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セザンヌ公爵邸

悪役令嬢、ご登場!

悪役令嬢感ないです。多分。

お父様と陛下の腹の探り合いならぬ、仲の良いじゃれ合いを見届け私は今、王家の馬車でたった一人、公爵令嬢の屋敷に向かっている。


お父様はまだ陛下に話があると引き止められていたから、当分解放されないだろう。


服装は、前もって用意されていた侍女のお仕着せ。

何着が替えがあるのも配慮のうちだろう。

なんせ、ウチは貧乏貴族だから。


一着買うだけで苦労している私たちとは比べ物にならない。

侍女のお仕着せ一つ、生地が違う。


「……ココが、公爵家。」


王都の屋敷は全部デカいと思っていたけれど、ココは一段と大きい。

王城と同じくらいは立派だ。


「……どうぞ。」

「ありがとうございます。」


御者の手を借り、馬車から降りる。

私は、辺境伯家の令嬢。

あの貧乏辺境伯家とバカにしてきた王城の人間を数名黙らせることに成功した、淑女としての振る舞いは完璧だ。

ありがとう、お母様。

出迎えに現れたのは、見慣れぬ男性。

淑女らしく、礼をとる。


「お待ちしていた。よくぞ参られた。」

「お初にお目見えいたします、セザンヌ公爵様。ユリア・コースターでございます。王命により、本日からマリアお嬢様にお仕えさせていただきます。」

「詳しい話をしよう、ついてきたまえ。」

「はい。」


トランク一つ手に持ち、その後ろをついていく。

調度品一つとっても高級品。

さすが、公爵家。

コレ一つ売るだけで、我が屋敷の塀の修繕が終わりそうだ。

通されたのは公爵の執務室だろうか、簡素ながらも生活感がある。


「座り給え。」

「失礼します。」


公爵の向かい側のソファに腰掛ける。


「陛下から話は聞いているだろうが、頼みたいのはマリアの護衛兼侍女。マリアはクロード殿下の婚約者になってからというもの、外出もままならぬほど命を狙われている。ココ最近は屋敷の外に出られない日々が続いている。」


公爵が額を抑える。

ソレを見つつ、運ばれてきたカップに視線を落とし、顔を上げ、礼を言う。


「無闇矢鱈に護衛を増やしても相手の警戒心を煽るだけだ。だから、相談を持ちかけた。」

「暗殺者を仕向けてくる人物に心当たりは?」

「多すぎてわからないと言うのが現状だ。生きて暗殺者を捉えることに失敗している。捕まえたとしても何者かに暗殺されていたり、自害したりで話を聞き出せない。それに、クロード殿下の婚約者の座を狙うヤツはいくらでもいる。」

「失礼ながら、内通者の線はないのですか?」

「そんなものとっくに調べている。私を馬鹿にしているのか?」

「いいえ。ただ、ソレだけの事態なのに、わざわざお嬢様と年の近い女性だなどと条件を出した理由がわからなかっただけですよ。どう考えても男手があった方が良いでしょう、ソレだけのことがわかっているのなら。」

「文句があるなら、この仕事をおりろ。」


ピクリと不機嫌に眉を寄せる公爵にため息をこらえて。


「わかりました。では、こちらの書類にサインを。」


テーブルの上に書類を一枚乗せる。


「公爵のサインをいただければ、私は領地に帰って良いことになっております。公爵の依頼を受けた陛下からの王命でこちらに参っておりますが、公爵がクビと申せば、領地に帰って良いとのことです。私はどちらでも構いませんので、サインを。」

「…………。」

「私はその書状を持って、陛下に報告をするだけです。」

「たかだか辺境伯家の娘が調子に乗るなよ。私を馬鹿にしているのか。」

「私が陛下に命じられたのはマリアお嬢様の護衛兼侍女。婚姻の儀の日取りを発表するその日まで、私なりのやり方で命を守れと言われております。」


クロード殿下との婚姻の儀に邪魔になりそうなら、排除せよとも。


そう言えば、公爵の目が見開かれて。


「私が信用ならないなら、ソレで結構。私は何一つ困りませんから。」

「…………本当に、マリアを守れるのか。」

「ソレを判断するのは私ではございません、公爵。貴方です。」

「…………。」


その書状が親の仇であるかのごとく睨みつける公爵。

数秒の沈黙の末、ゆっくりと立ち上がった。


「陛下のお心遣いを無駄にはできん。付いてこい、娘に紹介する。」

「はい。」


書状をなおし、立ち上がる。

道中、軽く各部屋の説明はあったが後で女官長が説明をしてくれるらしい。


「マリア、私だ。」


返事の代わりに中から扉が開かれる。

窓はカーテンが閉められており、少し暗い。


「お父様、どうかなさいましたの?」


うわ、美人。

さすが、悪役令嬢。

と、いけない。

私情抜きに、仕事に集中しないと。

金貨五千、金貨五千よ私。


「陛下たちにお願いしていたお前の侍女が来た。」

「まぁ。護衛も兼ねた強力な令嬢ですか?」

「あぁ。」

「ユリア・コースターと申します。本日より、マリアお嬢様の侍女をさせていただきます。」

「コースター?あの辺境伯家の貧乏貴族?」

「口を慎みなさい、マリア。」

「申し訳ありません。ですが、本当に貴方が?」

「はい。」


さっきは見せなかった王家から下賜された短刀を見せる。

ソレは、王家の紋章が刻み込まれている。


「王命により、貴方を守らせていただきます。」

「使えなかったらすぐに言いなさい。」

「わかりましたわ。」


一瞥をくれ、部屋を出ていく公爵。


「私の専属侍女であるステラよ。」

「ステラ・ウイスキーでございます。」


ウイスキー伯爵のところの娘か。

お父様が知ったら喜びそう……いや、もうすでに知ってるか。


「私の世話はしなくて良いわ。信用ならないもの。」

「そうでしょうね。そのくらいの警戒心は必要だと思います。」

「何が言いたいの。」

「私は、私なりのやり方で貴方を守れと言付かっております。ココしばらくお外に出られていないとか。どうですか?庭に散歩行きませんか?」

「な…!正気ですか!?お嬢様は今現在命を狙われているのですよ!?」

「閉じこもって居て、解決するのですか?身体を悪くするだけです。そして、私は、私のやり方で守れと仰せ使っております。貴方の意見を聞き入れろとは言われておりません。」

「……、お嬢様!」

「私を連れ出して私が死んだら、罪がどこに行くか。わからないの?」

「死にませんよ。」

「どうしてそう言い切れるの。」

「王都で雇われるたかだか暗殺者風情に敗れるようであれば、辺境伯家の名折れです。」


一体誰がこの国の国境を守っていると思っている。

何世代にもわたり、あの領地を守ってきただけの矜持は持っている。


「……わかりました。」

「お嬢様!」

「庭の景色も見れないこの状況にはうんざりしていたの。」

「では、参りましょうか。」


お嬢様を先頭に、部屋を出る。

久しぶりの外出に少しだけ浮足立ってるように見える。


「お嬢様?どうなされましたか?」

「庭に散歩よ。」

「な…!外は危険です!」

「大丈夫よ。ソレに、いい加減屋敷の中も飽きたわ。彼女も付いて来てくれるし。」

「…………。」

「ご不満なら付いて来れば良いでしょう。押し問答は時間の無駄です。」


そう言って先を促せば、お嬢様は素直に外へ出て。

久しぶりの外に、眩しそうに目を細められている。


「……さすが公爵家。広い庭ですね。」

「自慢の庭よ。奥にはお母様が好きなバラ園があるのよ。」

「バラ園ですか。良いですね、素敵です。」

「辺境伯家にはないの?」

「ありませんよ。」

「まぁ。庭は?」

「ありますが、ココまで立派なものではありませんよ。」


お母様が大切にしていた花も、随分と減った。

今じゃ生活必需品の野菜がほとんどをしめている。

全部、あの時、食べられる物は食べてしまったから。


「……良い風…。」


お嬢様の侍女であるステラ、そして護衛が一人。

んー、少し不安にはなるけど王都じゃコレが基準なのか。


「どうですか?久しぶりの外は。」

「……悪くないわね。」


まだ警戒はされてるみたいだな。

まぁ、仕方がないと思うし、そのくらい警戒してくれなきゃ困るというのが本音だ。


「本当に私が必要ないと判断した時には公爵様と陛下には伝えさせていただきます。」

「その判断基準は?」


少しキラキラとした期待を込めた瞳で見てくる。


「貴方が自分の身は自分で守れるようになること。」


そう言えば、目を見開いて。


「そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか!お嬢様はれっきとした公爵家のご令嬢ですよ!?貴方みたいな野蛮な育ちはしてないのです!!」


貧乏貴族どころか野蛮な一族だと思われているみたいです。

コレは初めて知ったわ。

お父様、黙ってたのかしら?


「良いですか、お嬢様。今現在、貴方は命を狙われています。庭の木々の間から貴方を狙っている人物が一人……いや、二人いますね。」

「「「!!」」」

「視線を送らないでください。こちらが気づいていることに気づかれます。」

「どうしてソレを今言うんだ、貴方は!!」

「コレ程度の視線も気づかなかった能無し護衛は黙っててください。私は今、お嬢様と大切な話をしています。」


グッと押し黙る護衛。


当たり前だ、コレで反論してきてたら私が制裁を下してた。


「このままお散歩しましょう。大丈夫ですよ、私が貴方に傷ひとつつけませんから。それから、お嬢様は私のこちらを歩いてください。」


屋敷の壁側に身体を押して、数歩後ろに控える。

侍女としての正しい立ち位置だ。

正しい立ち位置よね?

さっきステラも後ろ歩いてたし、間違えてないハズだ、うん。


「さぁ、お嬢様。貴方の望んだお散歩ですよ。悠々自適に、楽しそうに、普段通りに楽しんでくださいませ。」

「…………。」


何か言いたげな視線を送られるが気づかないフリをしてニコリと微笑む。

そうすれば何も言わずに再び歩き出した。


「……良い風。」


さっきよりも緊張してる足取り。

だけど、だんだんとその歩調は落ちて。


「……私が殿下の婚約者でなくなれば、こんな目にも合わなかったのでしょうね。」

「お嬢様……。」


気分が急降下したお嬢様にステラもなんと声をかければ良いのか迷ったように押し黙る。

それにため息をこらえて。


「そんな簡単に諦められる地位なら今すぐ降りてください。そうすれば、私も領地に帰ることができます。」

「!!」

「そんな簡単な気持ちで、捨てられるような気持ちで貴方は婚約者の座にいるのですか?それとも、ただ権力に群がる虫ですか?貴方の身をあんじている方々に申し訳ないとは思わなかったんですか?」

「……私は、殿下を愛してるわ。だから私は、婚約者になれてとても嬉しいの。」

「その言葉を聞けて安心しました。」


飛んでくるソレを、迷わず掴む。


「そうじゃなければ、このまま暗殺されてもらおうかと思っていたので。」


ニコリと微笑み、一本の矢を見せる。


「お嬢様、このくらいは自分で受け止められるのうになってくださいね。そうすれば殿下も安心できますし、護衛が多少使えなくても自衛できることで、暗殺者の数はグンと減ります。」

「止め……え?怪我……。」

「あぁ、このくらいなら問題ありませんよ。」

「!後ろっ。」


少しの殺気とお嬢様の悲鳴にも似た呼びかけ。


「良いですか?矢というのはですね、近接戦を得意とする人間からすれば遅いんですよ。今回の暗殺者の腕はまずまずと言ったところではありますが。」


今度は余裕をもって矢を止める。

私を見る目は大きく見開かれている。

わかっている、常識外れな身体能力だと言うことくらい。

でも、許してほしい。

我が領地の人間は幼い子ども以外、誰でもできることなんだ。


「お嬢様、見てください。この矢じり、毒が塗り込まれています。おそらく神経毒か何かでしょうが……触らないに越したことはありません。なので、矢を止める時は矢じりでも矢羽でもなく、ココを握ってください。ココは狙撃者も触れるところなので、絶対に毒は仕込まれません。まぁ、毒に耐性のある方が暗殺に来てる時は例外なのですが。」


ソレこそ、熟練の暗殺者か王族とコースター家くらいだろうけど。

まぁ今は毒の耐性をつける健康観察すら廃止の案件だから、現王太子はどうしたのかは知らないけど。


「そして、今の二発であらかたの敵の位置情報は割れました。公爵家の護衛の方々もとらえようと躍起になってますが……逃げられてしまいますね。」

「でも、ココでとらえないと……!!」

「捕らえられたら一番良いですね、敵の黒幕もあぶり出せます。ですが、お嬢様の身を”一番“に、考えさせてもらうと……。」


握っていた矢をパキッと何食わぬ顔でへし折ると、矢じりの方を森に向かって思いっきり投げた。

うし、まずまずの腕の振りだ。

風も追い風だったのが良い具合だ。


「────ッ!!」


断末魔が聞こえたのと同時に、一瞬の静寂。

そしてその中を音もなく近づく気配が一つ。


「!!」

「お嬢様!!」


迷うことなく短刀の柄で急所を狙い、足首に矢を刺す。

コレで万が一意識があっても動けないハズだ。

手早く短刀をお仕着せの中に隠す。


「死……死んでる?」

「いいえ、意識を奪っただけです。全く、典型的な暗殺者の連携技ですね。」


念のため、生きてるかどうかの確認をする。

毒の確認をしようにも、自分の身体をいきなり傷つけ始めたらお嬢様のトラウマになりかけないし。

お父様にも止められてるし。

麻痺毒か遅効性の毒か。

まぁ、いずれにせよ。

お嬢様は無傷だから、仕事は果たした。


「このように、お嬢様の傍から護衛が消えた瞬間に襲って来るのが近接戦を得意とした暗殺者です。言ったでしょう、二人居ると。どうしてお嬢様の傍を離れたのか理解に苦しみます。バカじゃないのか、本当に。王都の人間は平和ボケしすぎか?」

「「…………。」」

「この人は生きているので、引き渡しましょう。口を割るとは思いませんが、情報ゼロよりもマシなハズです。さぁ、お嬢様。わかりましたか?これくらいは対処できるようになってもらわないと、殿下も気が気じゃないと。」

「わ、私は……。」

「殿下の傍に居たいと願うのなら、殿下の心労を一つでも減らしてあげるべきだと思います。それが何よりも婚約者……ひいては未来の妃殿下が殿下の唯一無二の弱点だと思われてしまってはことです。殿下の身の振り方がこれだけで変わる。貴方が少しでも自衛できるという事実は、周囲の目を欺くことにも使える。ですが、自衛ができることは隠して、切り札にしなければなりません。良いですか?殿下にも、ギリギリまで黙っておきなさい。好きだからという理由だけで王妃は……国母は務まりません。貴方でなければいけない理由を作りなさい。そのために、私はココに呼ばれました。」


王都育ちのお嬢様。

きっと、私にはわからない生活を送って来たであろう人。


「私にも……できるようになる?」

「お嬢様!?」

「貴方がそうなりたいと望むのであれば。」


私なりのやり方で守れと言われた。

だったら、少しくらいズレたお嬢様になってもらっても良いよね?


「……私が、殿下の婚約者でいるためには必要なこと?」

「それは、自分でお考えください。私はただ、王命で“王太子の婚約者を傍で守れ”と言われただけです。」


私が、護衛兼侍女に選ばれた理由。

年が近いからという理由だけじゃない。

私が、王太子殿下と彼女の関係に横恋慕することもないというお父様の絶対的自信。

そして、私が貴族の娘だという事実。


「……辺境伯家に帰りたいと言ってもすぐには返してあげられないわよ。」

「まぁ、その辺りは諦めてます。」


引き継ぎはした。

生きるも死ぬも、私の腕次第。

この国をあらゆる災厄から守っていると言われている貧乏貴族。

貴族とは名ばかりの、ご令嬢。

ソレが、私だ。


「お嬢様!ご無事ですか!!」

「お嬢様、お怪我は!!」


駆け寄って来る屋敷の使用人たち。

お嬢様の様子にホッとしたように息を吐く。

この人たちは私に感謝するべきだと思う。

良いけど、仕事だから。


「これは……。」

「暗殺者の一人です。情報を吐くとは思いませんが、とらえておきなさい。」

「はっ。」


護衛の一人が返事をして距離を詰める。

阻むように前へ出れば、不思議そうに見上げてきて。


「あの……?回収ができないですが……。」


困った顔をする護衛。


「所属と名前を言いなさい。」


その問いかけにポカンとした顔をする。


「私はココに来る前に、お嬢様の身辺情報を頭に叩き込んできました。貴方は、一体いつからお嬢様の護衛を受けている者でしょうか。」

「コレは……予想よりも協力な護衛を紛れ込ませたものですね、陛下も。」


そう呟いたかと思えば、ゆっくりと姿勢を正す。

傍に居た他の護衛が、いつでも抜けるようにと手を腰に持っていくのが見えた。


「王族近衛騎士団、右羽軍所属、ガーディナ・ジーグル。クロード殿下の命により本日よりユリア・コースター辺境伯令嬢の助太刀と、婚約者、マリア・セザンヌ様の護衛をいたします。以後、お見知り置きを。」


それに、ポンッと手を打つ。


「貴方でしたか、陛下たちの言っていた協力者というのは。失礼いたしました。」

「いいえ。それで、こちらはお預かりしても?」

「はい、どうぞ。もとよりそのつもりで捕えました。」

「ありがとうございます。」

「ちょっと、信用して良いの?」

「大丈夫ですよ、お嬢様。それに、本当に裏切り行為を働いたら、ちゃんと処分します。」


もちろん、お嬢様たちのトラウマにならないように。


「ソレ、わざとですか?顔も知られている人間相手にやられると、とても傷つくと言わざるをえないのですが……。」

「え、知り合い?」

「所属と名前を言いなさいと、言っていたでしょう?彼女にとっては私が”本物“か”偽物“かを見極めるだけの質問でした。」

「だって貴方の顔、どこにでもあるくらい平凡じゃない。」


領民以外の名前と顔は一致しない。

知らないって言うのが一番の原因ではあるけど。

あ、ゲームの攻略キャラは別ね。

流石に前世知識が云々(うんぬん)は言えないけど。


「ソレ、本人に言わないでくださいよ……。そりゃ殿下たちみたいな美形とまでは言わないですが、私だって……。」


なにやら言ってるが、無視をする。


「さぁ、お嬢様。お散歩、続けられますか?」


私の問いかけに、戸惑った表情を向けてくる。


「暗殺者が連続で襲ってくることはないので、安全な散歩がお約束できますよ。」


ニコリと微笑む。

意識して笑みを作る。


──…笑いなさい、ユリア。


頭の中に残る言葉は、私だけのおまじない。


「……散歩、したいわ。」

「お嬢様……っ。」

「もう少しだけ、外に居たいの。」

「……わかりました。お嬢様がそうおっしゃるのなら。今日のお茶は久しぶりに、外でされますか?」

「ええ、お願いできる?」

「かしこまりました。では、いつものバラ園にご用意させていただきます。」

「えぇ、ありがと。」


泣きそうな顔で、屋敷へと戻って行くステラ。


「……良い風……。」


お嬢様はさっきより、晴れ晴れとした顔をしていた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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