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辺境伯領民と公爵令嬢

お嬢様の手を引き、ステラさんを伴って領地を歩く。


「おじょーさま、そのひと、だぁれ?」

「初めまして。私はマリア・セザンヌよ。こっちが侍女のステラ。よろしくお願いしますね。」

「あ、おじょーさまがおまもりしてる、きぞくのひと!?」

「えぇ、そうよ。マリア様は公爵令嬢なの。皆、挨拶できる?」

「うん!!」


集まってきていた子どもたちが囲むように一列に並ぶ。


「「「「おーこくの、ひかりに、ごあいさつもーしあげます!」」」」


ペコリと一礼し、ピタリと止まる。

ソレにお嬢様とステラさんが目を見開いていて。


お嬢様の袖口を引いて、耳元に唇を寄せる。


「ラクにして良いって合図してあげてください。」


耳打ちすれば、咳払いを一つして。


「丁寧な挨拶をありがとう。顔を上げてラクにして頂戴。」


全員が揃って顔を上げ、チラリとこっちを見てくるから指でオーケーと合図をしてあげる。

そうすればパァッという効果音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべて抱きついてくる。


「見てた!?おじょーさま、ちゃんとできた!!」

「ぼくも!ぼくも、ちゃんとできた!」

「できたよ!!」

「えぇ、ちゃんと見てたわ。皆、すっごく上手になったわね。私の自慢よ。」

「おじょーさまのじまん!?」

「うん。いろんな人に、私の家族はすごいんだぞ〜って言って歩きたいくらい!」

「えへへ。」


一人ずつ頭を撫でてやれば、照れたように笑う。


子どもたちの元気な声を聞きつけた大人たちが顔を出して。


「お嬢様、その人がそうかい?」

「えぇ、そうよ。」

「わ、本当に絵画から抜け出してきたみたいな人だ。」

「アンタたち、ソレより先にいうべきことがあるだろっ。」

「と、そうだった。」


大人たちが揃って腰を折り、挨拶を述べる。


その光景にお嬢様とステラさんがまた呆気に取られていて。

代わりに頭を挙げるように合図する。


「皆、私が居ない一年ですごく成長したのね!前よりも動きが自然よ!」

「お嬢様の教えが良いからなぁ。」

「あ、そうそう。今日の学び舎はウイリアム坊っちゃんの講義なんだ。お嬢様も来るのか?」

「機会があればこっそり覗きに行くわ。私が覗きに行くと緊張するんですって。かわいいでしょ?」

「ハハハッ、お嬢様たちは本当に仲が良いなぁ。」


皆と話してる間も、お嬢様とステラさんから意識はそらさない。

皆が何かするとは思わないけれど、お嬢様たちが皆に何かをしてしまう可能性はゼロじゃないから。


「お嬢様、どこ案内するんだ?テレサの食堂か?」

「うん。食堂には案内するつもりよ。やっぱり自慢の料理食べて欲しいし。」

「じゃあ、食べ過ぎたときのために診療所で薬もらったほうが良いな。」

「もう!皆は飲み過ぎなの!長生きしなきゃ駄目なんだから程々にね!」

「おうよ!ニーナお嬢様のウエディング見るまでは生きるぞ、俺は!!」


いつも通りの調子で会話が広がって行く。

その光景をお嬢様とステラさんがびっくりした面持ちで見ているから。


「どうかなさいましたか?」

「あ…………少し、びっくりして。その、こんなに普通に話すことなんて今までなかったから。すごく、新鮮。」

「あぁ……。ココにいる間だけで良いので、慣れてください。お嬢様に害を与える人間はココには居ないので。」

「えぇ。」


お嬢様が小さく笑う。

それにステラさんは複雑そうな顔をする。

大方、公爵令嬢のお嬢様がこんな扱いをされるのが許せないのだろう。


「あ、そうだ。お嬢様、食堂に行くなら時間置いたほうが良いぞ。まだ、片付け終わってねーから。」

「わかった。教えてくれてありがと。」


となると……見て回れるのは…………。


「ユリア。」

「はい。」

「私、学び舎が見てみたいわ。」

「え。学び舎、ですか?」

「えぇ。ソフィアさんやアルベルトさんが礼儀作法を身に着けたのは学び舎だと教えてくれたの。駄目かしら?」

「駄目ではないんですが……、結構歩くので足元が辛いのではないかと。」


ココは王都とは違って道は舗装されてない。

ある程度のことをしてるとは言えど、王都に比べれば荒れた道と言える。


「大丈夫よ。出発前にユリアに言われた通り、孤児院に行くときと同じようにヒールの低い靴にしてるから。」


そう言ってチラリとドレスの裾を持ち上げる。

確かに、王都で過ごす時に比べればマシだけど。


「……わかりました。では、行きましょうか。」


こっちですよと二人を案内する。

子どもたちが、私達の後をついてこようとして、大人たちに止められていた。

そこまで気にしなくて良いのに。


「…………ユリアさん、このあたりの背が低い木は何の木ですか?」

「あぁ、リンゴの木です。食べられるような実がなるのはもう少し先ですが。」

「実りが多いと言われるコースター領とは思えない光景ですね、このあたりは……。」


ステラさんの疑問は最もだ。


このあたりにあるのは三年前のあの日から整備して新しく植えた場所。

まだ、一つも実りはない。


「荒野と変わらない気がします。」

「ステラ!」

「あはは、良いですよマリア様。やっぱり、王都育ちの方にはそう見えるのですね。このあたりは新しく開拓して、苗を植えたのも最近なんです。」


緑が少ないでしょ〜と笑いながら声をかければ、お嬢様が複雑そうな顔をして、ステラさんが素直に頷く。


「数年後には、立派なリンゴが実ってる予定です。」

「世話は、ユリアたちがしているの?」

「皆でしてます。コースター領に住む皆で交代で世話をしてるんですよ。皆で手分けして、この区画は今日は誰が水をやったとか、害虫を駆除したとか。」


本来なら、領主の私達がすべきなんだろうけど。


「見えて来ましたよ。アレが、私達の学び舎です。」

「!立派な建物ね…………。」


お嬢様が感嘆の声を漏らす。

当然だ。

学び舎は、私達の自慢で、大切な財産だ。


領主の屋敷の次に頑丈な造りの建物でもある。

まぁ、中は普通の木造建築なんだけど。


「ココに来て唯一王都と遜色ない建物がコレって……。」

「ステラ、いい加減になさい。」

「あはは!いやぁ、私もソレは思ってます。でも、私達の大切な建物なんですよ。今はちょうど剣術の稽古中ですね。」


建物に沿って歩き、陰から覗く。


「「「いち、に、さん!」」」


子供と大人が入り混じり、腕立て伏せ中。


どうやら今は準備運動中らしい。


「子供たちだけじゃないのね……。」

「この学び舎は領民全員が使えます。なので生徒は年齢バラバラです。でも、授業内容は同じです。」

「剣術の稽古をするためのトレーニング中?」

「はい。」

「講師は誰が?」

「講師は私達コースター家がしてます。今はお父様が主に教えてますが、お父様の代わりに私達兄弟が入ることも普通にありますよ。今回の講師は次男のウイリアムです。」

「辛くて手を抜くくらいなら休憩する!!怪我したらどうするの!!ほら、お水飲んで!!」

「あはは、ウイリアム坊っちゃんも立派な先生になったなぁ。」

「当然でしょ!兄ちゃんや姉ちゃんばかりに任せられないし!」


あぁ、ウイリアム立派になって……。

お姉ちゃん、嬉しい。


「ん?あ、姉ちゃん!!」


ウイリアムが笑顔で走り寄って来る。


「もう!なんで来たの!?僕が授業の時は見ないでって前言ったでしょ!」

「ふふ、久しぶりだから見たくなったのよ。」

「だからっていきなり…………、ご挨拶が遅れました。コースター辺境伯次男、ウイリアムと申します。姉がお世話になっております。」

「お世話になってるのは私の方よ。あまりユリアを責めないであげて。学び舎を見たいと言ったのは私なの。」

「そうでしたか。王都のお貴族様が見てためになる何かがあるとは思えませんが、姉の指示に従う範囲で自由に見学なさってください。」


ニコリと微笑むウイリアムにため息一つ。

その頬を引っ張る。


「ウィル、マリア様に生意気なこと言わない。」

「だ、だって……。」

「だってじゃありません。お客様には丁寧な対応をするようにってお父様にも言われてるでしょ。」

「…………ごめんなさい、姉ちゃん。」

「謝る相手は私じゃないでしょ。」


頬を放して促せば、バツが悪そうな顔をして。


「申し訳ありません。」

「い、いいのよ!全然気にしてないから!突然お邪魔したのは私の方ですし!!そ、それよりほら。生徒さんがお待ちのようよ?お仕事に戻って?」


チラリと私に視線を向けるから、コクリと頷く。

そうすれば、挨拶とともに去って行って。


「申し訳ありません、お嬢様。弟たちはまだ未熟で来客対応に慣れておらず……。」

「謝らないで、ユリア。本当に大丈夫だから。それより、学び舎の中も見たいのだけれど良いかしら?」

「それはもちろん。入口はこちらです。」


ウイリアムたちに手を振れば、ブンブンと大きく振り返してくれる。

休憩中の人たちもひらひらと手を振ってくれる。


再び建物に沿って歩くと、木製の扉を押し開く。


「両開きの扉なので、勢い余ってぶつかっても開くので安心してくださいね。」

「安心して良いの、ソレは。」

「中もしっかりした作りですね……。わぁ、この木の装飾、すごく立派ですよ、お嬢様。」

「本当ね。どこの職人さんを雇ったの?」

「雇ってませんよ。」

「え?」

「この領にある建物は全て、自分たちで建設したものです。外部に依頼して建てた建物はありません。」

「え…………?」


二人が目をパチパチと瞬く。

それにニコリと笑って、廊下を進む。


あ、ココの雨漏りなくなってる。

補修工事したって言ってたもんね。


「私達も余裕があるわけではないので座学に使える教室が一つと演習部屋が一つの計二部屋です。」

「その割には大きな建物な気がするのだけれど……。」

「はい。ココは避難所にもなっていますので領民全員が避難できるだけの空間を用意しています。我が家も避難所として解放はしているのですが我が家に行くには遠いって人も居ますからね。」


教室の扉を開けば誰が見ても手作りとわかる机と椅子が何脚も並んでいる空間が広がっていて。


もちろん、大小さまざま。


「高さを調整できるように分解と組み立てが簡単にできる作りになってますので、子供から大人まで安心して使えます。」


この調整機能は前世の記憶を使ってお父様にそれとなく伝えたところ、皆が試行錯誤しながら作ってくれた。


コースター辺境伯領の皆は立派な職人だと思う。

王都の本業の職人より仕事ができると結構本気で思ってる。


「ユリアさん、この薄いのはなんですか?」 

「紙にしては(いびつ)ね……。」

「ソレは薄く剥ぎ取った木の皮ですよ。このあたりで紙はめったに手に入らない高級品なので日常的に出る木の皮などで対応しています。あとは地面に木の枝でチョチョイと書いたり。」

「手に入らない……?」

「えぇ。この領地は、行商人が月に一度来るだけですから。それも定期ではなく、不定期。気ままに通りすがりの行商人が来てくれるだけです。まぁ、しょっちゅう顔を出してくれる顔見知りの行商人も居るのですがね。」


それでも月に一度が限界。

多分、もう少しお金があれば、どこかの商会と契約はできるだろうけど……。


「まぁ、近いうちに定期的に商人が立ち入りする予定なのでそんな悲壮な顔しないでください。」


ラチェット様に交渉して商会を動かす気満々だから。

あ、お父様にサインもらわないと。


「…………、ユリア。」

「はい。あ、疲れましたか?じゃあそろそろ食堂に行きましょうか。我が領自慢の味なんですよ。」

「違う。違うの、ユリア。」

「?」

「ごめんなさい…………。」

「何の謝罪ですか?」


はて、謝られるようなことされたかな。

首を傾げて悩んでいると、お嬢様が苦笑して。


「なんの…………そうね……私も、何が正しい言葉なのかわかってないの…………。」

「そうなんですね。じゃあ、言葉にしなくて良いですよ。それに、お礼ならともかく謝罪をされるような覚えが何一つ思い当たらなかったので!」

「ユリア…………。」

「言葉にできた時にお話聞きますね!さ、行きましょう!」

「そうね。すごく、楽しみだわ。」


お嬢様がようやく、いつものように笑った。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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