ヒロイン、ごめん
ヒロインが入学して数日。
攻略キャラが隣のクラスに居るというだけで、毎日飽きない学園生活を送っている。
というか、ようやくヒロインも現れてゲーム本編に突入って感じがして楽しみ。
今は殿下とマリア様が同じクラスだし、邪魔する人は居ない。
ただ、お互いの交友関係があるからベタベタし続けてるわけじゃない。
その一瞬の隙を狙ってる人は大勢居る。
それこそ、今に始まった話じゃない。
「ユリア嬢。」
「殿下!」
「少し良いか?」
何やら疲労感の強い殿下が、扉の外から呼んでくる。
「どうしたんですか、殿下。珍しくお一人ですし……マリア様やレオナルド様は??」
「それが…………。」
「お、殿下じゃん。どーした?顔色悪いな。姫さんに殴られた?」
「ちょっと。」
「いや、コレはユリア嬢のせいではないんだ。その…………、困った生徒が居てな。その対応にマリアたちが追われて居るんだ。」
「困った生徒?」
アルベルトが首をかしげるのと、パタパタと足音が聞こえてくるのは同時で。
「あ!居たぁー!!」
廊下に響いてるんじゃないかというような大声。
「アレか。」
「アレね。」
アルベルトと二人、大声の主……本作のヒロインを見る。
「どうして逃げるんですかぁ!?私は自己紹介して名前呼んでってお願いしただけなのにぃ。私はぁ、殿下に助けられてすっごくすっごく嬉しかったんですよぉ?だからぁ、その御礼に、一緒に食事でもどうですかぁ??」
「あの、だから私には婚約者が居て────」
「クロード様の婚約者はぁ、クロード様の行動に口出ししてくるような人なんですかぁ?えー?ソレって、束縛ですよぉ。ヤダ、こわぁい。」
「そういうことを言ってるのではなくてっ。」
「なんか騒がしいと思ったら姉さんか。今度は何したんだ?」
「ねぇ、なんで私が騒ぎを起こした前提なの?」
弟なんだからもう少し姉を信用してくれても良いと思う。
ムスッとしていれば、ロイドの後ろからソフィアとお嬢様が駆けて来るのが見えて。
「ねーえー、良いでしょ?恩返ししたいだけなんですぅ。」
ヒロインが殿下の腕に抱きつこうとするから、殿下の腕を引っ張って遠ざける。
キッと睨みつけてくるヒロイン。
「貴方が気軽に触れて良いお方ではありませんよ。」
「せんぱい、こわぁい。」
絶対思ってないだろって様子のソレにある意味関心していると、ロイドが殿下の前に立って。
「お前、風邪引いてんの?」
ロイドの発言に全員がポカンとなる。
「鼻詰まってんのか?お前普段そんな声で話してないだろ、教室で。風邪治ってから殿下に話しかけろ。移ったらどうすんだ。」
え、風邪?
え、待って。
待ってロイド。
鼻にかかった声、もしくは猫なで声と呼ばれる女の子渾身のぶりっ子を鼻詰まりと称しましたか?
「────ッッッ!!」
だ、駄目…!!笑っちゃ駄目、絶対駄目!!
口を抑えて顔を背ける。
「風邪なんか引いてな────」
「は?風邪だろ。なんならそこに我が領自慢の薬師が居るから聞くか?なぁ、ソフィア。風邪だよな?」
ロイドの言葉にハッと我に返ったらしいソフィアが一つ咳払いをして真顔を作る。
「えぇ、風邪ですね。慣れない環境に身体が弱っているのでしょう。早く家に帰り主治医に診てもらったほうが良いかと。」
ヤブ医者かよ…っ!!
ちょ、待って。殿下まで笑ってるんだけど。
ね、どうすんの、やめて、我慢できなくなるから笑わないで…!!
「あー……ロイド坊っちゃん。」
「なんだ。」
よし、でかしたアルベルト!!
さすがさっきから悲壮な顔をしてただけあるっ!!
「アレは風邪じゃなくて、好意のある男にかまってほしくて一生懸命可愛く見せようとしている女の子の涙ぐましい努力の姿だ。」
ちょ……っ!!
「風邪なんて言っちゃ駄目だ。なぁ、姫さん。」
こ、ここで私に話を振るな…っ!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜バカにしないでよ!!」
泣き叫ぶように立ち去って行くヒロイン。
「…………でかした、アルベルト。やっぱりお前はやればできる男だ。」
「ええそうね。ユリアのこと以外全く持ってポンコツなだけあるわ。笑い死にしそうになってるユリアに代わって褒めてあげる。よくやった。」
「あれ、俺褒められてんの?馬鹿にされてんの?」
「…………、ゲフン。ロイド殿、アルベルト殿、感謝する。ソフィア嬢も。貴方は、コースター領の者だったんだな。」
「言ってませんでしたっけ?そーですよ!ねー、マリア様!」
「マリアは知っていたのか。」
「……コホン。知ったのはつい先日です。殿下は知っているのかと思っておりました。」
「ユリア嬢。」
「……、ふふ、はい。あー、その件に関してはまた話をしましょう。」
「…………わかった。」
笑いの波もひとまず収まった。
深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
よし。
「ロイド……は、わかっててやったんだろうから後で良いわ。アルベルト、駄目よ?あぁやって女の子の努力を赤裸々告白するのは。知られるのはものすごく恥ずかしいんだから。」
「?努力してる姿は可愛いもんだろ?」
「うん、可愛い。可愛いんだけどね、すっごく恥ずかしいことってあると思うの。だからね、あぁ言うのは言わないほうが正解よ。」
「そっか。努力は褒めるって領主様も奥様も言ってたのに、駄目なのか。」
「あーえー、違うの。努力を褒めるのは良いことよ。お父様とお母様の言ってたことは正しい。ただね、好きな人とか好意を寄せてる人相手にしてることを、好意を向けられてる相手の眼の前で赤裸々告白するのが良くないことなの。」
「なるほど。じゃあさっきのは、殿下が居ないところでなら大丈夫だったんだな?」
「う……、えぇ、そうなる……わね。えぇ、そうね。でも、彼女に関しては何も言わずに見守るのが正解。理由は……わかるわね?」
そう尋ねれば数回瞬いて。
「あぁ、なるほど。了解、姫さん。」
「理解してくれたようで嬉しいわ。」
「大丈夫、そういう対応は俺とソフィアが得意だ。な、ソフィア。」
「うん!私はマリア様と殿下の味方なので!任せてください、ユリア様!」
ニコリと笑うソフィアとアルベルトにものすごく不安になったのは、間違いじゃないハズだ。
「あ、もうこんな時間か。姉さん、あとでくるから待ってて。」
「ん、わかった。じゃあね。」
なんか、ものすごく疲れたわ……。
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