一年生最後のテスト
コレさえクリアすれば、長期休みに突入する。
「ユリア嬢はこの勉強会必要ないのでは?」
「そう言わないでください、シノア様。私も仲間に入れてください。」
「嫌です。」
「…………。」
そして今回もお嬢様と殿下の声かけで勉強会を開催している。
前回と違うのは、今回はお嬢様と殿下が二人きりで勉強していること。
私とソフィア、レオナルド様とシノア様は四人固まって仲良く(?)勉強している。
「シノア様、感じ悪いですっ。私はユリア様に教えてもらいたいので、そんな意地悪言わないでください。」
「貴方も勉強なんて必要ないでしょう。」
「シノア様もしかして、私達の方が順位良かったこと気にしてるんですか?」
ソフィアの質問にクイッと眼鏡を押し上げて。
「誰がそんな小さなことを気にしていると?戯れもほどほどにしてください。私はただ、貴方たちは日頃から真面目な方々のようなので、必要ないのではないかと思っただけです。」
「クラスも違うのに、よく知ってますね?ひょっとして……、私達のこと好きなんですか!?ヤダ!ドキドキしちゃいます!」
「断じて!!違います!!」
ソフィアにからかわれているシノア様に苦笑する。
というか、普通にひどいよね。
仮にも攻略対象なんだから、もう少し遠回しに断ってほしかった。
普通に傷つく。
モブの扱いってそんなものなのかもしれないけど。
「シノア、ココを教えてくれないか?」
「レオナルド、貴方は脳みそまで筋肉になったようですね。そこは前回も教えたでしょう。」
そう言いながら教えてるんだよねぇ……。
シノア・ワイナールはツンデレキャラだったかな?
ヒロインにはそんな態度とらないからわかんなかったなぁ……、気心の知れた友達相手だからかしら。
チラリと殿下とお嬢様を見れば二人仲良く勉強していて。
うん、良い雰囲気。
「あっ、お嬢様だ!お嬢様〜!」
「ルナ!」
駆け寄って来るルナを座ったまま受け止める。
こういう仕草は領地に居た頃から変わらない。
「ルナ、貴方挨拶の仕方も忘れたの?」
「あ。」
素早く離れ、姿勢を整える。
「コースター辺境伯、ユリア様にご挨拶申し上げます。」
「えぇ、許可するわ。」
破顔して再び抱きついてくる。
「お嬢様だぁ!お嬢様、会いたかったよ!」
「えぇ、私もよ、ルナ。ルナ、お仕事は?」
「今からね、休憩行くの!さっきまでね、頑張ってお城の掃除してたの!窓拭きしてたのよ!」
「あら。そうなのね。窓がピカピカなのは、ルナが頑張ってくれたからね?ありがとう、ルナ。」
「えへへ。」
ルナが嬉しそうに笑う。
その頭を撫でて居ると、お嬢様抱っこと腕を伸ばしてくるから、笑いながら立ち上がって抱き上げる。
「大きくなったわね、ルナ。」
「本当っ?」
「えぇ、本当。」
そろそろ私がルナを抱き上げるのは無理かもしれないな。
ルナももう十歳だ。
小柄な方だと言え、それなりの重さと大きさはある。
勉強の邪魔にならないように、ルナを抱えたままその場を離れる。
「お嬢様、お勉強中だった?邪魔してごめんね、お嬢様。」
「大丈夫よ。少し休憩したいところだったから。それより、ルナ貴方こんな中枢の方も掃除してるの?」
「うん。ルナね、王太子妃のお部屋お掃除する練習してるの。」
「王太子妃の?」
それって……マリアお嬢様の部屋よね?
「すごいじゃない。大出世よ。」
「えへへ。今の侍女長がね、ルナは真面目だからって選んでくれたの!」
「そう。それは良かったわね。」
働き方が改善されてるのがわかる。
貴族ではないルナを王太子妃の部屋に立ち入らせるなんて、前代未聞に違いない。
それとも、また別の思惑がある……?
「…………。」
「お嬢様?」
ルナは平民だから、使い捨てのコマにされる可能性は充分ある。
でも、証拠もないのに結論を出すのは早計ね。
ま、子爵の問題のついでに片付けてくれたから変な輩は居ないと思うけど。
「ルナ、困ったらちゃんと相談するのよ?マリア様でも殿下でも良いから。定期報告の時でも良いわ。本当に困ったら直接邸まで走って着ても構わないから。」
「はい、お嬢様!ルナは、お約束守ります!!」
「えぇ、約束よルナ。」
人の気配にルナをおろし、視線を向ける。
覚えのない気配。
「誰かしら。近づいて来ないわね。」
「侍女長だよ。」
「え?」
「この気配、侍女長。」
「…………只者ではないわね、侍女長。」
殺意はない。
ただ、ひたすら見られている気配。
ルナに裾を引かれて視線を合わせれば、耳に唇を寄せて。
「王家の“影”なんだって。」
一瞬の思考停止。
理解するのと同時にルナを見れば、シーッと人差し指を唇に当てる。
「えへへ、内緒だよ。」
「ルナは、どうして知ってるの?」
「侍女長が教えてくれたの。ルナに隠してても、どうせバレるからお話しますって、侍女長が。疑いかけられて消されるのは嫌だからって。」
「ソレを証明できる証拠は?」
「陛下直筆のサインと王家の紋章が押された書類をもらったよ。昨日定期報告で渡したから、ソフィア姉が持ってると思う。」
「わかったわ。帰ったら確認するわね。ありがと、ルナ。危険なことはしないでね。」
ルナの頭を撫でれば、嬉しそうに笑う。
「お嬢様、大好きだよ。」
「私もよ、ルナ。ほら、休憩の時間がなくなるわよ。」
「大好きだよ、お嬢様。」
「?私も大好きよ、ルナ。どうしたの?何か不安なことでもあるの?」
「ううん、違うの。ただね、なんとなくモヤモヤした嫌な予感がしただけ。」
「…………大丈夫よ。でももし、不安で夜眠れないかもしれないなら………。」
「?」
「私が、特別なおまじないをかけてあげる。」
夢の中に私達が現れる特別なオマジナイをね。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝




