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剣術大会午前の部

本戦当日をなんの問題もなく迎える。

去年の怒涛の一夜がひどく懐かしく感じるくらいには平和だ。


現在、剣術大会の開幕式を終え騎士団長、マリア様、私の順番で観覧席に居る。


「ギブハート団長、騎士団の方は大丈夫ですか?」

「ご心配いただきありがとうございます。ですが、優秀な副団長に任せておりますので心配には及びません。まぁ、貴方がたコースター辺境伯からすれば、不安なるのは仕方がないかとは思いますが。」

「王都が平和なのはこの一年過ごせばわかりましたから。そんな目の敵にしないでください。」


ニコリと微笑めば、ムスッとした顔のまま会場に視線を向ける。


「副団長に勝ったらしいな。」


眼下では第一試合が始まり、モブキャラ同士の激しい剣技が繰り広げられる。


「私は手合わせしておりません。グレムート・キャンベル副団長と手合わせをしたのは私の弟です。」


歓声とともに決着がつき、すぐに次の組み合わせが舞台に立つ。


「手も足も出なかったと言っていた。」

「最高の褒め言葉ですね、ありがとうございます。」

「…………騎士団に入る気はないのか。」


なるほど、それが本題だったか。


「さぁ。それは弟に聞いてみてください。」

「…………そうだな。」


話は終わったのか、口をつぐむ。

間に挟まれて困った顔をしていたお嬢様に謝罪の言葉とともに預かっていた手紙を渡す。


「ステラさんから預かりました。」

「ステラから?」


それに素早く目を通すと、そのまま渡してくる。

読んで良いのかな、コレ。


「ステラも素直じゃないわよね。」

「え?」

「読めばわかるわ。」

「…………。」

「ね?」

「あの、お嬢様。ステラさんからの一文、私の気の所為じゃなければ、ユリアさんなんてボコボコにされてしかるべきですよね!と書いてある気がするのですが。」

「そう書いてあるわね。」

「えぇ…………、そりゃあ私も殿下が優勝してお嬢様と一緒に誰にも邪魔されずにデートに繰り出して欲しいとは思いますが……。」

「!?」

「私だって娯楽施設気になるので…………。」


お嬢様にチケットあげるけど。


「…………私、貴方のそういうところ、嫌いじゃないわよ。」


その時、ひときわ大きな歓声が響いて。


「さすが殿下、すごい人気です。」

「えぇ……。」


お嬢様が祈るように手を握りしめる。


可愛いなぁ、ホント。


「そんな心配しなくても大丈夫ですよ。」


なんせ殿下にはヒロインがついてる。


あれだけ応援されてたら、決勝戦まで残るだろう。

シナリオ通りに行けば、レオナルド様と殿下の勝負が見られるハズ。


そしてまさにその二人の戦いがスチルイベント!!

スチル!!かっこいい!ひゃーっ!!

て、画面越しにはなったなぁ。


残念ながらこの位置からだとあのアングルのスチルは目に焼き付けられないのだけれど。


「レオナルド様も殿下も順調に勝ち進んですね。」

「そうね。二人が当たるとすれば……。」

「第三試合ですね。なので、午後からです。」

「午後……心臓もつかしら……。」


心配そうに、困った顔をして微笑む。


「クロード様は勝つと思うの。だって、クロード様だもの。でも、もし、怪我でもしたら……。」

「心配いりませんよ。だって、木刀ですし。打撲、悪くて骨折です。それに、殿下に骨折れるくらいの力で打ち込む命知らず、そうそういませんよ。」

「「…………。」」

「なんですか、その目は。私はそんな命知らずなことしませんよ?」


折らないように手加減してる。

そりゃあ、ちょっと手加減できなくて木刀折っちゃったけど。

アレは相手モブキャラだったし。

眠かったし。


「去年ラチェット様相手には思い切り木刀を振ってるように見えたが。」

「当然です。ラチェット様は殿下ではありませんから。」

「それでもラチェット様は王族よ?」

「でも王太子じゃないでしょ?」


首を傾げる。


「それにラチェット様は剣の腕以外は、レオナルド様とそう変わらないと思います。大きな怪我はする心配ないですよ。」


力はあるし、勢いもあるし、迫力もある。

何よりアレだけの連撃を打ち込める。

適当に剣を振り回すだけのクセしてあの筋力は反則としか言いようがない。


「……あ、ロイド!ロイド〜!!」


呼べばこっちを見る。


「折っちゃ駄目よ〜!!」


木刀も骨も折っちゃ駄目よ、ロイド。

絶対に駄目。

ましてや貴族の骨なんて折った日には何を言われるかわからない。


「頑張れじゃないのね。」

「そうですね。勝ち進んで欲しいとは思いますけど、ロイドとは戦いたくないので。」


絶対にすぐ終わらないし。


ゾワッとした嫌な気配に振り返れば、マーシャル・タールグナーが居て。

ニコリと微笑まれたかと思えば近づいて来て、隣に座る。


一体、なんのつもり……?


「コレを。」

「…………なんですか。」


剥離紙……?いや、オブラートか?

何か、包まれてる……?


「毒薬です。」

「!?」

「どう使うかは、貴方に任せます。」


無理やり私の手にそれを握らせると立ち上がる。


「ま……!!」

「家族を危険な目に合わせたくないのなら、賢く使うことです。」

「…………っ。」


攻略キャラのくせに……!!

なんて卑怯な手を使って……っ。


ぐしゃりと手の中で包みが音をたてる。


落ち着け、落ち着くのよ私。

相手は攻略キャラ。

私はモブキャラ。

この世界で強いのはヒロイン、攻略キャラ、悪役令嬢であることは間違いないだろう。

モブキャラである私がどうこうしたところでこの毒薬がなくなるわけじゃない。


賢い使い方って、どうしたら…………。


「…………あ。」


ある、一つだけ賢い使い方。


「良かったわね、ユリア!ロイド様が勝っ……ユリア?」

「!」

「どうしたの?」


お嬢様と殿下を巻き込むわけにはいかない。

この二人にバレないように動かないと。


「いえ。弟が残って少し複雑な心境なだけです。」

「まぁ。でも、決勝に残るのはクロード様よ。」

「ふふ、私も負けるつもりはありません。」


黒幕の目的が私の排除なら間違いなく、この接触は私を陥れるものだ。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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