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テスト妨害

いよいよ今年最後のテスト。

今日は、お嬢様と同じ馬車に乗っている。


「お嬢様、何も今日に限って一緒の馬車に乗らなくても……。」

「あら、良いじゃない。貴方が私の馬車によくお世話になっているって学園では有名よ?」

「そりゃあ、貧乏貴族のコースター辺境伯令嬢がセザンヌ公爵家に恩返しされてるって話題になってますからねぇ。」

「皆暇よね。貴方は良いの?」

「あまり気にしてないですね。それに、裁判の時に私が助けに入ったのは隠しようもない事実ですし。」


子爵の裁判でちょっと目立ってしまったから、このくらいの噂はたつだろうと思ってた。

何より、お父様も居たのは不幸中の幸いだ。


「下手にお嬢様との関係を勘ぐられるより、良いと思ってます。」

「それはまぁ……そうだろうけど…………。」


その時、ガタンと馬車が急停車して。

身体が浮き、軽く頭をぶつける。


「痛い……。」

「何事?」


お嬢様が小窓から御者を見る。


「それが……、どうやら荷馬車が横転したようでして。このままでは学園へは間に合いそうになく…。」

「…………そう。仕方がないわね。歩いて行くわ。」

「私が先に降ります。」


周囲を警戒しつつ、お嬢様を外へと導く。


私達が乗っていた馬車のすぐ先には横転した荷馬車。

派手に野菜とかが転がっている。


手伝った方が良さげか。


「行くわよ、ユリア。」

「え、でも。」

「あれだけの人が居るわ。下手に制服を着てる私達が入れば、問題になるわ。」

「あ……。」


そうだった。

今、制服着てるんだった。


「行きましょ。」

「はい。」


両手で鞄を持つお嬢様。

お嬢様の左手を握れば、驚いたように振り返る。


「ふふ、迷子防止です。公爵家から学園への道は覚えてるので安心してください。お嬢様は利き手が右でしたよね?いざとなったら振り回すんですよ、その鞄。」

「今日の鞄が重たい理由、貴方が関わってたの?」

「嫌ですよぉ、ステラさんにちゃんと許可もらいました。」

「何を入れたの?」

「ちょっと厚めの本を二冊ほど入れただけです。片手で持ち運べる重さだろうなって調整はしました。」


お嬢様に鉄板をそのまま入れてるのはどうなのって前に怒られたからね。

仕方がないから優等生だからできるカモフラージュを考えた。

鉄板一枚入れるよりもかさばるけれど、本なら調べられても怖くないからね。


「貴方って人は…………。」

「ふふ。さぁ、行きましょうマリア様。」


路地裏の方が近いんだけど、大通り沿いに行くしかないか。


「…………お嬢様、走れますか?」

「?」

()けられてます。」


一人だけのようだけど、覚えのない気配。

おまけに、殺気だってる。


大通りでは攻めて来ないだろうけど、やっぱり路地裏には入らない方が良さそうだ。


「は、走れるわ。」

「じゃあ……テスト遅刻してもいけませんし、走りましょうかっ!」


お嬢様の手を引っ張って走り出す。

走り出した私達にピッタリと距離を保ってついて来る。


「ゆ、ユリア!前!!」

「!!」


何か騒ぎがあったのか、前方で人だかりができていて。


「人が急に倒れたたんだって?」

「いや、急じゃないみたいだぜ。誰かがぶつかったって話だ。」


あまりお嬢様を人混みの中に入れたくない。

が、仕方がない。


「…………お嬢様。」

「今度はな、に?」


腰を抱き寄せ、群衆に紛れる。


「鞄を胸の前で抱えてください。」

「こ、こう?」

「そうです。しっかり、抱いててくださいよ。」


騒ぎになっている中心をチラリと確認すれば、通りの真ん中で人が座り込んでいて。


大した怪我はなさそうなのに、動くつもりはないらしい。


人混みを抜け、手をつなぎ直す。


さっきとは別の気配。


「全く…………お嬢様は人気者ですね。」


マーシャル・タールグナーが犯人なのか、別の誰かなのか……。

仮にも学園の教師がテスト当日に仕掛けてくる?

せめてテスト問題で嫌がらせして来るくらいのレベルにしなさいよ。


このままだと、テストに間に合わない。


チラリと時計を確認する。


「ユリアさ〜ん!マリア様〜!」

「!」

「ソフィアさん!」

「わぁ、偶然ですね!歩く気分だったんですか?」

「いいえ、馬車に乗ってたのだけど道が混んでて……。」

「なるほど。じゃあ、一緒に行きましょ!」


ソフィアがお嬢様の手を握りニコリと笑う。


「ユリア様も!」

「ごめんなさい、私落とし物したみたいなの。先に二人で行ってください。テスト、遅刻してはいけませんから。」

「手伝いますよ?」

「大丈夫ですよ。私もテストが始まる前には行きますから。」

「約束ですよ!行きましょ、マリア様!」

「あ…………。」


不安そうなお嬢様に手を振って別れる。


ソフィアが来てくれたのは偶然だったけど助かった。

ココで数名足止めできれば、お嬢様の方に刺客が向かってもソフィアが居る。


「…………。」


ゆっくりと道を戻り、路地裏に入る。

そうすれば、ついてくる気配。


狙いはお嬢様じゃなく、私か。


「…………私、マリア様と違って狙われる理由がさっぱりわからないのだけれど。一体どこの誰が私を狙ってるのかしら。」


路地裏を抜ければ、人通りのない開けた場所。

建物の陰になっていて、誰もココには気づかない。


下級騎士団の警備体制を変える必要がありそう。


「ユリア・コースターだな?」


取り囲むように姿を現す暗殺者。


それにため息を一つ。


「ちょっと、女子学生相手にずいぶんと手厚い歓迎じゃない。何が目的なのかしら。」


十二人か……少し多いな。


「標的の始末に邪魔だから片づけろとの指示だ。」


手練れが十二人。

私を確実に殺せると自信があるから漏らされる情報。


深呼吸を一回。


「なるほど。断然わかりやすくて良いわ。」


鞄を足元に捨てるのとほぼ同時に踏み込んでくる暗殺者。

捨てた鞄を掴み直し、振り上げれば暗殺者に当たる。


決定打にはなってないけど、充分だ。


「テストがあるの。さっさと終わらせるよ。」


突っ込んでくる暗殺者の攻撃を避けつつ、鞄を振り回し、的確に急所を狙っていく。


確実に意識を奪ったわけじゃないから、起き上がってくるだろうけど。


「…………っ!」


鞄が手から落ちる。


暗殺者の手に握られたナイフが迫ってくる。


身体を捻り、その勢いを利用して壁へと投げつける。


「う……っ。」


うめき声をあげて動かなくなる暗殺者たち。


「たく……。テストだっつってんでしょうが。留年したらどうしてくれんのよ。」


地面に十二人転がってるのを確認する。


「さて、どうやってコレを運ぶか……。」


人を呼びに行ってる間に逃げられても困る。

かと言って今は縛るものも持っていない。


キョロキョロと周囲を見回せば、落ちていたロープの束。

近くには木材。


「ふむ。」


ロープを手に取り、具合を確かめる。


うん、大丈夫そうだな。


気絶してる人を後回しにし、意識のある暗殺者から手を縛って行く。

もちろん、列車のごとく全員連結。


舌を噛んだりしないように、猿ぐつわをはめていく。

特訓用の布持ってて良かった。


十二人全員縛り終えたのを確認して一息つく。


「はぁ……、テスト間に合うかな。」


この世界、腕時計がないんだよなぁ。

かと言って、ココに転がしたままで居るわけにはいかないし……。


「な、なんだこれは!」

「ん?」


あ、下級騎士団だ。


「これ、すべて貴方が……?」

「そうだけど。なんでココに?」

「通報を受けて。店の裏手でドスドスと重たい音が鳴っていると。」

「あ、コレお店の壁だったのか。」


この通りに入る前に左右のお店が何だったか確認してなかったからなぁ。

悪いことした。


「縛られてるコレは?」

「暗殺者みたいですね。ナイフ持って襲いかかって来たので、返り討ちにしました。口の中に毒が仕込まれてないかとか確認してないので、猿ぐつわは外さない方が良いですよ。」

「…………ずいぶんと手際が良すぎる。」

「怪しいですね。」

「あぁ。すまないが、ご同行願えるか。」

「えぇ?私今日テストだからさっさと学園行きたいんだけど。」

「騎士団に協力するのは国民の義務だ。」

「じゃあせめて学園に連絡くらいしてください。それくらいなら許されるでしょ。」


そう言えば、チラリと騎士団同士で顔を見合わせて。

諦めたように小さく頷く。


「……わかった。名前はなんだ。」

「一年D組、ユリア・コースター。」


縛り上げた暗殺者たちを運ぼうとしていた騎士たちも手を止めてこちらを振り返ってくる。

まるで時間が止まったみたいに。


「…………なんだと?」

「だーかーらー、Dクラスのユリア・コースター。クロード・カルメ殿下のクラスメートよ。」


再び名乗れば、さっきまで私を怪しいだの色々と言っていた騎士が目を見開いて。


慌てたように騎士の礼をとる。


「し、失礼しました!!コースター辺境伯のお嬢様とはつゆ知らず!!」

「処罰は受けますので、どうかご無礼お許しください!!」


何、急にこの人たち。


「学園には責任持って報告し、後日テストを受けられるように交渉させていただきますので!何卒!何卒我々にご協力を賜りたく…………!!」

「え、本当?ソレはとても助かる。」


テスト受けられなくて留年ですとか言われたら最悪すぎるし。

ヒロインと同級生とか絶対に嫌。

というか弟と同級生とか嫌すぎる。


「で、ではこちらへお願いします!おい!丁重にご案内しろ!!」

「はっ。」


その妙に緊張感のある態度に目を瞬いた。

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