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元頭領と辺境伯令嬢

お嬢様たちを宿泊施設にお送りし、ソフィアとグレムート様が見張りについている頃。

私は、子爵領の領主屋敷にお邪魔していた。


「あの趣味の悪そうな子爵の屋敷だったからと思ったけど、ずいぶんとさっぱりしてるわね。」

「結構捨てたからなぁ。なんか趣味の悪い置物が多かったから、邪魔で捨てた。」

「アルベルトって本当にそういう思い切りは良いわよね。」


領主の屋敷はそのままに、家具などは全て処分し新調したらしい。


そのおかげか、前子爵を彷彿とさせるようなものが何一つなく、元々アルベルトの屋敷だったんじゃない?と言うくらいには馴染んでいる。


「ココが俺達の執務室。」


ガチャリとアルベルトが扉を開けば、執務机に向かってペンをせわしなく動かしている男が一人。


「おーい、ボス。姫さんが会いに来たぞ。」


ゆっくりと顔をあげる男。

片方の目には包帯が巻かれたままで。


「久しぶりね。調子はどう?」

「良いように見えるか?」

「あら、とても元気そうに見えるけど、不調なのかしら。」

「ククク……言ってくれる。」


ペンを置き、こちらに向き直る。


「姫さんと領主様のお陰で俺すげー助かってんの。ボスってスゲーヤツなんだな。」

「そうね……て、なんでボスなの?名前あるでしょ?」

「だってコイツ教えてくれねーんだもん。領主様も教えてくれなかったし。」


アルベルトから視線を移せば肩をすくめて。


「一度捨てた名前だ。名乗れる名前なんてねぇ。」


なるほど。

家を出て頭領になった経緯は知らないけれど、あまり家族仲は良好とは言えない家計だ。

なんせ、全員曲者。


「で、頭領って呼ぶのもどうかと思ってずっとボスって呼んでんの。」

「嬢ちゃん、コイツどうにかしてくれよ。嬢ちゃんの言う事なら聞くだろ。」

「あら、良いじゃないボス。わかりやすいし。」

「ココの主はそいつだぞ。示しがつかないだろ。」

「言われてみればそうね……。一応ココはアルベルト・シュチワート子爵の領地ってことになってるし……。」

「なんでも良いから嬢ちゃんが適当につけてくれ。」

「適当にって、貴方ねぇ……。」


頭領でボスで片目の男で剣の腕も高い…………。

戦国武将、奥州筆頭伊達政宗を彷彿とさせるけど……現世っぽくない名前だしねぇ……。


あ。独眼()、伊達政宗だし……。


「んじゃあ、リューキで。貴方の名前。姓はどうしましょうか。流石にかわいい妹を危険な目に合わせた男にコースターを名乗らせたくないし……。」

「俺もパス。ニーナ泣かせたしな。とりあえず、俺達と同じ平民出身ってことで良いんじゃね?死んでたことになってんだろ?顔覚えてるヤツなんていないって。」

「それもそうね。んじゃあ、リューキ。これから改めてよろしくね。」

「よろしくな、リューキ!」

「決定かよ……。はいはい、俺は頭上がらねぇから、それで良いよ。」


お父様たちにも情報共有しておかないと。

今までなんて呼んでたのかは知らないけど、呼ぶ名前があるって言うのは素敵なことだしね。


「執務はリューキがしてるの?アルベルトは?」

「ん?リューキや領主様に教わりながらやってるぜ、一応。」

「物覚えは良いな、コイツ。なのになんで普段ポンコツなんだ?」

「アルベルトはオンオフ激しいだけなの。いざとなったら頼りになるから大丈夫よ。」

「お、嬉しいこと言ってくれるなぁ、姫さん!」


ワシャワシャと頭を撫でられる。


「普段からちゃんと執務して欲しいところではあるけどね。それより、元々ココで雇われていた人たちはどうしたの?」

「あぁ……。それなら身元調査して問題ない連中だけ下働きで雇ってる。前の子爵とつながりが深いヤツとかは俺達がどうこうする前に逃げ出してるから調べてもいねぇ。」

「まぁ、コースター卿が把握してるとは思うがな。あの人が、自分の身の回りで起きたことを把握してないことはないだろう。」


確信を持った言葉に思わず笑う。

お父様が連れ出した理由はきっとコレね。


「というかお前らは警戒心が足りないんじゃねーか?俺を野放しにして、領地経営の手伝いさせて。俺が情報持って逃げるとは考えてねーのか?」

「え?貴方、行くとこないじゃない。」


何を言ってるんだ、この男は。

まるで自分が行くところがあるみたいな言い方をして。


「別に、行きたいなら止めはしないけど……。貴方が居てくれないと困るわ。アルベルトはすごいけど、貴族同士のやり取りや貴族の責務に関してはド素人。リューキが補佐でついていてくれるから、こうして領民たちも生きて居るし、他の貴族たちからの嫌がらせも痛手になってないのよ?ねぇ?」

「そうそう。リューキが補佐で居てくれるから俺もこうして自由に無茶できてるわけだしな。それに、あんまり姫さんたちに心配かけ続けるのは俺も本意じゃない。居てくれなきゃ困る!つうか俺、お前が居なかったら何もできないからな!自信ある!」

「威張らない。」

「どうか俺のために居てください!!」


仁王立ちで潔い言葉をハキハキと大声で言うアルベルト。

ソレにポカンとした表情をするリューキに思わず笑う。


「嬢ちゃん、コイツが嬢ちゃんの護衛で大丈夫か?」

「私に護衛なんて居ないわよ?」

「もうほとんど護衛みたいなもんだろ……いや、番犬か?」

「皆心配性なの、失礼しちゃうわよね。」


全く。

そんな簡単にやられる女じゃないってわかってるハズなのにね。


「嬢ちゃんほどの腕がありゃあ、たいていのヤツに勝てるだろ。」

「良いんだよ。俺が姫さんの心配したいだけだから。」

「もう……。アルベルトの心配性は治りそうにないわね……ソフィアに薬開発してもらおうかしら。」

「ソフィアは俺の味方すると思うけどな。それより姫さん、そろそろ戻らなくて平気か?」

「わっ、もうこんな時間!?ご飯の準備しないと!ソフィアたちに後で見張りの交代行くからって伝えておいて!」

「わかった。」

「お願いね!」


私が戻ってなかったら誰かが作るだろうけど…!!

急ぐのよ、私……!!

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