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辺境伯領へ

お父様へと手紙を出し、帰る旨を伝えたところ外部からの来客対応のための準備が整って来たと返事が帰って来た。


──被検体を連れて領地に帰って来るように──


この一文にすべての意味が込められている。

それはわかってる。

けど、これもう悪巧みしてんだろって言われても言い逃れできない文章よ、お父様……。


そんな手紙を受け取った私、意を決してお嬢様に領地に帰る許可をもらう。


「あら、じゃあ私も一緒に行って良い?」

「え、本当に言ってます?」

「もちろんよ。」

「ほんっっっとうに、何もないですよ?泊まる場所だって……。」

「構わないわ。それに、私が一緒に行かなかったら貴方とんぼ返りして来そうなんだもの。ステラ、荷造りして頂戴。私はお父様に話をして来るわ。」


あ、これは私に拒否権ないやつですね。

知ってました。


「はぁ。では、私は先行しますので。お嬢様はゆっくりと来てください。安全確認ができ次第、お迎えにあがります。」

「わかったわ。」


なぁんてやり取りがあったせいで、今現在苦労してるんだけどね。


「ソフィア、ルナの様子は?」

「大丈夫。睡眠薬が効いてるみたい。」

「良かった。……で、グレムート様はどうしてココに?」

「ソフィア嬢に話を聞いて。今回も道中警護を請け負いました。」

「ひ、人手不足を懸念しただけよ!深い意味はないわ!!」

「えぇ、存じております。ですが、頼ってくださりありがとうございます、ソフィア嬢。」

「…………っ。」


あら。私の知らない間にずいぶんと進展してるのね。

これは邪魔しないようにルナを預からなきゃ駄目かしら。


「にしても、今日は多いわねぇ。この間もこのくらい居たの?」

「ううん、居なかった。まぁ、こんなのんびり進まなかったし。」

「それもそっか。」


馬車に乗っていたとしても、御者はグレムート様とソフィアがしていただろうから、それなりの速度で領地に帰れたハズだ。


「じゃあ、あらかた片付いたことだし行きますか。」

「この者たちはどうするのですか?」

「グレムート様、詰め所まで連れて行ってくれますか?私達は先に行きます。」

「わかりました。」

「お願いしますね。」

「今日はどのあたりまで進まれるつもりですか?」

「今日中には子爵領に入る予定です。」

「……わかりました。では、お気をつけて。ソフィア嬢、くれぐれも無理はしないように。」

「さっさと行けば。」


ソフィアの対応に小さく笑うと、縄で縛った連中を引きずって行くグレムート様。


よし、これで身軽になった。


「さて、どう変わったのか楽しみだわ。」

「ユリアが見たらビックリするんじゃない?」

「そうね。皆から近況報告はもらってるけど、やっぱり実際に見たらビックリするかも。」


隣の子爵領をアルベルトが管理するようになってから、鉱山の方も落ち着いたみたいだし。

元々の領民も好意的だって聞いてるから大丈夫でしょ。


「んじゃあソフィア、ルナのこと見ててね。」

「えぇ。」


御者席に座り、手綱を握った。






無事に子爵領に入る。

今回はちゃんと、コースター辺境伯の紋章が入った馬車を使って居るため、止められることはない。

何より……。

「姫さん!」

「アルベルト!」

「お帰り、姫さん。」

「ただいま、アルベルト。調子はどう?」

「良い感じだぜ?強力な助っ人も居るし、領主様も手伝ってくれるからな。」

「ソレは良かった。」

「ソフィアたちは?」

「中。」

「どうする?こっち泊まって行くか?」

「ううん。二人をお願いできる?私は、一足先に領地に帰るわ。」

「わかった。」

「あぁ、それからマリア様が来る予定だから、時間があるなら私の代わりに出迎えお願いしても良い?」

「別に良いけど……。ソフィアにやらせた方が良くないか?そろそろ潮時だろ?」

「んー、それはそうなんだけどね。そのあたりソフィアに任せるわ。」

「そっか。」


ニカッとアルベルトが変わらない笑顔を見せてくれる。

それに笑い返して、御者席を降りようとすれば両手を広げるから。


「……何してんの?」

「何って……決まってるだろ?」


ニコリと笑ったままその場で待ち続けるアルベルト。

意図してることはわかっているけれど、気恥ずかしいのは私だけか。


「ほら、早く。」

「……………………重たいわよ?」

「姫さんが御者した後の恒例だろ?」

「初めて知ったわ。」


そりゃあお父様がよくしてくれてたけど。


覚悟を決めてその腕の中に飛び込めば、ガッチリとした身体が受け止めてくれて。


「おかえり、姫さん。」

「ただいま、アルベルト。」


お互いに笑い合って、おろしてもらう。


「彼は元気にしてる?」

「アイツ、すげーのな。ニーナに怪我させたやつだからって思ってたけど姫さんと領主様が認めただけあって、難しい書類ポンポン処理していくの。俺、全然できねーもんよー。」

「あら。やりたくないだけで、できるでしょ?」

「なんでそう思うんだ?」

「アルベルトだから。」


そう言えば、ポカンとした顔をする。


理由なんて、アルベルトだから以外にない。

私達三人の中で一番頭の良いアルベルトができないわけがない。


「彼はまだ起きてる?」

「いや、そろそろ寝てんじゃねーか?起こすか?」

「わざわざ良いわよ。また近い内に挨拶に来るわ。こっちの領地も見て回りたいし。あの趣味の悪い子爵が納めていた頃と雰囲気が変わってるみたいだからね。」

「おう!姫さんビックリするぞ?まぁ、コースター辺境伯領ほどじゃねーけどな。」

「ふふ、当然でしょ。私達の自慢の領地だもの。」


胸を張って言えばアルベルトが楽しそうに笑って。


「俺も、姫さんたちの領地が一番好きだ。」

「あら、自分の領地よりも?」

「当然。帝国が攻めて来ようが、食うもんに困ろうが、コースター辺境伯領(あそこ)は、姫さんたちに出会えた場所だ。」


笑顔のアルベルトと私の間を風が吹き抜ける。


あぁ、本当に。


「領主冥利に尽きるわ。」


そう言ってもらえるだけで、まだ頑張ろうって思えるから。

モブキャラでも、こんな素敵な環境に転生させてくれた神様には感謝しなきゃね。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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