表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史という名のファンタジー  作者: みなと劉
47/255

47話

「うん。好きかどうかで言えば、もちろん好きだし、尊敬もしていた。だからこそ、その期待に応えたかった。だけど、結局、その想いは届かなかったの。それだけが悔しかった。正吉郎の言う通り、私は逃げてしまったの。そのことに気づかせてくれたのは正吉郎なんだ。だから、その恩返しのために正吉郎の力になりたいと思っている」

「なるほど。そう思われるのでしたら、正吉郎様に嫁ぐのが一番だと思います」

「ありがとう。そう言ってくれるだけで嬉しい。だから、正吉郎が困っていたら助けてあげたいの。その気持ちが私の今の素直な思いかな。じゃあ、行きましょう!」

正吉郎に呼ばれてから2時間後にようやく近江の国に入った。

俺たちを乗せた車は、浅井郡を抜けて、瀬田郡の坂本に到着した。

すると、そこには、先に着いていた正吉郎が待っていた。

「お待ちしておりました。政秀殿、妙慶殿。さあさあ、こちらへお座りくださいませ」

「お出迎えいただき、誠に感謝いたします。それで、今日はどのような要件で呼ばれたのでしょうか?」

「実は、父上が亡くなってしまったのです。その知らせを受けたのが昨日のことです。そして、葬儀を終えた後に、父上の遺言状が公開されました。それによると、この度の騒動の責任を取って自害せよとの仰せでした。そこで、父上に切腹を命じられた家臣たちが父上を殺してしまいました。しかし、私はそのようなことを望まないので、何とかできないものかと知恵をお借りしたいと思いましてお呼びした次第でございます。どうか、父上の命を助けられないでしょうか?」

俺は思わず息を呑んで言葉を失った。正吉郎は、親父さんに殺されそうになったのか。だが、俺には関係のないことだし、どうすることもできない。俺だって、いつ殺られるかという瀬戸際なのだ。ここで妙慶を巻き込むわけにもいかないだろう。ここは断らせてもらおうと思っていたのだが、妙慶は意外にも首を縦に振った。

「政秀殿!私は正吉郎様の助けになれるならば、喜んで力になります」

妙慶はそう力強く答えた。妙慶は覚悟を決めているようだった。こうなっては断ることもできず、正吉郎を助けるしかないと腹を括ることにした。

「分かりました。私も微力を尽くさせて頂きます」

「おお、ありがたい。政秀殿が味方になってくだされば百人力ですぞ。早速、今から向かいましょう」

正吉郎は俺の手を握って喜んだ。それから、正吉郎に連れられて、大広間に向かった。そこでは、正吉郎の父である浅井亮政が刀を腹に当てていた。

「政秀殿、妙慶殿。お越しいただいたのに申し訳ございませんが、もう間もなくで御座います」

「父上、早まってはなりません。まずは話を聞かせてください」

「これは正吉郎。お前に心配されるようなことはありません。これは私の運命なのですから」

「いえ、違います。私はただ父上を死なせたくないのです」

「正吉郎よ。この私を殺すつもりですか?」

「父上を殺させはしないと言ったはずです」

「正吉郎よ。いい加減にしなさい。これ以上、この家に留まるとお前まで罪を被ることになりかねません」

「それでも構いません。父上は間違っているのですから。この家は兄が継ぐべきです」

「そうか……。なら、正吉郎が当主となりなさい。その代わり、政秀殿と妙慶殿は殺します。それでよろしいですか?」

「何を言っているのですか!?」

「正吉郎よ。それが定めというものです。それに、私が死んだ後の浅井家のことを考えれば、それが最良な策だと思わないか?妙慶殿と結婚するためとはいえ、私を殺したとなれば、家臣たちは正吉郎を許してくれまい。かと言って、正吉郎は家督を継げない。それなら、浅井家に新しい血を入れる必要があるのではないか?」

「そうではありません。家臣たちの信頼を得るには時間をかけてゆっくりとやっていけば良いだけでしょう。父上の犠牲の上に立つのでは、あまりにも無責任ではないのですか?家臣たちへの見せしめのために、父上の名を使って殺すのであれば、私がその罪を被ります。父上の命と引き換えに生き長らえるなど私は絶対に嫌です」

正吉郎の言葉に、正吉郎の親父は一瞬目を見開いた。

「そこまでしてでも生き延びようとは……呆れたものですね。その覚悟があるのならば、この刀を抜きなさい」

「できません。父上が自害なさるのならば、私は切腹します」

「ふっ。この馬鹿息子め……」

正吉郎の父親は涙を流しながら呟いた。

それからしばらく経っても話が平行線のまま膠着状態が続いていたところ、そこに突然一人の武士が現れた。

「失礼致します。この屋敷の主人はどなたか?」

現れたのは、全身真っ黒の甲冑を身に纏っている20代後半ぐらいの男性だった。兜を被っていて顔はよく見えなかったが、声色から察するに若い印象だった。

「拙者は六角左京大夫義賢の家臣で平井宮内卿定治と申す者だ」

「ほう。貴殿が噂の六角家中の麒麟児・平井加賀守殿でしたか。お初にお目に掛かります。浅井備前守亮政でございます。それで、何用で参られたのか?」

「浅井殿のお耳に入れたいことがありましてな。実は浅井殿がお亡くなりになったとの噂を聞きまして、急ぎ近江の国へ戻って参りました。それで、浅井殿がお倒れになったのは、昨晩のこととお聞きしましたが、それは真でございまするか?」

「はい。事実でございます」

「なんということです!浅井殿ほどのお方が一晩にして亡くなられるとは。いったい何が起きたというのですかな?」

「うむ……。実は……」

そこから正吉郎は、父親の死の顛末について説明を始めた。すると、話を聞いた平井定治は怒り心頭といった様子だった。

「なんてことをしてくれたのだ!!あのような方を殺してしまっては、浅井家存続の危機ではないか!早くお伝えすべきだったろう!!」

「面目次第もございませぬ」

「全く、これだから浅井家の人間は嫌いなのだ。こんなことになってしまった以上、もう浅井家を再興させることなど不可能であろう。こうなってしまえば、織田家が攻めてくる前に、我ら六角家と同盟を結び、一緒に戦うしかあるまい」

「えぇーっ!?」

正吉郎は驚きのあまり目を丸くしている。そして、妙慶も信じられないという表情を浮かべていた。俺は内心では、そんなことだろうと思っていた。だが、正吉郎には予想外だったようだ。

「なぜですか?どうして六角と手を組まなければならぬのです?私は父を殺してしまったことを後悔しています。しかし、家臣の皆は私を支持してくれています。ならば、父を殺した私に罰を与えるのではなく、私を支持すれば良かったのではないでしょうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ