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下級騎士団詰め所

連れてこられたのは下級騎士団の詰め所。


というよりかは町中にいくつかある駐屯地だ。


テントを張っただけの簡素なその場所に数多くの下級騎士団員が集まっている。


案内されるがまま椅子に座り、事情聴取を受ける。

取り終えた調書を持って奥へと退がったかと思えば、姿を現したのは下級騎士団の将軍。


「お久しぶりですね、ドナウ侯爵。」

「…………暗殺者に狙われたようだな。」

「えぇ。」

「お前が狙われたのか?」

「そうじゃないですか?」


今回はお嬢様ではなく私を狙って来たのは、暗殺者との会話で手に入った情報だ。

でも、お嬢様絡みで私を排除しようとしたのは間違いないだろう。


ただ、犯人がマーシャル・タールグナーなのかまた別の人間なのかがわからないだけで。


「学園へは遣いを出した。」

「ありがとうございます。」

「犯人に心当たりはないのか。」

「王都で恨みを買うほどのものを、私は持っていませんよ。ご存知でしょう?」


階級(くらい)だけは高い貧乏貴族の辺境伯。

それが、私達コースター辺境伯の王都での評判だ。


「それとも、私が狙われそうな理由に心当たりがおありですか?」

「あぁ。」

「…………。」

「貴様は()()()()()()()()()()だ。狙う理由としては充分だ。」

「…………私を討ち取っても領地は手に入らないというのに。」


皆口を揃えて言う。

コースター辺境伯だからと。

この肩書がどれだけの影響力を持っているのか私は正確には理解してないと思う。


お父様もお母様も、王都には必要最低限しか顔を出さなかった。

中枢にも興味はなかった。

今も、昔も。


「お前を餌に当主を引っ張り出したいのだろう。」

「あぁ、なるほど。お父様がわざわざ王都に顔を出すと。」


ニヤリと笑えば、ドナウ侯爵が怪訝な顔をする。


「考えが甘いですね。」

「なんだと?」

「お父様がわざわざ王都に出てくるわけないでしょう?」

「…………。」

「もし私が王都で死んだとしても、領地を離れることはないでしょう。」


お父様なら、領地からすべてを片付けるハズだ。

領地を出て行った皆の居場所を把握しているお父様が、わざわざ王都に出向いて情報を集める理由がない。


「それでドナウ侯爵。捉えた暗殺者十二名の身元は割れそうなのですか?」

「調査には時間がかかる。そうすぐには出ない。」

「…………そうですか。では、私はもうココに居る理由もありませんね。」


立ち上がれば、ドナウ侯爵が鞘に手を添える。


「穏やかではありませんね、ドナウ侯爵。」

「貴様の自作自演かもしれんからな。何、大人しくしていれば手荒な真似はせん。」


空を見上げれば、太陽はずいぶんと高くなっていて。


ため息を一つ。


「自作自演、ね。なぜ私がわざわざそのようなことを?」

「王都に居場所を作るために他ならない。今まで領地にこもっていたコースター辺境伯が、王都に長期滞在していることすら怪しい。」

「貴族の義務たる学園へ通うためですが。」


本当はお嬢様の護衛のためだけど。

王命で来てるだけだって言う必要はないでしょ。


「貧乏貴族が貴族の義務だと?貴族の恥さらしが生意気なことを。」


蔑んだような目に馬鹿にした表情。


まともに相手するだけ無駄だとわかっている。

わかっているけど。


「貴様が殿下やその婚約者、我が息子たちに取り入ろうとしているのは調べがついている。だから、愚かな末息子に近づいたのだろう?貴様ら親子は汚い手口がよく似ている。」

「ドナウ侯爵。」


コレは我慢しなくて良いよね?


「撤回してください。」

「撤回?何をだ?貧乏貴族だということをか?それとも貴様ら親子が汚く卑しいという事実をか?」

「いいえ。」

「いいえ?」

「愚かな末息子と罵ったことをです。」

「…………なに?」


周囲で黙ってことの成り行きを見守っていた騎士たちがざわつく。


「言ったでしょう、ドナウ侯爵。彼はとても優秀な子供です。思いやりがあって、とても聡明な子です。」


本編には名前すら出てこないモブキャラだけど。

私と同じ、ただの脇役にしか過ぎないキャラだけど。


「たかだか将軍の分際で、バカにしないでください。」


まっすぐにドナウ侯爵を見据える。


「彼は、次世代を担う御子息です。」

「貴様…………ッッッ!!!!」

「いけません、将軍!!」


騎士たちの静止の声も聞かず、剣を振り上げる。


仕込んでいたナイフを袖から取り出し、その剣の刃に突き立てる。

そうすれば、あっけなく折れる刃。


「な…っ!?」


袖に手早く戻し、手元を叩けば剣を取り落とす。


折れた刃が地面に突き刺さり、柄が地面に転がる。


「たく……いきなり斬り掛かって来ないでくださいよ、ビックリして折っちゃったじゃないですか。」


折るつもりなかったのに……。

弁償だとか言われたらどうしよう……。

セザンヌ公爵からもらっている給料だけで払える金額だったら良いんだけど……。


うぅ、ごめんねセバス。

帳簿からゼロいっぱい飛んで行ったら。


「す、素手で折ったのか?」

「コースター卿も素手で折ってたよな?」

「え、まさかご令嬢も同じように……?」


お父様は素手で剣を折れる。

刃の側面を叩けば良いと教えてくれたけど、私には素手で折るだけの力はない。

まぁ、叩く位置によっては簡単に折れると教えられたけど。


痛いからしたくないというのが本音だ。


「コレ騎士団の備品ですよね?請求はドナウ侯爵にお願いします。斬りかかられた正当防衛で折っちゃったので。」


一応、念の為声に出して言ってみる。

呆然と折れた剣を見ているドナウ侯爵が聞いてるかどうかは知らないが、周囲の騎士たちは聞いているだろう。

権力に巻かれているだけなら……詰みだな。


「責任を持ってドナウ侯爵家に対応させると約束しよう。」


第三者の声に振り返ればラチェット様が居て。


「見ていたぞ!さすが、野蛮令嬢!!」

「その呼び方やめてくださいってば。でも、なぜココに?まだテスト中では?」

「うむ。マリア嬢が歩いて学園に現れたからな。何事かと調べさせていたのだ。そうすればどうだ?マリア嬢と学園に向かってる最中に襲われたと言うではないか!あの野蛮令嬢に限って何かがあるとは思えんが、様子を見に来た次第だ。」


私に感謝するが良いぞ!と胸を張るラチェット様に感謝の言葉を述べたくないのは、私が歪んでるからじゃないよね?


「私は卒業が決まっているからな。正直テストなんて受けなくても問題はない。」


何も聞いてないのに答えてくれるラチェット様、ありがたい。


「何、礼は不要だ。私が勝手にしたことだからな。ハハハハハ!どーだ?私はデキる男だろう!?尊敬される男だろう!?アハハハ!!」


本当に台無しにする人だなぁ、この人。


この感じがもうね、モブキャラだわ。

メインキャラはこんなこと言わない。


「野蛮令嬢!ことのついでだ!久しぶりに手合わせしよう!!」

「嫌ですよ、めんどくさい。というか、アレは剣術大会だったから戦っただけで、今ラチェット様と剣を交える理由がありません。」

「ふむ…………。」


さて、今のうちに御暇しよう。

テストを本当に受け直せるのかどうかも確認したいし。


「よし。ならばこうしよう。私が負けたらユリア嬢に私が設営した商会をやろう。」


ピタリと足を止める。


確か、ラチェット様の商会は王国内であまり目立たない規模だったハズ。

だけど、ラチェット様独自のルートでそれなりに繁盛していたハズ。


「運営責任は私がもとう。会長としての責務は私にピッタリだ。野蛮令嬢には務まるまい。」


確かに、領地から出たことのない私がいきなり運営者になんてなれるわけがない。

前世でも経営経験なんて皆無だ。


「忙しくて商会の現場に私は顔を出せないからな。そういう権限は譲渡しよう。どうだ?悪い話ではないだろう?」


悪い話は一つもない。

責任は全部ラチェット様だし、私に権限を与えてくれると言っているだけで、許可を出すか出さないかはラチェット様次第というわけだ。


「望むなら、勝った後に話を詰めてやろう。どうだ?この勝負、受けるか?」

「…………何本勝負ですか。」

「フッ。男らしく、一本勝負だ。」

「わかりました、受けて立ちましょう。商会の件、約束ですよ。」

「あぁ。私は約束は違えない男だ。」


ラチェット様が騎士に声をかけて、木刀を用意させる。

ソレをジッと見ていると、肩をすくめて。


「ご令嬢に真剣を向けるのは、気が進まないんだ。」


私とラチェット様、それぞれに騎士が木刀を渡す。

礼を言いつつ受け取り、軽く振る。

小細工も何もされていない木刀。


「合図、お願いします。」


深く息を吐きながら、ゆっくりと木刀を構えた。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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