テスト終了
うん。頑張った、私。
「騎士団の皆のおかげね。」
別日でテストを受け、皆より遅れて長期休みに突入。
張り出されたテスト成績は、判定不能で最下位記載だったけど。
「んー、はぁ!だーれも居ないなぁ。」
私以外は長期休みに入ってるから、学園の中は静か。
「コースター辺境伯令嬢。」
呼ばれなた名前に振り返れば、攻略対象であるマーシャル・タールグナーがこちらを静かに見下ろしていて。
「こんにちは、先生。」
「貴方は、何者ですか。」
「コースター辺境伯の娘以外の何者でもありませんが?」
求められている答えではないと知りながら、それだけを伝える。
「…………テストの日、襲われたようですね。」
「はい。ビックリしました。」
「なぜ、マリア・セザンヌ公爵令嬢に巻き込まれたと答えなかったのですか。」
「先生。マリア様は先に学園に向かわれました。その後に襲われた私が、なぜマリア様に巻き込まれたと報告しなければならないのですか?マリア様と一緒に居る時に巻き込まれたならまだしも。」
「…………。」
黒幕が誰かはわからないけれど、関わりがある人なのは間違いなさそうね。
「先生は、あの襲撃が私を狙ったものではなくマリア様が狙われたものだったとお考えで?」
「えぇ。でないと、おかしいでしょ?マリア・セザンヌを狙っているのは王太子殿下なのだから。」
間違えているハズがないと言いたげな声音。
どれだけ自信があるのかは知らないが、殿下がマリア様を暗殺する動機がない。
愛おしすぎて監禁しようとしてますって言われた方がまだ納得できる。
「ソレ、前から気になってたんですけど。どうしてそう断言できるんですか?殿下がマリア様を狙ってるならもう暗殺者なんて向けないと思うんですが。」
「…………と、言うと?何か心当たりでも?」
「私、先生に言われて殿下にお願いしました。マリア様を危ない目には合わせないと約束してもらいましたよ。」
さっさと黒幕を暴こうと今以上に人員を割くと言われていたし。
「殿下が嘘をついていると言うのですか?」
コテンと首を傾げれば、少したじろぐ。
そして、ごまかすように咳払いを一つ。
「貴方は貴族を知らなさ過ぎる。相手を騙すのは、常套手段です。」
「なるほど。でしたら、先生が私に嘘を伝えてるかもしれないんですね。」
「な…っ!どうしてそんな考えになるのですか!」
「だって相手を騙すのは常套手段なのでしょ?」
「……っ!!」
マーシャル・タールグナーの様子を観察していると、背後から気配を感じて。
誰か、近づいてくる。
「こんなところにいましたか、ユリア嬢。」
「シノア様っ?」
「やはりまだ学園に居ましたか。迎えに来て正解ですね。」
クイッと眼鏡を押し上げる。
「行きますよ、ユリア嬢。これ以上待たせないでいただきたい。」
「は、はい。すぐ行きます。では先生、ごきげんよう?」
慌ててシノア様に近づけば、来た道を戻っていく。
何か約束、してたっけ……?
「シノア様。」
「何も言う必要はありません。」
「…………。」
「ついてくればわかります。」
「誰が待ってるのかくらい教えてくださいよ……。」
チラリとこちらに視線を向けて、またスタスタと歩いていく。
ね、モブキャラだからなのはわかってるんだけどさ…………。
ヒロイン相手の接し方と雲泥の差すぎない!?
贔屓激しくない!?
画面越しに見てる時、そんな塩対応しなかったじゃん!!
そりゃあ、冷ややかな対応がなかったわけじゃなかったけどさ!!
「あれ、馬車?」
「乗ってください。」
「わ、ワイナール侯爵家の家紋が入ったこの馬車にですか……!?」
「セザンヌ公爵家やカルメ王家の馬車に乗るより緊張しないハズですが。」
「同じくらい緊張しますよ!」
そりゃあ、王家の馬車も成り行きで乗ったことあるしセザンヌ公爵家の馬車も理由が理由だからよく乗る。
だけど、緊張しないわけじゃない。
「し、失礼します。」
ドキドキしながら、シノア様のエスコートで乗車。
私達が乗り込んだのを確認して、動き出す馬車。
「どこに向かうのですか?」
そう尋ねれば、ため息を一つ。
そんなこともわからないのですかと今にも声が聞こえて来そうな視線。
悪かったわね。
攻略対象の中でも接触が少ない貴方のことなんてこれっぽっちも予想つかないのよ。
「ワイナール侯爵家です。」
「…………はい?」
「聞こえなかったのですか?ちゃんと聞いててください。私の生家、ワイナール侯爵家だと申したのです。」
数秒の思考停止。
「いやいやいや!なんでですか!?招待されるような理由が全然……、ぜんっっっぜん!!思い当たらないのですが!?」
「はぁ…知りませんよ。私も父上たちに貴方を連れて来るようにと言われただけなので。」
「何かの間違いでは?」
「王都にコースター辺境伯令嬢は何人居るのですか?」
「私一人です。」
「では間違いではありません。王都に居るコースター辺境伯令嬢を連れて来るようにと言われたので。」
だからその理由が知りたいのよ…!!
「……はぁ。わかりました。殴られる覚悟をしておきます。」
「なぜそのような野蛮な思考になるのですか、貴方は。」
「意味もなく呼び出される時はたいてい監禁か暴力だと相場が決まってます。」
「貴方は私の両親をなんだと思ってるのですか……。」
呆れたように言うシノア様から視線を窓の外へと移す。
まぁ、殴られるとは思ってないし監禁もされないとは思ってる。
だけど、相手の真意がわからない以上バカなフリをしてるのが一番得策。
何より、シノア・ワイナールは攻略対象。
ヒロインがまだ出てきてない以上、関わるのは最低限にしておきたい。
マリアお嬢様を狙うなら話は別だが。
「わぁ……大きなお屋敷。他の建物とは雰囲気がずいぶんと違いますし……。」
むしろ前世で見覚えのある洋風なお城と言うか……。
どこの国だったかなぁ……。
「おしゃれですね……どこのどなたのお屋敷でしょう?」
「ありがとうございます。今から貴方が入る邸ですよ。」
「…………。…………え。」
「ワイナール侯爵の邸なので。」
「どえええ!?このお城……、じゃくて、お屋敷が!?」
セザンヌ公爵家とはまた違った家の趣!!
というか、敷地の面積おかしくない!?
「我が家は庭は少し手狭なのですが、邸の中は広いのですよ。他の貴族とは考え方も構造も違います。」
シノア様が降りながら説明してくれる。
「さ、ユリア嬢、手を。」
「あ、ありがとうございます。」
手を借りて馬車から降りれば、玄関の前に何十人という使用人たちが待ち構えているのが見えた。
今すぐ帰りたいです。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




