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歴史という名のファンタジー  作者: みなと劉
74/255

74話

『滝川一益』についても述べていきましょう。

『滝川一益』は、その字が示すように 滝川一族の頭領であり、信長の次男・信興の長男・信長の従弟にあたります。彼は 本能寺の変のあと、羽柴秀吉によって滅ぼされるまでの数年間は生きていたようで、その時期は おそらく信長と行動を共にすることも多かったと思われます。

(信孝が生きている時代なら、当然 秀吉は信孝に味方する。そうすれば 秀吉は、一益を討とうとするはずだからね。)そして この一益が秀吉の配下に降るということは、秀吉に忠誠を誓うことを意味する。

秀吉にとって、これは たいへんなことなのだと思います。

なぜなら 秀吉が信長の臣下でいるのは、秀吉の主君が信長だったからに過ぎないのです。

だから 秀吉が、他の大名を討伐しようとするときに、秀吉の主君が誰なのか それをはっきりさせる必要があります。そこで秀吉は、自分の家臣の誰かを 信長の後継者であるかのように見せかけることにした。

たとえば 柴田勝家などを信長の子として扱って 自分は柴田勝家に従う家臣だと宣言してしまえば 勝家が織田信長の後継ぎのような顔をして、他の大名たちを討伐できるようになるという理屈です。

しかし 一益の場合は その理屈が通用しない。彼の父親は間違いなく あの滝川左近一秀です。つまり 彼は、正真正銘の織田氏の人間です。

だから 彼を織田家の後継ぎとして扱うことができない。つまり、彼は 信長の後を継ぐ後継者にはなりえないということになってしまいます。秀吉にとっては、これは大きなマイナスになる。

もちろん秀吉は、この弱点を補うべく、別の手段を用意していました。それが養子の豊臣秀長だったのですが……。

ここでまた問題が発生してしまうことになる。

秀吉の実子は秀次だけだったのに、秀吉が一益の養子にした秀次は秀次ではない。そして 一益もまた秀吉の親族ではないのだ。

だから……秀吉の天下取りのためには、何としても滝川一族が必要だった。それで滝川一族の誰かを取り込む必要があったのだ。

しかし 滝川一族の誰かを選ぶとすれば、その人物は、一益以外あり得ない。

秀吉は この人物を取り込みたかったのだが、この人物が拒否してしまった。

秀吉は それでも その人物を説得しようとしました。

秀吉が 一益に使者を送り、説得を試みた。

ところが……一益は これを断ってしまった。

秀吉の申し出を断ったのは この人だけです。(信雄などは、まだ子供なので 論外だと思っていますから。)

一益の説得に失敗してしまったことで、秀吉の立場は悪くなってしまいました。秀吉は滝川一族に対して負い目を持つことになったからだ。秀吉は滝川一族を優遇しなければならない義務を負ってしまった。しかも……滝川一族の中でも、特に重要な人物である一益と不仲になってしまったため、滝川一族の他の者を 秀吉が召し抱えることもできなくなった。秀吉は滝川一族の中から誰かを選ばなければならなくなったのだ。だが 秀吉には 誰も仕えたくないと言った。すると……どうするか? 実は この時 すでに秀長は死んでいたのだ。

秀長が生きてさえいれば、話は別でした。秀長ならば、秀吉が どれほど頼み込んだところで、絶対に断るなんてことはしないだろうからね。

秀吉が 秀次に家督を譲っていたら 滝川一益は秀次に仕えるようになっていただろう。そして 秀吉は、滝川一族の誰かに恩を売ることができるわけです。そして 秀吉としては、それこそが欲しかったのです。だから 秀吉も 何とかしようと努力をした。

たとえば こんな話がある。

秀吉の従兄弟にあたる前田利家は、信長の娘を嫁にしていましたが、信長の死によって、娘は実家に戻されることになり、彼女は秀吉の側室となり、後に秀吉と離縁することになります。

その後 利家の正室であったお市の方の養女となって、浅井長政に嫁いだのが 信長の次女・永姫です。

そして 信長の三女で永姫の姉に当たる栄子は、前田慶次郎と結婚し、のちに武田信玄の四男・勝沼信元の妻になった女性です。

秀吉は これら三人の女性の養父でした。

信長の孫の養育者として、これらの女性は有名であり、彼女達は それぞれ立派な教育を受けています。教養のある美しい女性ばかりであり、しかも、信長の血を引いていて高貴な家柄である。秀吉は 彼女らに気がありました。そして その娘たちに自分の養子を迎えさせ、跡継ぎとして育てたいと常々考えていたのです。

信長の曾孫たちは、秀吉にとって魅力的に見えたはずです。信長の血を引く高貴な美人であるだけでなく、秀吉の子を産む可能性すらある。しかも それは秀吉自身の孫でもあるわけだから、その子が 将来は秀吉の次の主にもなる。

つまり……秀吉の権力の正統性を高める存在として役立つわけですよ。

(信長の庶子や信長の娘婿に、織田家の後継ぎは任せられない。そういうことになってしまう。)

ただ ここで一つ問題があった。秀吉は 永姫たちに 求婚の申し込みをすることはできなかったんです。

なぜかというと 彼らは皆 信長の親族だったからであり、信長の娘である お市の方、栄子、永姫らは 織田家の血縁の女性であって、織田家の後継ぎとなるべき人物たちだから、たとえ親戚であっても、秀吉が手を出すわけにはいかない。そんなことをしたら織田家の後継者問題に発展しかねないからね。秀吉は お江を妻にしてるのにね。

でも そうやって、今まで 信長の親族を遠ざけてきたのが 裏目に出てしまい、今さら 信長の曾孫たちを、自分のもとに引き取ることもできなくなってしまったということになります。

さて……そこで登場するのが 滝川一族の誰かということになる。

信長の曾孫たちの配偶者にするという方法だ。しかし 滝川一族は 誰も受け容れようとしなかった。

だから……仕方がなく、一益のところに使者を送ったのだと思います。一益は、秀吉に恩を売っておくことに損はないと考えたのでしょう。だから……一益が引き受けることになった。

一益としても、これは願ってもない機会となったはずだ。なぜなら 一益は 秀吉に恩を売ることができるからです。一益にとって 秀吉に恩を売ったという事実が重要なのです。

滝川一族を後継者にできる。秀吉の縁戚になるという形になる。秀吉が 自分の主君であるということを証明できるのだから。だから……一益は秀吉に仕えた。

滝川一族を後継者にするというのが、秀吉の本当の狙いだったのでしょうが、一益の本心は、信長の一族の血統を守るというところにあったと思うんですよ。

そして、一益は見事に成功させたのです。彼は、信長の四人の娘(信長の母のお市に、栄子と永姫の姉妹)を嫁にもらうことになるし、秀吉も一益の娘を後添えにもしている。一益が秀吉の養子になれば、信長の血筋が秀吉の一族に組み込まれることになる。こうして 秀吉と滝川一族の間に絆が生まれる。

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