85話
『カ』は ギリシャ文字の『K』のことを表しているらしく……『KAGAKU』とは
『KAGAKU』……つまりは 日本語のことで、この文字の語源となった言葉は『上古日本語』だと考えられているようだ。そして、『カ』は『火』を意味する言葉だったのだという説もある。だが、他にも 色々な説があるので、その真相はまだ明らかになっていない。
ちなみに……『魔術・魔導書・魔法書』を意味する ラテン語の言葉『magi』も……もとはといえば、この『K』と同じ意味だったと言われている。
『魔術・魔法』という言葉の意味は……そのまま
『神秘的な術』や『不思議な現象』という意味で使われているのだが……元々は、このラテン語の言葉を語源としているらしいのだ。そして そこから 英語にも変化していき、それが 今の『magic』になったというわけなのだ。だから、元々の原意には『魔の法(魔術)』と書いてあったはずなんだけど……今は ほとんど使われなくなっている。
「ふぅ……」
そんなことを考えながら、僕は軽く溜め息をついた。そして、ゆっくりと視線を上げると、そこには……机の上に広げてある 一冊の本へと向けられていた。……しかし まさか、この僕が『古代神話』に興味を抱く日が来るなんて思ってもなかったよ。
しかも この手の知識に関してだけは興味津々だというんだから……自分ってヤツは何て変わり者なんだろうか? まぁ いいや、とりあえず もう少し読み進めてみようか……。
それは 昨日の晩のことになるのですが……突然 部屋の扉がノックされたのです。そして その扉を開けると、そこには……父さんの姿がありました。それで、何やら相談したいことがあるとのことだったので、私は部屋の中に彼を迎え入れたんです。
でも、私にとっては初めての事でしたので、一体どうしたら良いのか分かりませんでした。なので 彼に言われるまま 椅子に腰掛けていただくことにしたんですよ。……そして、しばらくの間 彼と話をしているうちに、彼の話というのが とても興味深いものだったので、つい聞き入ってしまったんです。その話というのは、何の事かというと……彼が今度、遺跡発掘調査隊の護衛任務を受けることになったのだというお話でした。
「遺跡発掘……ですか?」
「ああ、そうだ」
彼は私の方を見つめると、そう言って首を縦に振った。
「それで、君さえ良ければ 同行して欲しいと考えているんだが……どうかね?」
「えっ!? 私がですか……!」
いきなりの話だったからなのか……それとも 今まで経験したことの無い未知なる冒険への誘いを耳にしたことで、私の気持ちが少し高揚していたからなのでしょうか……。その瞬間、何故かは分からないのですが、私の中で……何かのスイッチが入ったような気がしました。
それから、いつの間にか……その話を受けたいという感情だけが頭を支配してしまい、それ以外の思考回路が完全に停止してしまったかのような状態です。そして、気づいた時には、既に口を開き、その言葉を発していました。
「わ……わかりました! 是非、ご一緒させて下さい!!」
「うむ、わかった。それじゃあ 明日の朝、出発することにしよう」
そんなこんなで、あれよあれよという間に 私は遺跡調査隊の一行に加わることになってしまった。でも……何故でしょうこの胸のときめきは……。
……そして これが……私が初めて抱いた『恋心』なのかもしれないですね。
……とまぁ、そんな感じで、現在に至るというわけです。
……あっ、もちろん 今日から調査団と一緒に遺跡へと向かうつもりです。そして、私はそのメンバーの一人として参加する事になったわけなんですよ。
……ちなみに……父さんの話では、今回 一緒に調査に行くメンバーは、護衛部隊のメンバーの中から選抜すると言っていたのです。
『ふむ……そういう事か』
その時 僕の頭に、とある人物が浮かんできた。
「ん……?」
ふと視線を感じて 横の方を見ると、隣に座るルリさんの顔があった。そして、彼女は こちらをじっと見据えているのだ。……いかんいかん、また変な独り言を漏らしてしまっていたな。
まぁ 別に隠すことでもないから 構わないけどさ。
僕は苦笑いを浮かべながら彼女の方に向き直り、軽く会釈をした。すると、彼女は微笑み返してくれた。……ちなみに、この前の一件があって以来、僕達三人はこうして毎日のように図書館に来ている。というのも、あの時の事を謝罪するために 二人揃って彼女に謝りに行ったのだが……その件に関しては もう気にしていないと言われたので、それ以降は普通に接してくれているというわけなのだ。
「ところで、その アテナ・サキュラスという名前についてだが……どんな女神様なのかな?」
気を取り直すように咳払いをして、それから 僕は 先程まで読んでいた『アテナ・サキュラス』についての書物を閉じると、それを元の場所に戻してから尋ねた。
「はい。『勝利の女神』とも呼ばれていて、戦いの女神としても祀られていますね。他にも『学問の女神』『音楽の女神』『恋愛の女神』『工芸の女神』『医術の女神』『農業の女神』『建築の女神』『芸術の女神』『酒の神』『大地の母神』『月と太陽の間に立つ者』など……様々な側面を持った神様だと言われています。ちなみに 戦乙女とも呼ばれているみたいですよ」
……『学問の女神』ねぇ。……なんか、この話を読んでいて思い出したんだけど、『知恵』っていう文字には『ち』と『め』って読み方があるらしいんだよ。それで もしかしたら『メティス』っていう名前とか付けられたりするんじゃないかなって思って、父さんに確認してみたら
それはないよって言われちゃった。
だって、ギリシャ神話では『metis』とは『知識・知性(英:knowledge)』を表す言葉で、『知恵(和訳:知慧)』という意味ではないのだとか。つまり
『metis=small(小さい)+me(英語)』ということらしくて、その意味から考えても『me(英語)=小さな者(女性)』なんて意味になるらしい。
なので、そんな名前は付けられるはずもないのだ。……それにしても、この話を母さんにしてみると、何故か爆笑されたんだけど、その理由が未だによくわからないんだよね。
そんなことを考えながら、僕は小さく溜め息をつくと、改めて目の前にいる少女を見つめた。……この子が 本当にそんな名前の神様なのか? 正直、信じられなかった。でも その顔立ちは、どこか大人びているように見えるし、髪の色は金髪だけど、瞳の色や雰囲気は、どことなくルリさんに似ているような気がする……。まぁ それは あくまで 僕の個人的な印象に過ぎないんだけど。
「どうかされましたか?」
と、そんなことを思いながら、彼女を見ていると、不思議そうな表情で首を傾げられた。……いけない、ちょっと考え過ぎてしまったようだ。
「いえ、すみません。……何でもありません」
僕はそう言うと、軽く頭を横に振った。
それから 少しの間 沈黙が続く中、再び本を手に取ろうとすると……今度は、彼女の方が口を開いた。
「そういえば……さっきから ずっと本を読まれていましたけど、何をお読みになっていたんですか?」
「あ、これですか? えっと……この本のタイトルはですね……『神々の世界』……って言います」
「えっ……!? そ、それってもしかして……!?」
そう言うと、何故か彼女は驚いたような顔をした。
「ええ……その もしかして ですけど……」
僕が戸惑いながらも答えると、彼女は 急に身を乗り出してきたのだ。
「あっ、あのっ! もしよろしければ 私にも見せていただけませんでしょうか!?」
……そして、何故か物凄く食い気味に迫ってきた。
「えっ!? べ、別にいいですけど……」
彼女のあまりの迫力に気圧されてしまった僕は、少し後退りしながら、持っていたその書物を手渡すと、それを両手で受け取るなり 嬉しそうな笑顔を浮かべたのだ。




