思惑 Side???
詳細を出してないキャラなので???表記にしてます。
ガシャンッッッッ
陶器の派手に割れる音が、扉の向こうから聞こえてきた。
「またか…………。」
ため息を一つ。
手をつけていた書類をそのままに、ペンを置く。
後で手をつけようとしていた俺にとって重要な書類を引き出しへとしまう。
そのタイミングで扉が大きく開かれた。
「兄上!!」
「せめて扉をノックしてから開け。最低限のマナーだ。」
ジロリと視線を向けてもどこ吹く風。
「兄上の命令で撤退した兵士の件で、どうして僕が怒られなければならない!!父上になんて報告したんだ!?」
「決まっているだろう。俺の管轄で誰かが無断で兵士を動かした。好き勝手するのは辞めろ、皇帝陛下のクセして部下の監視もできないのかと伝えた。」
「なぜソレで僕が怒られるんだ!!」
「知るわけないだろう。」
大方、この愚かな弟に己の罪をかぶせて自分の命令ではないと、周囲に認知させたかったんだろう。
まぁ、コイツはコイツで俺にちょっかいを出してきてるからな。
良い気味だ。
「もう良いか?俺は忙しいんだ。」
これみよがしに書類を指し示しペンを握り直せば、一枚ヒョイッと奪われる。
想定の範囲内だ。
「おい。」
「兄上、これ、僕が処理して良い?」
「はぁ……好きにしろ。」
「コレが処理できれば父上も、失脚させられる。もちろん、兄上も。」
「…………。」
「じゃあね、僕にこの書類譲ったこと後悔すれば良いよ。」
ごきげんな足取りで部屋を出ていく。
「はぁ……。」
引き出しに隠した書類に目を落とす。
「一年だ。一年かけて準備して、今年にはこの書類が日の目を見る予定だったんだぞ。」
なのに、俺の管轄で好き勝手してくれたバカどものせいで、一年延期になった。
どころか、この計画が頓挫するところだった。
「次邪魔したら、アイツらの首を獲る。問題ないな?」
「問題大アリです。」
今まで気配を消して、ひたすら俺が決裁した書類を仕分けていた従者が生意気にも口を出してきた。
「血濡れの玉座を彼女に与えるのですか?」
「…………。」
「貴方は冷酷非道ですし人畜無害とは程遠い人間です。それでも人らしいと彼女は貴方に笑いかけ、優しい人ねと言った。あの時の衝撃は忘れません。」
帝国が開発した一時的に容姿を変えることができる薬。
帝国でも一部の人間しか知らないソレを使用して、髪と瞳の色を変えている時に出会った。
だから彼女はあの時、自分が助けを求めた相手が帝国の皇太子だとは思ってもいないだろう。
“普通は恩人の名前を聞くものじゃないのか?”
“聞かない。だって、そんな格好をしていても、貴方からは貴族の気配がするもの。”
俺に助けを求めて来た時から、彼女の瞳には強い光が宿っていた。
意志の強い、鮮烈な光が。
“それに、私がどこから助けを求めてココへ来てるか予想ついてるんでしょ?”
“まぁな。”
“ふふ。それでも助けてくれるなんて、もの好きね。でも、ありがと。これで皆、生きられる。”
あの時、俺が下町で荷車いっぱいの食物を没収していなければ彼女は俺に声をかけることはなかっただろう。
悪徳商人を捕まえ、食物の今後を考えて居た俺に彼女は真っ先に声をかけてきた。
表立って動いている大人ではなく、路地裏の陰で潜んでいた俺に、何の迷いもなく。
「まぁ、あの頃から貴方の頭の中は彼女でいっぱいなようですし?別にとやかくいうつもりはありませんが、よくそんな相手と日々斬りあいできますよね、信じられません。というか、さんざん斬り合ってきた相手に────」
投げたペンを軽々と受け止められる。
「危ないでしょう、優秀な従者の替えはきかないんですよ?こんなにも貴方のために骨身を惜しまず働いているというのに……はぁあ。」
「うるさい。お前の手回しが遅れたせいで、一年延期になったんだ。今回こそ、確実に終わらせろ。半年以内だ。でないと、国王との謁見にも間に合わない。」
「貴方、本来なら学園に通える年齢ではないのですよ?弟君なら通えますが。」
「俺が通う以外の計画があると思うか?良いから半年以内に終わらせろ。あとは時間との勝負だ。」
「全く、人使いが荒いんだから。彼女が嫁いでくるとは限らないのに。」
「手に入らないならこの地位もいらない。勝手に衰退して勝手に滅べ。」
「君主としてあるまじき発言ですよ、ソレ。」
従者の抗議の声なんて聞こえないフリをして差し出されたペンをとる。
何のために王国との国境にある砦を任されるように仕向けたと思っている。
彼女が守りたいと願ったものを守るためだ。
帝国の未来も皇帝の狙いも知ったことじゃない。
俺がココに居るのは俺の望みのため。
想いが実らないのなら、意味もなさない。
だがまぁ……、彼女の平穏が守られるならソレで良いかとも思う。
「彼女が拒否したらどうするんですか?」
「俺がそんな逃げ道を用意すると思うか?」
「彼女の宝物でも人質にとりますか。」
その問いかけにニヤリと口角をあげれば、呆れたように息を吐き出す。
「貴方ほど帝国の皇帝に向いてる人はいませんよ。本当、人でなしでクソ野郎で最高ですね。」
「人聞き悪いこと言うな。立派な純愛だろ?」
「ソレが純愛なら世の中おままごとな疑似恋愛になるんで、純愛とか言うこやめてもらって良いですか?」
抗議してくる従者に小さく笑い、書類を押し付けた。
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