辺境伯流、ケイドロ
ケイドロ、ドロケイ、探偵…………。
地域によって呼び方違うんですよね……。
お嬢様とステラさんを連れて、学び舎へと向かう。
「お嬢様、そんな緊張しなくても大丈夫ですよ。何もなくて暇だろうから誘っただけなので。」
「緊張するわよ……。私でわかる授業内容……?」
「んー、座学ではないのでむしろ必要なのは知識より体力…………。まぁ、私との特訓を思い出しながら受ける授業にはなりますが。」
「え。」
「なるほど。それで動きやすい服装……。」
二人には汚れても良い服装に着替えてもらった。
私の服を貸しても良かったんだけど、それだとお嬢様たちの訓練にはならないからね。
「ステラさんもマリア様も動けるようになりましたから、ある程度は大丈夫だと思いますよ。」
学び舎の前に集まっている面々に手を振る。
今日は参加者が多いな。
お嬢様効果か?
「お父様〜!」
「あぁ、きたね。」
「よろしくお願いいたします、オズワルド様。」
「こちらこそ。今回の訓練は怪我のおそれもあるけれど、大丈夫かい?」
「はい。もし私が怪我をしても誰にも責任は問わないと明言いたします。」
お嬢様の発言にお父様がニコリと笑う。
「それなら始めようか。初めて参加の人もいるからルールを説明するよ。」
お父様に注目が集まる。
決して大きな声ではないのに、お父様には人を従える力があるように思う。
「二手に分かれて、追いかける人と追われる人になる。追いかける人は、どんな手を使ってでも相手を捕まえよう。ただし、使って良い武器はコレだけ。」
「あれは……筆?にしては大きいわね……。」
「あれは槍を想定した絵筆です。先が硬いと、当たりどころが悪い場合取り返しがつかなくなるので刃ではなく筆にしています。」
「捕まった人たちは、ココに集合ね。仲間が助けにくるまで逃げられないから、この枠から出ないようにね。」
そう言って地面に描かれた正方形を指し示す。
「追われる側は、どんな手を使ってでも逃げ切ろう。今回、目潰しは禁止。窓を割るのは禁止。事前に窓は全て開けてあるから、開いてある窓だけ使って良い。ココまでで質問は?」
「はい!学び舎の中ならどこ入っても良いですか!」
「うん。学び舎ならどこに入っても良い。ただし、秘密通路は駄目。他に質問は?」
「はい!りょーしゅさまは、さんかしますか!」
「今回僕は時間を図る係だから参加しないよ。他に質問はあるかい?」
お父様の質問に全員が首を振る。
ソレにニコリと笑って手を叩く。
「じゃあ今回の参加メンバーだ。コースター家からはユリアとロイド、エドワードが参加するよ。」
その言葉にざわつく領民たち。
「ユリアとロイドは追いかける側、エドワードは追われる側。さぁ、皆二手に分かれて作戦会議だ。」
「りょーしゅさま、りょーしゅさま!」
「ん?何かな。」
「おじょーさまとロイドぼっちゃまのふたりだけじゃだめなの!?」
「駄目ではないけど……、すぐ終わっちゃうよ?」
「だいじょーぶ!おじょーさまに、ぼくたちがせいちょーしたってみせてあげるの!!」
その言葉に思わず笑う。
あぁ、本当に私の家族はみんな可愛い。
「そうだね。確かに、良い機会かもしれないね。ユリア、ロイド。それで良いかい?」
「俺は構わねえ。」
「私も。」
「それじゃあ、二人が追いかける側だ。一分後開始。制限時間は一時間。はい、始め!」
「「「わー!!」」」
「お嬢様が参加するのは久しぶりだな。」
「おうよ、絶対逃げ切るぜ!」
「エドワード坊ちゃんも今回は逃げ切ろうな!」
「あれは大人げないロイド兄とウイリアム兄が悪い!!俺は仲間助けて逃げ切れるんだ!!」
楽しげな声で学び舎の中へと消えていく人たち。
「ロイド、どっちが追いかける?」
「皆がお待ちなのは姉さんみたいだし、行ってこい。俺はココで牢番してる。」
「オーケー、わかった。」
「マリア嬢とステラ嬢にも手加減はいらないよ、ユリア。ココでの本気の遊びを教えてあげなさい。」
「わかった。」
軽く準備運動をして、筆を受け取る。
槍と同じくらいの筆はもちろん、子供サイズもあるから持てないという問題はない。
「とりあえず、エドワードをはじめに狙うのはやめておこうかしら。」
「泣かれるようなことするなよ。」
「あら、ソレは私じゃなくて牢番するロイドでしょ?」
「エドワードもそのうち考えて動けるようになるよ。さ、一分経ったよ。行ってらっしゃい、ユリア。」
「ん、行ってきます。」
筆を抱えながら、学び舎の外壁に沿って歩く。
さて、全力で捕まえに行きますか!
けが人一人も出ずに終わったケイドロ。
「こ、こわ、怖かった……。」
「窓の上から顔だけ出てきて……。」
「てん、天井にへばりついてた……。」
「筆だけペチョッて顔にあたって……。」
満身創痍な逃走者たちにため息一つ。
「駄目でしょ、皆。何があっても動じてはいけないわ。あんな悲鳴があがったら、どこに居るのか教えてるようなものよ?」
「だって!!お嬢様の声だけずっと追いかけてきてたんだよ!?帝国の人たちあんなことしない!!」
「わからないじゃない。帝国の人たちも強いのよ?」
「お嬢様だからだもん!!」
「あら、じゃあもう一回やる?」
「やる!!今度は僕たち全員でお嬢様とロイド坊っちゃん探す!!なぁ、エドワード坊ちゃん!!」
「もちろん!!ユリア姉とロイド兄に負けたままでいられるか!!」
「へぇ。」
「お前これから俺と剣術の練習だけど。」
「げ。」
「…………。」
「こ…、コレで勝ったら今日の練習休み!!」
「お前が決めんな。」
ロイドが頭を抑えて息を吐き出す。
チラリとお父様に視線を向ければ、ニコリと笑ったまま頷くから。
「わかった。ただし、俺たちが勝ったら素振り三十回追加。」
「さ……!?多くない!?」
「勝てば良いだろ、勝てば。」
「今日はロイドと訓練なのね。じゃあ今度、私と訓練しようね、エド。」
「……………………今日じゃないなら。」
「!」
可愛い弟の反応に思わず抱きつく。
「エドワードが素直〜!」
「やめ…!離れろよ、ユリア姉……!!」
恥ずかしがりなエドワードを放してやれば、真っ赤になっていて。
まぁ、そういう年頃なのかな。
「マリア様とステラさんはまだ動けますか?」
「私はココで休ませてもらうわ……。」
「私もです……。」
「そう?お父様、二人をお願いね。」
「わかった。さ、一分後に捜索開始だよ。制限時間は一時間。」
私とロイドが建物に向かって走り出す。
二人揃って扉を押し開き、廊下を走る。
「俺、中。」
「んじゃあ私は外。」
そのまま、開いてる窓から外へと飛び出した。
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