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放課後デート

お嬢様とソフィアの授業が長引いているらしい。

なので、私は殿下を連れてお嬢様が現在居る演習場へと来ている。


「さすがだな、ユリア嬢。マリアの時間割まで把握しているのか。」

「把握してないと、護衛できませんから。レオナルド様やシノア様も殿下の時間割を把握しているかと思いますよ。」


あの二人はあまり殿下の前に姿を見せないけど。


「私、演習場って剣術の稽古だけで使うものだと思っていました。ダンスレッスンでも使うのですね。」

「学園は社交を学ぶ場だからな。それに貴族階級によって学べる内容が変わる。その隔てりをなくすのが目的だ。」

「なるほど。上位貴族と下位貴族では雇える先生のレベルが変わるんでしたね。」

「あぁ。そういえば、ユリア嬢は誰に教わったんだ?マリアに引けを取らないように見えるんだが。」

「ありがとうございます。私の先生はお母様です。」

「コースター夫人が?」

「はい。基本的なことはすべて母に教わりました。コースター辺境伯は帝国の脅威にさらされている領地。来たがる御夫人はどこにもいませんから。」

「……、無神経な発言だった。許してほしい。」

「気にしてませんよ。それに、マリア様と遜色ないなんて最高の褒め言葉です。」


殿下がホッとしたように微笑む。


そんなに、気にしなくて良いのに。

私達はモブキャラ一家。

メインキャラとこうして関わりを持てているだけでも、充分凄いんだから。


ガヤガヤと人の気配が近づいてくるので、視線を移す。


「どうやら終わったようですね。」


演習場から出てくる団体の中からソフィアとお嬢様を見つける。

なんの話をしているのか、二人が楽しそうに出てくる。


「マリア。」

「!クロード様っ。」

「ずいぶん長引いたようだね。」

「えぇ……。建国祭まで日も近いからか、先生の力が入ってまして…………。」

「なるほど。マリアは完璧だから、心配しなくて良い。」

「いいえ。私はまだまだですわ。クロード様の隣に立って恥ずかしくないように、精進いたします。」

「そうか。あまり気負いすぎないでくれ。何かあればフォローする。」

「はい。ありがとうございます。」


人通りのある中、微笑みあう二人。

そんな二人にチラリと視線を向けては通り過ぎていく人たち。


わかるよ、わかる。

見たいけど、見たらダメって罪悪感があるよね。


「それじゃあ、行こうか。」

「え?今日は公務がない日では…………。」

「このままデートに行くのは嫌かい?」

「い、嫌ではありません。ただ、あまりお休みがなかったのですから、ゆっくりお休みになった方が良いのでは?」

「マリアと一緒に居たいんだ。」

「…………、そういうことなら……。」


差し出された手をおずおずと取ると二人並んで歩いて行く。

その後姿を眺めて見送る。


「ね、アレ絶対私達のこと忘れてると思うんだけど。」

「奇遇ね、私もそう思う。」


ソフィアと二人、少し離れてついていく。


いつもならレオナルド様が交流してくるんだけど……、今日はまだ姿が見えない。

お嬢様たちAクラスの授業が長引いていただけだから、ひょっとしたらすでに学園を出ているかもしれない。


殿下も、私が引っ張らなければお嬢様の授業が長引いていることを知らないっぽかったし。


「ユリア嬢、ソフィア嬢。」

「「!」」

「二人さえ良ければ一緒にどうだろう?」


殿下がにこやかに声をかけてくれる。


多分、私がお嬢様の護衛をするための言い訳なんだろうけど……。


「え?クロード殿下とマリア様のデートですよね?私もユリアさんも邪魔になるんじゃ……。」

「二人は王都に来て日が浅いだろう?良ければ案内するよ。きっと、気にいると思う。」

「わぁ!本当ですか!?行きましょ、ユリアさん!」

「そうね。では、お言葉に甘えてご一緒させていただきます。あ、でも私達はオマケなので、マリア様とのデートに集中してください。」


メインヒーローとは思えない誘い文句だけれど。

スマートな誘い文句をつらつらと並べている印象のあるキャラなだけに、すごく違和感のある誘い文句だ。

なんかもう……、お嬢様以外に対する誘い文句に力が入ってないというか、適当と言うか……。

いやまぁ、お嬢様一筋なのは良いことなんだけど。


学園を出ると、王家の馬車が止まっていて。

どうやら馬車移動するらしい。


どうしよう、私達徒歩なんだけど。


「ユリア。」

「はい、マリア様。」

「私の馬車、お二人でお使いになって。貴方たちのことだから、馬車呼んでないのでしょう?」

「ありがとうございます。ご好意に感謝します。」


お嬢様のお陰で私達、徒歩で馬車を追いかける必要がなくなりました。


お二人が王家の家紋の入った馬車に乗り込んだのを確認して、私達もセザンヌ公爵家の家紋が入った馬車に乗り込む。


「わ、ふかふか!」

「すごいですね。」

「すごいのはこの状況ですよ。マリア様が乗ってないのに、ただの同級生である私達だけでこの馬車を使ってるんですから。」

「…………確かに。」


主不在の馬車。

それでも、お嬢様の命令でなおかつ護衛兼侍女の私が乗車しているから御者は何も言わずにいる。


私が馬車泥棒だったらどうするつもりだろう。


ゆっくりと動き出す馬車。

窓の外の景色が流れていく。


「ね、ユリア。」

「ん?」

「どこに行くのか聞いてる?」

「何も。お嬢様も知らない様子だったから、殿下の完全な思いつきか、お嬢様へのサプライズでしょ。」


御者に聞こえないように小声で会話する。


蹄の音で聞こえないだろうけど、念の為だ。


「サプライズ……サプライズねぇ……。」

「?どうかした?」

「今ふと思ったんだけど……。」

「ん?」

「マリア様の誕生日パーティーって、再来週じゃなかった?」

「………………………………あ。」


そうだ、すっかり忘れてた。

今の今まで普通に忘れてた。

そうだよ、ステラさんがお嬢様の誕生日パーティーは毎年盛大にお祝いされるって言ってたんだった。


「ユリア、ひょっとして忘れてたの?」

「ほら、私……主催者側だから。すっかり抜け落ちてた。」

「呆れた……。私の手元にもちゃんとパーティーの招待状届いてるのに。」


苦笑するしかない。

完全に私が悪いから。


「でも、ソフィア宛の招待状って私の邸に届くんでしょ?すでにお嬢様に私達の関係バレてる可能性ってないの?」

「あぁ、そこは大丈夫よ。どうやったのかは知らないけど、領主様が対策してくれてるから。私達のことが郵便物からバレることはないわ。それこそ、配達員が敵とグルじゃなければって話だけど。」

「お父様が根回ししてるなら大丈夫よ。」


お父様のことだから、私の邸に来る配達員まで買収してる可能性はある。

領地の方の資金繰りではできなくても、王都の方の資金なら、そのくらいできそうだし。


「あの二人、最近良い雰囲気だし心配いらなさそうよね。」

「今のところはね。暗殺者の数も目に見えて減ってはいるけど……、なぁんか怪しいのよねぇ。」

「え、何。あの変態教師何か企んでるの?」

「何か企んではいるみたいよ。でも、そんな先生すら手駒にしようとしている人物が居る。その黒幕が何を考えてるのかは、掴めてない。」


マーシャル・タールグナーとその黒幕の思惑が一致したうえでの協力関係かと思っていたけれど、自白剤の効果は知らないみたいだった。


「マーシャル・タールグナーには協力者が二人居る……?」

「え……?」


ありえない話じゃない。

殿下とお嬢様の婚約破棄を望んでいる人物が、わざわざ自白剤を用意する?

私やソフィアから何かを聞き出そうとするためだったとしても、協力者であるマーシャル・タールグナーにはあのお香の中でお茶を飲まないように注意はするハズ。


マーシャル・タールグナーを陥れたい人物と、マーシャル・タールグナーを隠れ蓑にしている二種類の人物が居る。


「ソフィア。」

「…………。」

「貴方確か何回かマーシャル・タールグナーに話しかけられてたわよね。毎回同じ内容?」

「そうね。貴方の秘密を知っています、知られたくなければ協力しなさいって。」

「明確な脅しじゃない。」


あの人、学問の分野で優秀とかおだてられてる人でしょ。

なんでそんな三流な脅し文句なの。


「バラされて困る秘密なんてないから、いつも聞き流してるんだけどね。というか、力技で来たとしても私のほうが強いわよ、絶対。」

「男女の力の差は歴然。過信はよくないわ。」

「わかってる。でも、大丈夫よ。いくら頭が良くても、薬の分野で負ける気はしないから。手数もね。」


ニヤリと笑うソフィアに苦笑する。


そりゃあ、アンタの手持ちは治療薬どころか毒薬もあるけれど……。


「あ、ついたみたい。」


ゆっくりと停車する馬車。

窓の外を見てみれば、何もない開けた場所で。


「何があるんでしょうっ?楽しみですね、ユリアさん!」

「……えぇ、そうね。」


せめて、何も無ければ良いんだけど。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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