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歴史という名のファンタジー  作者: みなと劉
50/255

50話

「はい。私はしばらく京にいるつもりです。そして、もし浅井家の使者が来た場合は、必ず会うことにします。なので、浅井家の使者として来た平井定武殿には、くれぐれも内密に願います」

「ふむ、分かった。では、お市に任せるとしよう」

こうして、お市はしばらくの間、京に留まることにした。そして、その間に様々な情報を集めることに決めた。

お市が京に滞在してから2ヶ月ほど経った頃、定武が再び小谷城を訪れた。

「お市様、再び参上致しました」

「定武さん、よく来て下さいました。さあ中へ入ってください」

定武は、お市に促されるまま屋敷の中に入った。お市は定武を応接間に案内すると、自らお茶を用意した。定武は恐縮していたが、お市は気にせず定武の前に座った。

「今日はどのような用件でしょうか?」

「はい。実は、浅井家存続の危機が迫っておりまして、お市様のお力添えを賜りたく存じ上げます」

「そうですか。詳しく聞かせて下さい」

「はい。実は、浅井家は当主の亮政公の御逝去により、後継争いが勃発してしまったのです。亮政公にはまだ御子息がいらっしゃらず、家臣の筆頭であった政之様と長政様の二人の間で後継者争いが勃発したため、家臣達は二つの派閥に分かれ、家中は大混乱に陥っております」

「それは大変な事態ですね」

「お察しの通りです。お市と浅井家の間にも血縁関係があり、是非お市様のご助力をいただきたい次第です」

「もちろん協力させて頂きます。まずは亮政様の息子の方々を探せばよろしいのですか?」

「はい。ですから、お市様に亮政様の子供達に会ってもらいたいと愚考しております」

「なるほど。そういうことなら承知いたしました。早速明日にでも亮政様の御子息達に会いに行きましょう」

定武は嬉しさのあまり、勢い良く立ち上がった。その様子を見て、お市は苦笑いを浮かべる。

(随分興奮しているみたいね。でも、私としては早く亮政様の子供達に会わなければ)

そう思いながら、翌日に備えて眠りについた。

翌朝、お市は再び浅井家を訪れていた。昨日と同じように定武が出迎えてくれる。

「お市様、おはようございます」

「お早うございます。亮政様の御子息達がどこにいるかご存知ですか?」

「はい。皆様方はそれぞれの居城にて待機されているかと存じますが、一番近いのは長男の新九郎様が居城としている観音寺城のはずです。ただ、観音寺城は六角氏の本貫地でもあり、現在六角氏と浅井家は敵対関係となっておりますので、六角氏の領地に入る際には注意が必要となります」

「六角氏と言えば、近江守護の京極氏の分家の家柄ですね」

「そうです。そして、六角氏は浅井家の宿敵とも言える存在です」

「なるほど。それなら、尚更気を付けないといけませんね」

「その通りでございます。ところで、お市様は浅井家に嫁ぐおつもりはありませんか?」

「えっ?」

お市は驚きの表情を見せた。亮政には求婚されたが、断った身である。しかも、亮政は浅井家当主である。その亮政の弟である定武にも、亮政と同様に求婚されるのは予想外だったのだ。お市は戸惑いながらも、定武に質問をした。

「どうしてそのようなことを仰られるのですか?」

「亮政公亡き今、浅井家の当主を継ぐのは次男の長政殿です。そして、長政殿の妻となるのが浅井家にとって最も都合が良いのです」

「なるほど。そういうことであれば、私としても願ったり叶ったりです。ですが、何故浅井家の御子息方は全員妻を迎えるのでしょう?」

「それは浅井家が断絶してしまった場合に、他の大名家からの介入を防ぐ為だと思われます」

「浅井家の御子息方が全員結婚しなければならない理由は分かりましたが、浅井家が滅んでしまった場合にはどうするのですか?」

「はい。その場合は、同盟を結んでいる朝倉家や武田家が助けて下さるでしょう」

「なるほど。それならば問題なさそうですね」

「はい。朝倉家と浅井家の同盟が破られることはまず無いと思われますので、ご安心下さい」

こうして、お市は浅井家の御子息方と婚姻することになった。

「お市様、お迎えに上がりました」

浅井長政とお市の結婚式当日、二人の家臣がお市を迎えに来た。浅井家の家臣としてやってきたのは、磯野丹波守、進藤山城守、今村掃部助の三名である。

「皆さんお久しぶりです。まさか三人共来るとは思わなかったよ」

「勿論ですとも。お市様を一人にしておくわけにはいきませんからな」

お市が言う『三人』とは、磯野と進藤のことを指しているのではなく、もう一人の家臣のことである。その家臣の名は武藤喜兵衛といい、お市の軍師のような立場にいた男であり、現在は浅井家で家老を務めていた。

「お市様、私は既に準備万端整っておりますぞ」

「うん、ありがとう。それじゃあ行きましょう」

そして、四人は馬に乗って観音寺城へと向かった。

道中、お市は長政との会話を思い出していた。

「兄上、これからお世話になります。どうかよろしくお願いします」

小谷城での宴会の最中、長政は酔い潰れてしまった。そこで、お市は父・信秀の部屋に行き、長政の様子を見ながら二人で酒を飲んでいたのである。

「うむ。しかし、お主は本当にお酒が強いのぅ。この程度の量では酔わないようだの」

「はい。これくらいの量なら何の問題も御座いませぬ」

長政は顔色一つ変えずにそう言った。一方のお市は少しだけ顔を赤く染めている。実は、お市は長政よりも多く飲んだのだが、全く酔っていないようであった。

「ふむ。さすがはお市といったところか」

「そんなことはありませぬ。実は、かなり酔いが回ってきております」

「そうなのか?とてもそうは見えんが……」

「いえ、本当です。そろそろ寝かせて頂きます」

「おお、そうだの。今日はゆっくり休むがよい」

「はい。失礼致しました」

お市は退室すると、そのまま布団に入り眠りについた。

「父上、お市様をお連れしました」

「入れ」

「お市様、こちらへどうぞ」

「は、はい」

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