞬殺のほうが勝てる見込みがある。
「まぁ、行ってくるわ。殿下、痛かったらちゃんと医務室行ってくださいね。」
木刀を持って舞台へとあがればレオナルド様が怖いくらいに真剣な顔をしていて。
「あまり気が進みませんね、女性と向かい合うのは。」
「そんな心配必要ない相手だと、ご存知では?」
「えぇ。油断していると負けるのはこちらですから。殿下の護衛として、負けるわけにはいきません。」
レオナルド様がゆっくりと木刀を構える。
ピリピリとする、真剣勝負ならではの気迫と緊張感。
でも、お父様や帝国の軍勢に比べれば可愛いものだ。
殺気が混じってない分、呼吸がしやすい。
「殿下の代わりにマリア様にプレゼントしないといけないので。」
息を吐きながら、木刀を構える。
「はじめッッッ!」
合図で踏み込み、下段から斬りかかる。
体勢を崩して、数歩退がる。
木刀を手放さないのはさすがだな。
「…………っ。」
でもまぁ、負ける気はないけど。
木刀のぶつかり合う音が響く。
守りに入れば、力の差で押し負ける。
「……っそ!!」
一瞬の焦り。
ソレは、致命傷になる。
木刀を振り切れば、レオナルド様の手から木刀が離れてくるくると回る。
そして、カランコロンと音をたてて木刀は滑り落ちる。
手を抑えるレオナルド様に木刀を突きつけ、向かい合う。
「…………ま、いりました。」
「勝者、ユリア・コースター!」
木刀をおろし、息を吐く。
「レオナルド様、怪我は?」
「あぁ、大丈夫です。ただちょっと……。」
「…………。」
「思ったよりもユリア嬢の攻撃が重たくて、腕が痺れました。」
そう苦笑するから、ホッと息を吐く。
「決勝戦は五分後執り行います!!解散!!」
審判の先生の合図にチラリと観客席を見上げれば、アルベルトがお嬢様に声をかけていて。
あ、連れて来てくれるんだ。
え、ちょ、待って。
「アルベルト!?」
お嬢様を荷物みたいに抱えたかと思えば、観客席から飛び降りて来て。
ゆっくりと下ろすと、ふらつくお嬢様の手を引いてニカッと笑って近づいてくるから。
迷わずに走りより、思いっきり頭を叩く。
「イテェ!何すんだ、姫さん!!」
「何すんだはこっちのセリフよ!!アンタこそ何してんのよ!!緊急事態じゃないんだから、普通に階段で降りて来なさいよ!!お嬢様、大丈夫ですか!?」
「だ、だい、大丈夫よ……。」
フラフラしているお嬢様を支える。
「アルベルト!荷物みたいに抱えちゃ駄目!わかった!?」
「他にどう抱えるんだよ。」
「どうって……、横抱きとか!背負うとか!!」
「?でもその抱え方重たいし。裾なびいて下着見えるだろ?」
心底不思議そうなアルベルトに頭を抑える私。
恥ずかしがるお嬢様に、心做しか顔が赤くなる殿下とレオナルド様。
アルベルト、やっぱりアンタはどう頑張ってもモブキャラね。
「まぁ、それもそうね。」
「なっ!」
「でも!緊急事態以外はなるべく普通に階段を使うように!」
「えー、こっちのほうが早いのに。」
「文句言わずに返事!」
「気をつける!」
「……、はぁぁあああ。ごめんなさい、お嬢様。アルベルトに悪気はないんです。」
「え、えぇ。それは……わかってるから、大丈夫よ。そ、それよりクロード様。お怪我などは……。」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、マリア。」
お嬢様が殿下に近づき、本当に怪我がないかを確認している。
ソレ横目に捉えつつヒロインが居るであろう場所を見上げる。
攻略対象が負けたからか、呆然とした表情でこっちを見ている。
いや、正確にはメインヒーローと悪役令嬢を……か。
「そろそろ始めても良いですか?」
割って入ってきた審判の先生に頷く。
「頑張ってね、ユリア。」
「はい。ありがとうございます、マリア様。」
ニコリと微笑み、端っこへと移動していく。
観覧席に戻らずにそこから観戦するんですか、そうですか。
スチルバッチリポジションじゃないの……!
攻略対象誰も居ないけど!!
まぁ、近すぎて見えづらいかもしれないけど。
「姉さん、木刀。」
「ん、ありがと。」
投げ渡されるソレを受け取り軽く振る。
うん、大丈夫そう。
「俺コレ持って思ったんだけどさ。」
「ん?」
「領地のより軽いのな。」
「……そうね。」
言えない。
領地のはお父様の特注品で、木刀の芯を鉄にして絶対に折れないように工夫されてるとか絶対に言えない……!!
「ロイド・コースター、ユリア・コースター双方準備はよろしいですか。」
「「はい。」」
「それでは……はじめッッッ!」
合図と同時にロイドから殺気が飛んでくる。
久しぶりに手合わせする姉相手に容赦がなさすぎる。
ゆっくりと息を吐き出し、同じように向かい合う。
領地での手合わせを思い出す。
お互い同時に踏み込み、バキッと木刀が音をたてる
「……、木刀のほうが折れそうだな、コレ……!!」
「……、ええそう…ね!!」
二度、三度と打ち合って入れば木刀が嫌な音をたてる。
お互いにソレに気づき、距離をとる。
観覧席からの声はない。
「譲れよ、姉さん。」
「嫌。」
守りに入れば負ける。
ちょっと受けただけでこの腕のしびれ。
王都の剣士とじゃ味わえなかった感覚。
「…………。」
「…………、……っ!!」
振り切った木刀がバキッと嫌な音をたてて空を舞った。
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感(ー人ー)謝




