辺境伯令嬢の日常
朝ご飯を食べ、片付けを済ませると全員が朝の稽古と家の片付けに勤しむ。
庭の手入れ、家の中の掃除、訓練所の片付け。
「わ、壊れてた箇所が直ってる!」
「学び舎とかの修繕作業で余った材料使って直したんだ。見栄えはちょっと悪いけど。」
「充分よ!ウイリアムがやったの?」
「うん。ココは僕。で、あっちが兄ちゃん。」
二人共遜色ないデキだ。
なんなら、外壁塗装工事とか大工さんとかできるよ。
前世のプロと遜色ない気がする。
我が弟ながら惚れるわ。
「ふふ。わぁ、庭の畑も収穫時ね!これは……じゃがいも?」
「うん。アインとリオネルが掘り出すって張り切ってたから、姉ちゃん手を出しちゃ駄目だよ。」
「うん、わかった。」
「あっちの大根はニーナが掘り出すって言ってたから、ソレも駄目。」
「了解。」
新しく植え替えた野菜や、修復した場所をウイリアムに説明されながら見て回る。
やっぱり、手紙で報告もらった時よりも嬉しい気持ちがあふれる。
実感、できたんだろうなぁ。
「と、大きく変わったのはこのくらいかなぁ。あ、学び舎と領地はどうする?見る?」
「うん。ゆっくり見て回るわ。皆にも挨拶しなきゃ。」
「僕も一緒に行こうか?姉ちゃん、帰って来たばっかりで大変でしょ?」
心配してくれるウイリアムの頭を撫でる。
「大丈夫よ、ありがとウイリアム。じゃあ、私は領地を見て回ってくる。お昼にはテラサの食堂に居ると思うから。」
「わかった。無理しないでね!」
心配性なウイリアムに見送られ、大好きな領地を見て回る。
ただ歩くだけで声をかけてくれる領民に応えながら進む。
「お嬢様、絵本読んで!」
「おじょーさま、いっしょにはたけいこ!」
「おじょうさま!まなびやいこ!」
「お嬢様、トロッコもすごく便利になったんだぜ!腰が痛くない!」
「積みやすいようにって車輪の大きさを変えてくれたんだ、領主様が!」
「隣の子爵領のやつらも最近じゃあ、テレサの食堂の虜だぞ?昼間はアイツらよく来るんだ。」
「薬とかも手に入りやすくなったんですよ。子爵領からの嫌がらせがなくなったからだって皆笑ってるんです。」
「お嬢様、今度王都で仕事ある時は俺呼んでくれ!」
「いいや、私だよ!!次は飲み比べ以外の勝負だって領主様が言ってたんだから!」
「腕相撲にするか!?」
晴れた空、響くのは明るい声。
あぁ、本当に。
「幸せだなぁ。」
皆が笑って過ごしている。
その事実だけで幸せを感じる。
頑張って良かった。
皆が笑って過ごしている。
ソレが何よりも嬉しい。
「森の巡回も行くのかい、お嬢様。」
「うん。見張り台の皆にも挨拶しておきたいし。」
何より、領地の周辺に柵をたてたと言っていたからソレが見たい。
「じゃあ、いっしょにじゅんかいいくー!」
「さいきんへーわなんだよ!」
「でも、けいかいしてなきゃメッだよ!」
子供たちを連れて、一緒に国境付近に行く。
そうすれば、見張り台と同じかソレより高い柵があって。
「わぁ…!思ったよりも頑丈な国境ができてる…!!」
そりゃあ、消えるわ金貨三千枚。
てっきり木材で作った防護柵だと思ったけど、しっかりガッチリ金属の柵だ。
近くまで行き、触れる。
これは…………鉄?いや、違う。
「……………………嘘でしょ。」
我が領地の鉱山では、良い鉱石が採れる。
私の仕込み刀の刀身に使われている。
絶対になくすなとお父様が戦場に出る年に、お守りとしてくれた。
持ってるのは私とロイドくらいだろう。
加工が難しい上に取り扱える職人も少ない。
「……………………ダイヤモンドを砕いて混ぜたの……?」
「おじょーさま?」
「どうしたの、おじょうさま?」
「……、なんでもないわ。お父様が立派な防護柵を作ってくれたの嬉しいわね。びっくりしちゃった。」
変な汗が出てる、私。
だって……だって、だって……!!
いくらお父様が仕込み刀をくれる時にダイヤモンドの使い道について軽く教えてくれたとは言え、こんな大規模に使うなんて思わないじゃない!!
“売ってお金にする前に、自分たちの生活を整える必要があると思わないかい?”
“思う!”
“そうだよね、さすがユリアだ!”
ダイヤモンドを砕いて混ぜて作られたのは私達のお守り代わりの仕込み刀と、防護柵の二つになった。
「おじょーさまぁ!」
頭上からの声に手を振って答えれば、雄叫びのような声とともに勢いよく手を振り返される。
「お嬢様、いつ帰って来たの!?」
「夜の間にね!様子はど〜?」
「今日も平和そーですよ〜!」
「ん?あ、帝国軍!!」
「えぇ!?ずいぶん久しぶりだなぁ。」
指し示される先に視線を向ければ、武装した兵士たち。
まだ、指揮官の姿は見えない。
「おじょーさま……。」
繋がる手を放し、頭を撫でる。
「伝達!!久しぶりだからって忘れてないわね!?」
「「はい!!」」
この防護柵を見て何かをしてくるとは思えないけど……。
て、よく見ると突起がついてる。
足場ね、コレ。
防護柵突起に足をかけて登りきれば、直径十センチほどの足場が三つ。
柵に紛れ込ませて棍棒。
足場以外の場所は、尖ってて怪我しそう。
「よっと。」
棍棒を手に足場に立つ。
後ろの方で足音が聞こえている。
領民が集まってきたな。
「お嬢様、どうします!?」
片手をあげて合図を出せば、帝国軍が防護柵より三メートルほど離れたところで歩みを止めた。
相変わらず、統率の取れた動きだ。
息を吸い込む。
「この防護柵よりこちら側は、コースター領である!!帝国の支配地ではない!!どういった要件でココへ来られた!?」
私と同じように防護柵に登ってくる二人分の気配。
棍棒がぶつからない程度の距離をあけて足場は造られている。
左にお父様、右にロイドが立った。
「ずいぶんと久しぶりだな。」
「そうだねぇ。ユリアは帰ってきてそうそう災難だね。」
「おかげで帰って来たって感じがするわ。」
三人で会話をする。
帝国軍に動きはない。
「おや、彼が居ないね。また勝手な判断で攻めて来てるのかな。」
「可能性はあるな。……お、誰か出てきた。」
馬にまたがった指揮官らしい人物が歩兵隊の前に出てくる。
そして、防護柵の上で棍棒持ちながら立つ私達を見上げる。
「ココに、王都からの使者が居ると聞く!!大人しく差し出せば、悪いようにはしない!!」
ソレに思わず内心首をかしげる。
もちろん、表情には出さない。
「え、そんな人来てるの?」
「実験体のことだろ。」
「あーね。で、お嬢様は?」
「アルベルトとソフィアがついてるから心配はいらないよ。」
「そう。…………王都からの使者なんて過去一度も来たことはありませんが!!何かの勘違いでは!?」
「シラのきりかたが雑過ぎるだろ。」
ロイドからの苦言を頂いたが、仕方がない。
王都からの使者なんて生まれてこの方見たことない。
陛下依頼でマルクル様が来たのも王命のためだったし。
「隠し立てすると痛い目見るぞ!!」
「居ないものは居ないので!!」
指揮官の顔が歪む。
その間に周囲を確認するも、やっぱり居ない
「隠れてる気配もないね。」
「どうする?柵の下で戦うか?」
「ソレをすると侵入したのはこちら側になる。あくまでこれは防衛戦。対応はこの柵より内側だ。」
「下で皆が持ってるのは槍?新調したの?」
「防護柵のついでにね。柵の隙間から狙うには剣じゃあリーチが足りないから。」
「なるほど。」
帝国軍が弓を構えるのが見えた。
数名の槍を持った歩兵部隊が隊列を組み直してるのを確認する。
「頭上警戒!!」
ロイドの声に反応するように下に居た皆が銀色のシートを引っ張り潜る。
「アレ何?」
「超薄型の鉄。ある程度の攻撃なら弾けるだろ。ちなみに普段は雨漏り補修で使ってる。重たいから一枚しか持ち運びできねーけど。」
「アレを運んで頭上で構えてる皆って、本当に力持ちよね……。」
「くるよ。」
お父様の言葉で意識を向ければ放たれる矢。
届く範囲はすべてへし折るか叩き折る。
まぁ、ほとんどは風圧で落下したけど。
「な…っ!!」
「は…っ!?」
「化け物め……!!」
帝国軍の言葉にニコリと微笑む。
「被害状況!」
「ゼロです!!」
「よし。」
防護柵の上での動き方もなんとなくわかった。
「足元だ!!足元を狙え!!」
「二人共思ったより動けてるね、いけそうかい?」
「ん、大丈夫。」
「思ったより安定してて安心したわ。」
雑談していると第二陣が飛んできて。
それに合わせて柵を攻撃する部隊。
「わっ!?刃が欠けた…!?」
「鉄か!?」
「鉄にしては硬すぎるだろ!?」
まぁ、誰も高級な鉱石が混ぜ込まれてるなんて思わないよね……。
「柵壊される前に、殺るか?」
「私が降りる。」
ロイドが降りる前に飛び降り、棍を一振りすれば数名が飛んでいく。
攻撃対象が柵から私に向いたのを確認し、構え直す。
「お前ら!何をしている!!」
一瞬の隙をついて、敵を一層する。
倒れた人垣の間から見えた人物。
「居ないわけ、ないわよね。」
皇帝の血族を示す、銀糸の髪が揺れていた。
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