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歴史という名のファンタジー  作者: みなと劉
76/255

76話

秀吉は、それぐらいの気持ちを抱かれても 仕方がないことをしてきたし、今になっても、それを責められるのが当然なのですよ。

秀吉が 信長の後継ぎ候補の筆頭だった理由は、何といっても、妻が信長の妹・お市と従妹であり、その娘の茶々と婚姻関係にあるということが大きいのだ。

そのせいで、秀吉は、後継者候補の最上位にいたのだが、秀吉と茶々の間には 子供が生まれず、秀吉自身も、自分が後継者に選ばれることはないだろうと覚悟していた。

そして……その予想通りになったわけです。ところが……後継者争いが起きる。しかも、その争いの中で、秀吉は、命を落としかけるほどの危機に見舞われるが、何とか助かった。

こうして 後継者候補の中から、秀吉だけが生き残り、信長の娘婿であり養子にもなったということで、他の後継者候補に較べて、はるかに有利な立場となった。

秀吉としては、後継者の地位は無理でも、その側近として優遇されれば充分だと思っていたはずだ。しかし、そうはいかなかった。

なぜかというと、他の後継者候補たちの中で 真っ先に殺されたのが、柴田勝家であり、次が佐久間信盛だったからだ。

そして、この二人には、共通の知人がいて、信長から特別に目をかけられていた人間がいた。それが、丹羽長秀でしたよね。

信長から信頼されていた この三人の誰かが犯人に違いないと思われて、秀吉まで嫌疑の目で見られることになった。

これは、後継者問題で、最初に犠牲になるのが、有力な親族であるという例であって、実際に起きたことと同じだ。後継者の指名がないままに 亡くなった信長のかわりに、後継者を決める必要に迫られた重臣たちは、それぞれの思惑から、身内である者たちを、信長の継承者に指名したり、あるいは、除外したりするが、それによって生じた軋轢は計り知れないものがあった。

信勝派と信長派という対立があり、さらには、派閥を越えて 反信勝派が結成されて内紛となり、後継者問題の決着がつくまでに長い時間がかかった。しかし、結局は……信長の実子である信忠に決まることになる。

信雄は殺されてしまって、秀吉は後継者から外れて生き残ったことで、後継者の争いが終結するかに見えた。しかし、後継者に指名されたのは 信長の息子ではなく……養子であった信雄の遺児・松寿丸だったという事件が起こる。秀吉にとっては悪夢のような事態だ。

秀吉にとって 最悪の状況になったのは、秀吉の妻の寧々が殺されたことにある。このことによって、秀吉が疑われてしまった。

だが、犯人が誰なのか?

分からないまま、秀吉も追い詰められていく……。

この事件は複雑だが、結論を言うと、秀吉の潔白は証明されているのだ。

なぜなら……秀吉は、信長の命令で茶々の出産に立ち会ったからです。

その時に……寧々も一緒についていたわけだけど……。

それはつまり……寧々が妊娠していたということを意味しています。……もし 仮に、秀吉と寧々との間に、不義の子が生まれたとしたら、どうして寧々だけ殺されなければならないのでしょうか?……そんなの、おかしいでしょう! 不自然なんですよ。だって……子供が生まれる前に、すでに死んでいるのですからね。……不自然すぎますよ。……不義の子であるはずがないじゃないですか。秀吉は、寧々と関係を持ったこともないし、その証拠もなかった。

それに、寧々は とても美しく魅力的な女性でしたが、その美貌故に、男に狙われやすく、何度も襲われそうになったことがあった。それで警戒心が強く、夫以外の男の侵入を許さない貞女でもあった。そういう女性は珍しいと思う。

そんな彼女が、自分から秀吉に接近していったとも思えないのだ。

『お市様』

彼女は いつも そう呼ばれていました。

それは……秀吉の奥さんであるお市の方の従妹に当たるということからつけられた呼称なのですが……

お市の方が お市の方と呼ばれるのに対して、お市様というのは変ですよね。だから……みんなは お市さんの方を お市ちゃんと呼ぶことが多かった。でも……お市さんというのも、やっぱり、何か違うような気がします

『市姫様……!』

彼女のことを、親しみを込めて、こう呼ぶ者もいたが、その人は もう、この世を去っていた。お市の方の兄に当たる人だ。彼は、お市の方の兄であり 信長の側近だった 木下藤吉郎の弟だったのだ。だから、市姫とは血の繋がりがある。

『文学図書』の中に『山桃の花咲く小春に 兄が市をおぶして行きけむ……』

という有名な逸話があるので、ご存知の方も多いと思いますけどね……。

『山桃の花咲く小春に 兄が市をおぶして行きけむ……』を少し解説交えて話します。

この話は、 お市が幼い時 兄の藤吉郎と二人で ある城に行った時の話で、二人はそこで、その城の城主の娘である市に出会って仲良くなるのだが、その市は、まだ、五つぐらいの子供で、その時のことはよく覚えていないという。

それでも……お市とその少女の容姿が似ているというのなら、それはきっと、その妹のお市の方に似ているのだろうという話だ。

だから そのお市は、妹のお市を おんぶしていたのだと思う。兄に甘えたい年頃だったのですね。

そして、兄は、そのお市を可愛がって大事に育てていたが、その途中で、お市は病に罹り、やがて亡くなってしまうのだ。

その葬儀の時に、兄は、自分が引き取って面倒を見ると言い張るが、お市と瓜二つの顔を持つ妹を引き取りたいと申し出ることに、周囲はあまり良い顔をしなかったらしい。

それで兄は泣く泣く、その娘をおぶさって帰ることになるのだ。

この話が事実だとすれば……それは、まるで、兄妹のようにそっくりな その娘のことが忘れられなくて、つい、そんな行動を取ってしまったのではないか……と思えるほど、よく似たエピソードで、面白いのだけど、実は、これと同じような話があちこちに残っているので、この話もその一つにすぎないわけです。

たとえば……こんな話もある。

ある日、秀吉は いつも通りに仕事をしていると、一人の若い武士が訪ねてくる。そして、信長への取次ぎを願い出た。しかし、秀吉が仕事中だということを知ると、 じゃあ、しばらく待たせてもらいます……と、言って帰っていくのだ。

秀吉はその青年に目を奪われていた。

……それは 見目麗しい美少女だったという。

……これは、おそらく お市の妹のお江だと思われる。秀吉は、彼女に声をかけてみたくて、我慢できなかった。

……そこで、彼が休憩を取る時間を見計らった後、思い切って、彼女を自分の部屋に呼びつけると、お茶を入れてあげると言って誘い出すのだ。

部屋に入るなり、秀吉は、彼女に一目惚れしてしまう。美しいだけでなく 愛らしくて純真無垢な雰囲気を持っているのだ。

彼女は緊張しながら茶を飲み干すと、帰り際に、また来るね!

……と元気よく去って行ったそうだ。

その様子が あまりにも可憐だったので、秀吉の恋心に火がついたというわけです。

こうして、秀吉とお江の関係は始まったのですが……。

しかし、二人の間に子供が生まれることはなかった……。

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