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王都へ

ガタガタとセザンヌ公爵家の紋様が入った馬車が揺れる。

中にはお嬢様とステラさんが乗ってる。

そして、ソレを守るようにグレムート様とアルベルトが馬で追走している。


「アルベルトも通うなんて聞いてない。」

「言うなって口止めされてたからな。」


私とロイドは、コースター辺境伯の紋章が入った馬車に乗って帰っている。

ちなみにルナは御者席に座って鼻歌を歌っている。

時々御者を買って出たソフィアとの楽しそうな話し声が聞こえるから、二人とも元気にしてるらしい。


「それより、お父様が内通者に三年前には気づいていって、どういうことなの?」

「内通者の話は俺も詳しくは知らない。ただ、三年前の王位争いのとき、帝国のタイミングがおかしかったから、もしかしたら程度に記憶にとどめていたらしい。ただ、姉さんも知っての通り、そういうのは興味がない人だから。」

「だからって……。じゃあ今回調べてくれてたのは私が王都で巻き込まれたから?」

「そういうことだ。」

「はぁ……。」

「怒ったか?」

「怒るより呆れのほうが上。」


お父様は私の何手も先を見通している。

勝てる気がしない。


「もしかして、マーシャル・タールグナーの協力者二人も目星がついてる?」


そう問いかければニヤリと口角をあげるから。


「はぁぁぁぁぁあ。」

「親父は姉さんが早々に音を上げて泣きついてくることを待ってた。」

「お父様が?」

「あぁ。でも、やっぱり姉さんは姉さんだよな。皆の期待通りに泣きつくこともせず、やり遂げた。親父を責めてやるな。泣きついて欲しいと望みながら、姉さんが自分の力で解決することを願ってた。」

「生意気。」


ヒロインと殿下のフラグバキバキに折って、お嬢様と殿下のハッピーウェディングを誰よりも願ってる。

そのためにはお嬢様の暗殺者問題を解決しなくちゃいけないし、ヒロインと殿下のラブフラグになるような出来事は片っ端から片付ける必要があるのに。


「黒幕は誰。」

「王妃の筆頭侍女とカルメーラ夫人の義娘だ。」

「…………なんですって?」


思わず険しい顔になる。

王妃の筆頭侍女はともかく、カルメーラってラチェット様の姓よね?


「王妃の筆頭侍女は地位は侯爵、タールグナー伯爵の妹にあたり、なかなか黒い噂の絶えない兄妹だ。侯爵家に嫁いでからは表沙汰にはならなくなったが、色々としているらしい。」

「甥を隠れ蓑にしてるってこと?」

「あぁ。」

「呆れた……。」


そんなヤツの尻尾を今まで掴めなかった自分に腹が立つ。


「カルメーラ夫人の義娘って?ラチェット様に兄弟がいるなんて話は聞いたことがないし、王家にクロード殿下と年齢の近い女性は居ないと聞いているわ。」

「あぁ。どうやら、養子縁組で招き入れた娘らしい。歳は俺より八つ上。」

「ということはラチェット様の姉に当たるのね。」

「あぁ。養子縁組の理由は簡単。王位争いで家族を失い天涯孤独の身になったから。」

「は────」


食い入るようにロイドを見る。

ロイドは感情を取り去った顔で私をまっすぐと見る。


「天涯孤独の身になって、たまたま門扉の前で倒れていたそうだ。王位争いは、王家の責任。王位継承権を放棄していても、カルメーラは立派な王家の一員。責任を取るべきだと。」

「は?待って。待って、は?ソレ、本当?」

「あぁ。」

「お父様たちはこのこと、知ってる?」

「親父と俺、姉さんの秘密だ。ウイリアムにも言ってない。」


どうしよう、感情が、追いつかない。


「……………………ロイド。」

「マリア・セザンヌの暗殺容疑で捉えられるのはその義娘だけだ。俺達が裁きたいヤツは、裁けない。」

「…………っ。」


もっていきようのない感情を、深呼吸することで落ち着ける。


馬車の外からルナの元気な歌声が聞こえる。


「運が良かったと思うしかないな。」


ロイドが淡々と応える。


そうだろう。

そう答えるべきなんだろう。

わかってる。

わかってるけど。


「運が良かったですねで終われる問題じゃないでしょ。」

「…………。」

「王位争いで、何人もの人が死んだわ。何人もの人たちが天涯孤独になったわ。門の前で倒れてて運が良かった?王都の貴族が、王族に仕える兵士たちが、道端に倒れて死んでいた人たちを、門扉の前で倒れていた人たちを、せめてもの慈悲だと、トドメを刺した光景はなかったことにはならないわ。」

「…………そうだな。十年前の王位争いの時に、俺達が見たあの光景は、忘れられないな。」


冒険だと言ってお母様とお父様が見てない間に領地を出て。

手を繋いで、商人の荷馬車に乗せてもらって。

半日にも満たない冒険。

近くの領に来ていた貴族を遠目に見ただけ。

夢か現実かもわからないその光景に、お互いの口を抑えあった。


「…………姉さん、俺な。領地の皆の気持ちちょっとはわかる。貴族が嫌い、王族が嫌い。俺も、好きじゃない。ただ、俺はコースター辺境伯だから。嫌いなままでもできることがあって、すべきことがあることを知ってるだけだ。」

「……………………。」


唇を噛み締め、目をギュッと閉じる。

手のひらに、爪が刺さる。


「大丈夫。その感情は俺達共通のもんだ。」

「…………フッ、生意気。」


ゆっくりと深呼吸を一つ。


「教えてくれてありがと、ロイド。お陰で黒幕あぶり出して処刑台に連れて行くのに躊躇いがなくなったわ。」

「それは良かった。ついでに良いこと教えてやる。その義娘、私より不幸な人間はこの世に存在しないんだそうだ。ラチェット・カルメーラにもまともに相手にされてないらしい。」

「よし、わかった。私が侵入してサクッと殺して来るからロイドは死体埋める場所探しておいて。」

「今カルメーラ邸で問題が起これば商会の話も無くなるんじゃないのか?」


しまった、その問題があった。


「仕方がないわね。領地に商団が駐屯できるように手配できて、私がそこそこ実権握って好き勝手できるようになるまでは生かしておいてあげるわ。一年もあれば乗っ取れるでしょ。」


うん、我ながら良い考えでは?


三ヶ月以内に商会から懇意にしている行商人を向かわせ、定期便として足を運んでもらう。

半年以内にコースター辺境伯領に商会の店を一つ置く。

九ヶ月以内にコースター辺境伯領付近の権限を任されるくらいに実権を握る。

一年以内にラチェット様を追い出す、もしくはカルメーラと縁を切らせる、もしくは商会長の座を私かワイナール侯爵に譲ってもらう。


黒幕を追い出し、学園生活最後の一年でお嬢様と殿下のハッピーウエディング。


いける!!


「うわ……我ながら完璧な計画じゃない?むしろ現実的で褒められるわ。表彰ものよ、この計画。」


どうしよう、一気に億万長者になれるかも。


「やるわよ、ロイド。一年計画。」

「まぁ、楽しそうなのは良いけどさ。王命忘れるなよ、姉さん。」

「大丈夫よ。何があっても最強の面子が揃ってるんだもの。」


私にロイド、ソフィアにアルベルト。

ルナとグレムート様も強力な助っ人。


「知力も武力も、誰かに劣ってる要素が一つもないわ。」


今年は勝負の年。

ヒロインも入学してくるし、今まで以上に気を配る必要がある年。


この一年乗り切れば、私の王命の終わりも見えてくる……!!

やるわよ、億万長者計画!!

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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