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出立前夜

明日にはココを出るからと色々と準備をしてる私宛に王都から手紙が届いて。

内容は、お父様と揃って城へ顔を出すようにと書かれた勅命書。


「逃げるなよって念押しされてるみたい……。」


王様から直々に、王太子の婚約者であるマリア・セザンヌ公爵令嬢の護衛兼侍女をお願いされては、断るのも難しいということを改めて理解した。


何よりも王命。


従わないわけにはいかない。

もとより、行くと決めたのは私なので(そむ)くつもりはないけど。


「ふぅ、終了!」


荷造りも終え、一息つく。

明日、私はこの屋敷を出る。

可愛い弟たちに引き継ぎはしたし、持ち物も確認した。

ロイドのことだから、葬送曲もすぐにマスターするだろう。

あと、やり残したことは……。


「…………最後だし、行くか。」


窓の外を眺めて、部屋を出る。


「ユリア?どこかへ行くのかい?」

「うん、散歩。」

「こんな時間にかい?いくらなんでも危ないから、誰か連れて行きなさい。」

「大丈夫よ、アルベルトが居るから。」

「……わかった、早く帰ってくるんだよ?」

「うん。」


渋々な感じはあったものの、外出許可が出た。


きれいな月夜に領地へ飛び出すのは初めてじゃないから、お父様もそこまで言わない。

けど、明日が出立ということで思うことがあるんだと思う。

それでも何も言わないのは、お父様なりの優しさ。


月明かりと最低限の明かりだけで照らされた領内を行く。

アルベルトと一緒だとお父様に嘘ついたので、一応アルベルトの家に寄ろう。

食堂の傍にある木に登り、アルベルトの自室である二階の部屋を覗く。


「……、あれ。居ない。」


アルベルトは不在にしてるらしい。

と、いうことはあそこかな?

私達の思い出と場所。


「……っし。」


木々の間を抜け、目的地へと行けば。


「やっぱりココに居た。」

「姫さん。」

「あれ、一人?ソフィアが一緒かと思ったのに。」

「…………アイツはさっき戻った。」

「あー、入れ違いか、残念。」

「なんか用事か?」

「ううん。ただ、明日にはココを出るから。最後に会いたかっただけ。」


アルベルトの隣に腰をおろす。

ココから見える景色は、三年前のあの日から変わってしまった。

もっと、素敵な景色が広がっていたのに。

湖も、草花も、小魚だって泳いでいて。

月明かりに照らされたその景色がお気に入りで、この場所を秘密基地にしたのに。

あの日、壊れてしまった。

何もかも。


「明日か。」

「うん。」

「姫さんの夢に一歩近づくな。」

「うん。」

「心境は」

「ドキドキワクワクより不安の方が大きいわ。」


私が領地を離れてる間に何かあったらと思うと怖い。

王都に行くのは楽しみだけど、悪役令嬢の傍に居なくちゃいけない。

ソレってつまり、嫌でもゲーム世界に巻き込まれるってこと。

ヒロインと同級生ではないだけマシなのかもしれないけど。


「出会った瞬間、王様に喧嘩売るなよ?」

「そんなことしません!私のこと単細胞バカだとでも思ってるの?そんなことしないわよ。」

「念のためだよ。姫さんの昔からの願いだろ?王様に直談判。」


アルベルトがニコリと笑う。


「姫さん、手段選ばない時あるからなぁ。俺たち居ないからって無茶すんなよ?」

「しないってば。心配しすぎ。」


幼馴染は心配性で困る。

もう、子供じゃないのに。


「そういうアルベルトはどうするの?騎士団の入団試験日も近いでしょ、確か。」

「あー、ソレは今良いの。俺、やることあるから。」

「やること?あ、食堂の手伝い?」

「そー。あと、ソフィアの手伝い。」

「ソフィアの?」


アルベルトはこの領地唯一の食堂だから、戦も終わったし手伝ってほしいのだろう。

ソフィアの家は領地唯一の薬剤師だからと医者の真似事もしてくれる。

薬の調合がメインだけど、医療行為も知識があるからと助けてくれる。

アルベルトの手を借りるってことは……。


「包帯まだ足りなかったのかな。ごめんね、アルベルト。明日、私の代わりに謝っておいて。」

「会わねぇの?」

「朝早いから、会えないかも。それに、ソフィアは見送りに来るようなタイプじゃないでしょ。」

「確かに。」


折りたたんだ膝の上に頭をあずける。


「ごめんね……。」


私達が貧乏貴族なんかじゃなかったら。

私達にもっと力があったら。

こんな苦労、かけないのに。


「アルベルトの入団試験、また延期になっちゃう。」

「気にすんな。俺が決めたことだから。」

「でも…………。」

「姫さんが王都に居るなら遊びに行っても怖くねーな!姫さんに会いに王都に行くから、その時はよろしくな!」


ニカッと笑うから。

昔からその変わらない笑顔に救われてきて。


「ふふ。事前連絡してね?」

「おう!任せろ!領主様にちゃんと出してもらう!」


その笑顔にきっとこれからも救われることになるんだろう。


「っし、そろそろ帰るよ。アルベルトはどうする?」

「俺も帰る。姫さん一人でこんな夜中に歩かせてたら皆に怒られるしな。」


立ち上がるアルベルトを改めて見る。

ほんと、いつの間に身長抜かされてるんだろ私……。


「どうした?」

「ね、アルベルト。」

「ん?」


ごめんもありがとうも言い足りないけど。


「皆のこと、お願いね。」

「おう、任せろ。」


パチンと手のひらが鳴った。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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