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ヒロイン登場

長期休みも明け、私達に初めての後輩ができる日。


そして、私の可愛い弟とヒロインが入学して来る年。


「ユリア、良かったの?」

「何がですか?」

「私と登校して。」

「私はお嬢様を守るのが仕事ですよ?お嬢様のお陰で領地にも長く滞在できましたし、気分転換もできました。だから、今日からはちゃんと仕事一筋で頑張ります。」

「ありがと。でも、あまり無理はしないでね。コースター辺境伯領に行って、自分の無力さを痛感したわ。それでも、私、頑張るから。ユリアが心配しなくて良いくらいに。」

「楽しみにしていますね。ソフィアとの関係もバレたし、今まで以上に特訓できそうで嬉しいです。」

「ほ、ほどほどにお願いするわ……。」


お嬢様が苦笑する。

ゆっくりと停車した馬車から降りれば、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが居て。


「クロード様……。」

「え?」


視線の先を見れば、一人の女子生徒を抱きとめている殿下が居て。


チラリとお嬢様を見れば、わずかに震えていて。

ただ、唇を噛み締めて表情を公爵令嬢のソレに切り替えた。


「行きますよ、お嬢様。」

「…………ユリア。」

「あの殿下が、お嬢様以外の女性になびくわけないです。」


お嬢様の手を引いて、殿下に近づく。

そうすればこちらに気づいた殿下が私達を見てホッとしたような顔をした。


「マリア、おはよう。」

「おはようございます、クロード様。そちらの方は?」

「あぁ。つまずいたようでね、たまたまそばに居た私が受け止めたんだ。」

「そうでしたか。」


ニコリと微笑むお嬢様が公爵令嬢らしく、貼り付けた笑みを浮かべる。


ソレに気づいたらしい殿下の眉がピクリと動く。


「殿下、女子生徒を抱きとめたのはわかりましたが、いつまで抱きとめているおつもりですか?婚約者のそんな姿、あんまり良い気はしないかと。」

「!すまない、そのとおりだ。」


殿下が腕を放せば、女子生徒が渋々と離れる。


「そうだ。マリア、クラス替えの看板は見たかい?」

「いいえ。クロード様は確認されたのですか?」

「もちろん。」


クロード様がお嬢様の手を両手で包み込む。


「一緒のクラスだよ、マリア。」

「え……?」

「疑うなら、一緒に見に行こう。」


クロード様がマリア様の手を引いて行ってしまう。


「チッ。名前もないモブが余計なことすんじゃないわ。」


女子生徒に視線を向ければキッと睨みつけられる。


このコ……、もしかして…………。


「さようなら、先輩。」


独り言が気の所為かと言うくらいの笑みを浮かべて立ち去る。


ゆるやかに巻かれたツインテール。

ふわりと揺れるフレッシュピンクの髪。

庇護欲を掻き立てられる白い肌に潤んだピーチブロッサムの瞳。


間違いない。


あれが、ヒロインだ。


「…………面倒なことになりそうね。」


ヒロインが転生者なんて、ゲームのシナリオどおりにいかないって言ってるようなもんじゃない。


すでにヒロインと殿下の出会いイベント、シナリオと違うし。

完全に油断してた。


ため息をこらえて、お嬢様たちに近づけば殿下がお嬢様と仲良く手を繋いで掲示板を見ていて。


良い雰囲気じゃない?


「マリア様〜!クロード殿下〜!」

「ソフィア嬢。」


張り出されてる掲示板を見て、パッとこちらを振り返る。


「今年もクラス一緒ですね!嬉しいです!よろしくお願いしますね!マリア様!」

「えぇ、よろしくね。」 


ソフィアがブンブンとお嬢様の手を振る。

楽しそうで何よりだ。


「マリア様たちはどのクラスでした?」

「Aクラスよ。」

「わ、端っこですね。ソレは安心です。」


真ん中のクラスになられると守りづらいから。

人混みの中でお嬢様と殿下のためにあけられた空間に身をねじ込み、掲示板の中から自分の名前を探す。


Aクラス、Aクラス…………あれ?


ない…………?


「どうしたの?」

「ん、今自分の名前を探してるんだけど……。」


まさかと思って隣のBクラスを確認すれば、私の名前がそこにあって。


な・ん・で・だ……!!!!


お嬢様と殿下の手首を引いて団体から離れる。


「殿下。」

「は、はい。」

「私はお嬢様の護衛ってことで良いんですよね……?」


訳、なんでまた私は二人とクラスが離れてるのですか。


「いや……その…………すまない。」

「…………。」

「でも、ほら……。レオナルド様やシノア様も同じクラスですし。クロード様も一緒ですもの。心配することは何もないわ。」

「マリア……!そうだね、何があってもマリア、君を守るよ。」

「ありがとうございます、クロード様。」


まぁ、ソフィアが同じクラスになってるからまだマシか。


「頼んだわよ、ソフィア。」

「任せて。」


これでソフィアもクラスが離れていたら陛下に文句の一つや二つは言ってやろうかと思ってたけど。


「お、いたいた。姫さ〜ん。」

「あら。アルベルト……と、ロイド!?」


二人が学園の制服を着ている。


「お、クラス貼り出されてる。ちょっと見てくる。」

「うん、行ってらっしゃい。ロイド、どう?緊張してる?」

「いや、全然。堅苦しくて脱ぎたい。」

「我慢しなさい。私のコレよりマシよ。」


ワンピースの裾をひらひらとさせれば、納得したように頷いて。


「姉さんには窮屈だろうな。」

「…………、そなたがコースター辺境伯の……?」

「お初にお目見えします。コースター辺境伯長男、ロイドと申します。姉のユリア共々、よろしくお願いいたします。」

「こちらこそ、よろしく頼む。」

「ロイド、入学式の会場の場所はわかる?一緒に行こうか?」

「姉さんと違うんだから大丈夫。俺よりアルベルト気にしてあげたほうが良い。」


指で指し示された方を見れば、頭一つ分出たアルベルトが早速何やら絡まれていて。

何をやってんだと思っていればこっちに近づいて来て。


「姫さん、姫さん!聞いて!俺、姫さんとクラス一緒!」

「あ、そうなの?自分の名前で精一杯だったから気にしてなかったわ。ということは無事に二年生からの編入ね。おめでとう。」

「おう!殿下と公爵令嬢もよろしくな!」

「よろしくお願いしますね。」

「よろしく。」

「あ、もうこんな時間!マリア様!そろそろ会場に行かないと!」

「そうね。行きましょうか、ソフィアさん。」

「じゃあ俺も行く。姉さん、迷子にならないようにな。」

「学園生活二年目よ?大丈夫!」


ロイドが新入生たちが集まってる出入り口へと向かっていく。

ソレを見送り、私達は固まって移動する。


「そういえば、レオナルド様とシノア様をお見かけしてない気がします……。殿下、一緒じゃなかったのですか?」

「あの二人は先に安全確保だと言って会場に行った。クラスが同じで学園なのだから心配はいらないと言ったのだがな……。」

「クロード様は愛されて居ますからね、仕方がないですわ。」


マリア様とクロード様が仲良く並んで歩く。

ソフィアと私は二人の後ろを歩き、その後ろにアルベルトが歩く。


「姫さん、クラス単位で座ってんのか?」

「そうよ。あそこがAクラスだからココがBクラスね。」


通路を挟んで向こう側にソフィア、お嬢様、殿下と座る。

その後ろにシノア様とレオナルド様。


私は通路側、アルベルトが私の前に座った。

隣に座れば良いのに。


「ユリア嬢はクラスが離れましたね。」

「そうですね。でも、去年とは違って隣のクラスなので、会える機会が多そうです。」

「確かに。」

「今年の新入生代表は、ユリア嬢の弟君とお聞きしました。おめでとうございます。」

「ありがとうございます、シノアさ…………え?新入生代表??」

「おや、ご存知なかったのですか?コースター辺境伯の御子息が新入生代表挨拶をすると貴族界隈で噂になっておりますよ。」


は。聞いてませんけど。

ロイドからもお父様からも何一つ、そんな話聞いてませんけど。


レオナルド様やお嬢様、殿下までウンウンと頷いている。

ソフィアを見ればニコリと微笑まれた。


なるほど、知らなかったのは私だけか。


「ねー、アルベルト?」


前の座席に座るアルベルトを覗き込めば不自然なほどこっちを見ない上に、気まずそうな声を出して。


「ごめん、姫さん。言わないでってロイド坊っちゃんに口止めされてる。」

「…………。」

「びっくりさせたいからって言ってたからさ。ちょ、ごめんって姫さん!ゆるしてふひゃひゃい。」


アルベルトの頬を数回引っ張って放す。

いてーと笑うアルベルトにため息一つ吐き出して椅子に座り直す。


「まぁ良いわ。あとでロイド捕まえることにする。」


弟の晴れ舞台。

前世の世界ならカメラ構えて連写してるところだけど。


仕方がない。


お父様たちの分まで堪能することにしよう。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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