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歴史という名のファンタジー  作者: みなと劉
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86話

「あ、ありがとうございます! わぁ~、こんな所で会えるなんて、思わなかったなぁ……!」

彼女は 心底嬉しそうな声で 呟きながら、何度も頭を下げてくる。そして、その視線は再び 先程の書物に向けられているようだった。……というより これは……完全に 何かに取り憑かれた感じになってるよな。

それから 暫くの間、彼女は 黙々とその書物を読み耽っていたのだが……突然、ふぅ……と一息つくと、こちらの方へと向き直ってきた。

「あの……大変失礼致しました。私ったら、いきなり興奮してしまって……」

彼女は苦笑いを浮かべると、もう一度 深々と頭を下げてから その本を僕に返してくれた。

「ははは、まぁ……気持ちはわかりますよ。まさか『神々の遺産』に巡り合えたなんて……滅多にあることじゃないでしょうからね」

僕も苦笑いを浮かべながら、彼女の言葉に対して同意するように うんうんと二度ほど縦に首を動かしつつ答えた。すると、彼女の方から 意外な言葉を耳にすることになった。

「あの……もしかして、あなたも この『アテナ・サキュラス』に付いて調べていらっしゃるんでしょうか?」

「はい。『勝利の女神』……っていうぐらいだから、戦いの女神なのかなって思っていたんですけど……『学問の女神』っていう側面もあったみたいで。……ただ そのせいで、どういう神様なのかが よくわからないんですよね」

「なるほど、そういうことでしたか。確かに、この神様については まだまだ謎に包まれていることが多い神様なので、なかなか情報が出回らないみたいなんです。でも、私は『アテナ・サキュラス』は とても素敵な名前だと思うんです」

「はい、それは同感ですよ。だって、アテナっていうのは 確か……ギリシャ語で『守護神』を意味する言葉だったと思うんで」

「へぇー、よくご存じなんですね?」

彼女が感心したように目を丸くするので、僕は慌てて首を横に振った。

「いやいや、前に母さんに教えてもらっただけです」

と、そんな事を言っていると、横に座っていたルリさんがクスッと笑みを漏らした。

「……でも、どうして そんな事を調べてるのかな?」

と、ここでルリさんが質問を投げ掛けてきた。

……しまった。この前 二人には話したはずなのに、すっかり忘れてしまっていた。でも、もう ここまで来たら誤魔化せないか。僕は溜め息をつくと、ゆっくりと顔を上げて、それから二人の方を交互に見やった。

「実は、その 例の事件の真相について探っていこうと思っているんです。そのために今 どんな神様に会えばいいのかとか、色々と考えていたところなんです」

と、正直に話すと、ルリさんは納得のいったような表情で「あぁ、そういえば そんなこと言ってたもんねぇ」と言いながら何度か首を縦に動かした。

一方、少女の方は何やら考え込むような仕草を見せた後に おもむろに立ち上がって口を開いた。

「そうですか……。それでは 私達と一緒に行動されませんか?」

「えっ? それってもしかして……」

僕は彼女の言葉を聞くなり、少しだけ期待を込めた眼差しを向けた。すると、彼女は微笑むなり、大きく一回だけうなずいた。

「ええ、あなたのお役に立てるかとは思いますよ」

「ほ、本当ですか!?ぜひお願いします!!」

僕は椅子から立ち上がると、深々と頭を垂れながら言った。

これで、ようやく 他の神とも会うことが出来るようになるはずだ。

しかも それは、『学問の神』『芸術の女神』『音楽の女神』などという側面を持った神様だ。一体、どのよう 性格をしているんだろう? それに 容姿についても 詳しく知っておく必要はあるだろうし……。

……そうだ、この際だし ちょっとだけ確認しておくか。

「あの……ちなみに お聞きしたいんですけど……『音楽の女神』の人って 何歳くらいの女の子なんでしょうか?」

「えっ……えっと、多分 私と同じくらいだとは思うんですけど……」

「そういえば、私も同じくらいの年齢かもしれない」

僕の問いかけに、二人は戸惑いながらも お互いの顔を見合わせた。

そして、そのまま少しの間が空く中、彼女は ハッとした様子で目を大きく見開いたのだ。どうやら 何か思い出したようだ。……これはもしかすると 何か手がかりを得られるかもしれな……い…………。

……その時、ふとある疑問が脳裏に浮かんできたのだ。

僕はそこで一旦思考を中断させると、静かに目を閉じてから、自分の中にいるもう一人の僕を呼び起こすように意識を傾けていった。

(……お前、もしかして さっきからずっと僕の中に居たんじゃないのか?)

僕が小さく問い掛けると、すぐに答えは返ってきた。……というより、まるで僕の脳内に直接語りかけてきたかのように思えた。……やっぱりな。恐らく

『勝利の女神』の人から話しかけられた瞬間から 今までの間、ずっと 僕の中に潜んでいたのだろう。……全く、こいつは 本当に何を考えているのやら。

(おい、なんで わざわざ隠れていたんだよ。僕の中でじっとしていればよかったじゃないか)

僕が再び問い掛けると、再び 奴の声が聞こえてきた。……まぁ 待てよ、そんな焦るなって。

と、いうわけで、俺はこれからお前に協力をしてやることにしたよ。だから、よろしく頼むぞ! 僕に その言葉を向けられて、僕は 思わず溜め息をついた。

なんという上から目線……。でも、協力してくれるなら それで構わない。とにかく、僕に協力してくれるのであれば、こちらからも お願いがあるんだけど……

(……あの、俺が誰なのか わかるか?)…………。

はいはい、わかったよ。……で?『僕』にお願いって……何なんだ?……と、『僕』が言うと、僕の中にある僕とは別の存在、そいつから声が聞こえてきた。……よし、ちゃんと気付いてくれたみたいだね。

(ああ、勿論だよ。……それより、君も『俺』って言っていたよね。もしかして、二人同時に話してたってことなのかい?)

うん、そういうことだね。だって、僕は 君であって、君は 僕であるわけだから。だから つまり、僕は 君であり、君は 僕ってことになるね。

(な、なるほどね……。でも、どうして 二人に別れたんだい?別に 一つのままでも良かったんじゃないのかな?)

うん、それも もっともな質問だね。……でも、それについては答えられそうにもないな。何故か……といえばね。……この身体は『器』に過ぎないからなのさ。

彼は どこか自嘲気味な笑みを浮かべると、そう言ったのだった。僕は、彼の口から発せられた『器』という言葉の意味を考えると、ゆっくりと顔を上げた。

器?それはどういう意味なの?……僕が尋ねると、また別の方向から同じ言葉が投げ掛けられる。

……言葉の通りだよ。今、君達と会話している俺は、肉体の代わりの かりの姿でしかないのさ。

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