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事後処理

あの騒ぎの後、壊れた馬車や周辺を見て回った。

だけど、逃げた御者は見当たらなかった。


その代わりに、手がかりになりそうな貴族の紋章が入ったカフスは見つけた。

ユミエルに調べてもらっていた、貴族令息の家紋が入ったカフスをね。


あぁ、もう一つ収穫があったわ。

殿下が無事に誕生日会に現れて涙目になったお嬢様に我慢ならず口づけたという情報。

現在、貴族界隈や学園でのホットな話題だ。


正直見たかった。


「罪を認めたそうよ。本当は、セザンヌ公爵家に馬車で乗り込む予定だったみたい。」

「どこの単細胞バカの作戦ですか?お嬢様と無理心中するつもりだったってことですか?」

「落ち着いて、ステラ。私はただ、今事実報告をユリアにしているのよ。」


お嬢様が優雅にカップを傾ける。

隣でステラさんが不機嫌になるが、仕方がない。


「全く。とんでもないご令息ですね。お嬢様の婚約者に怪我をさせるなんて。信じられません。」

「幸い、クロード様もレオナルド様もかすり傷だからすぐに治るそうよ。」

「お嬢様が怪我しなくて良かったです。」


殿下が紋章の入ってない馬車から出て来たのは、すでに話題になってるそうだ。

二人に怪我の有無を確認しに来た貴族は数え切れないくらいに居るらしいが、どんな対応をしてるのかは知らない。

まぁ、学園で見る限りはいつも通りの振る舞いで応えていたように思うけど。


「ユリア、クロード様は大丈夫そうなの?残るような怪我はされていないと聞いてはいるのだけど……。」

「えぇ、大丈夫ですよ。それに今は主治医が見てるでしょう?数日で治ると思いますよ。」


それに、原作であった傷ができていなかった。

多分、迅速にソフィアが治療したのと人命救助で無理をしなかった結果だろう。


「あの日、ユリアが連れて行った騎士たち。」

「…………。」

「ごめんさない。あまり役に立たなかったようね。」

「もうお耳に入ってるのですか?早いですねぇ。」

「ちょっとユリアさん!もう少し気を使いなさい!」

「良いのよ、ステラ。今更だわ。」

「諦めないでください、お嬢様!!」


キッと睨みつけてくるステラさんに苦笑する。

仕方がないっちゃ仕方がないんだけどね。


「お嬢様こそ、勝手に私に騎士を貸し出したこと、公爵に怒られなかったですか?」


ちなみに私はめちゃくちゃ怒られました。


「殿下の婚約者として、公爵家として、責任を取るべき事態だと判断しましたって言ったら許してもらえたわ。」

「さすがお嬢様。良い切り札持ってますね。」


殿下の婚約者って肩書は重くのしかかる。

普段から振る舞いを観察されて、殿下の婚約者に成り代わろうとしている貴族たちに隙を見せない為の振る舞いをよく心得ていると思う。

そんな思いをずっとしてるんだとしたら……なんて、生きづらいんだろう。


良かった、悪役令嬢じゃなくて。


「貴方も、怪我がなくて良かったわ。」


その言葉にニコリと笑う。


「お嬢様は他人のことばかりですね。もう少し自分自身のことを考えては?」

「…………私は、自分のことばかりよ。」

「お嬢様が自分のことばかりなんて言わないでください。私達が自己中心的なわがままな人間になるではないですか。ね、ステラさん?」

「……………………そうですね。お嬢様がそのような調子では、ユリアさんは自分勝手な使用人という肩書になります。」

「あれ、そこ私だけなんですか?」


ため息交じり吐き出される言葉に苦笑する。

ステラさん、本当最近遠慮なくなったよなぁ。

私に対する敵意を隠さなくなったというかなんというか……。


「貴方たちも仲良くなったわね。」

「なってません。」

「だ、そうです。」

「あら。」


お嬢様が楽しげに笑う。

その表情に、ステラさんも表情を緩める。


この二人、本当に仲良しだなぁ。


「そういえば。」


お嬢様がこっちをジッと見上げてくる。


「ユリア、最近ずっと忙しそうだったけど落ち着いたの?」

「はい。ごめんなさい、うるさかったですか?」

「そういうのではないのだけれど……。またユリアが一人で暗殺者を退治してくれてたのかなって。」


良かった。

私がコソコソ王都の邸に帰って、色々としていたことは知られてなさそう。


「大したことはありませんよ。ソレが仕事ですから。」

「コースター辺境伯領で育った貴方からすれば、頼りないかもしれないけれど、ココに居るのは選りすぐりの人たちよ。もう少し頼っても大丈夫だと思うのだけれど……、そういうのは良くないのかしら?」


お嬢様、困り顔も可愛い。

ステラさん、睨まないでください。


「う〜ん?良くないかどうかは知らないですが……。最近暗殺者の数が目に見えて減ってるんですよ。それがどういう意味なのかわからないので、下手に人員を割けないな、と。」


確実にお父様が壊滅させた組織が関係しているとは思うのだけどね。

長々とした手紙を送りつけたのに、グレムート様が頑張ってくれたんだねって他人事みたいな言葉が綴られていたし。

今回の件、お父様が裏で糸引いてたのは間違いないのに情報共有ないし。

ロイドも王都(こっち)に来た時に話すとしか書いてくれないし。


「まぁ、気にしなくて良いですよ。お嬢様の身の安全は殿下や陛下が保証してくれますし、公爵様もいらっしゃいます。それに邸にはステラさん、学園では私に殿下、レオナルド様が居ます。」


ニコリと笑って小首を傾げる。


「不安になる要素ありますか?」


むしろ学園が一番の安全地帯なんじゃないかと思っているのに。

お城は駄目ね、ニーナとお嬢様が誘拐された事件は忘れないわ。


「そこまで自信満々に言われると、反応に困るわね。ふふ、そうね。私もユリアに鍛えられて成長したし、ステラも心強いし。」

「えぇ、もちろんですお嬢様。私、ユリアさんよりいつか絶対に、ぜ〜ったいに強くなりますから、期待しててください!」

「えぇ、楽しみにしてるわ。」


やる気に満ち溢れるステラさんと微笑ましそうなお嬢様。

微笑ましい光景を目に焼き付け、空を見上げる。


雲一つない青空が広がっていた。

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