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五話、圭の秘密

 あたしが頼高さんのお邸に来てから早くも半月が過ぎた。


 頼高さんは二日に一回くらいは様子を見に来てくれている。ちょっとは和歌や礼儀作法なども上達したように思う。高子さんや清楽さんは辛抱強く教えてくれるし。そんなこんなで充実した日々を送っていた。


「圭ちゃん。今日はどうしようか?」


「どうしようかって。高子さんはどうしたいの?」


「ちょっと話したい事があってね。圭ちゃん、那賀野京――都には古くからの伝説があるんだけど」


 そう言って高子さんはある事を教えてくれた。

 何でも那賀野京では五十年に一度くらいに異界から巫女が遣わされるらしい。那賀野京の人々は「花神(はながみ)の巫女」と呼んでいるとか。

 また、花神の巫女には対がいてこちらは「水神(みなかみ)の神子」と言う。たぶん、花神の巫女の当代はあたしらしく水神の神子が頼高さんではないかと言うのだが。

 あたしは自分が巫女さんだと聞かされて驚きを隠せない。高子さんはこうも言った。


「……花神の巫女は代々女性が選ばれていてね。水神の神子は男性が多いけど」


「そうなんだ。あたしが喚ばれたのも巫女としての役目を果たせって事かな」


「だろうなと思うわ。でなかったら圭ちゃんがこちらへ来るはずがないもの」


 高子さんはそう言ってからあたしに近寄り肩に手を置いた。


「……ちなみに先代の花神の巫女は私や清楽姉様、頼高の祖母君よ。名前を千代乃さんと言ったんだけど」


「へえ。じゃあ、その千代乃さんもあたしと同じように異界から来たんだね」


「そうよ。千代乃さんはまだ生きていて元気だけどね」


 あたしは高子さん達のお祖母さんが元気でいる事に驚きを隠せない。


「千代乃さんっておいくつなのかな」


「……確か。もう六十は過ぎているわね」


「じゃあ。花神の巫女としての役目って何なの?」


 あたしは問いかけたが。高子さんは言いにくいらしく考え込んでしまう。


「……その。花神の巫女はね。妖かしの類と戦ったりしないといけないの。後、水神の神子の力の暴走を抑えたりとかね」


「力の暴走?」


「要は。互いに触れ合わないといけないの」


 あたしは余計にわからなくなった。触れ合うって。手を繋ぐとか?

 うーむ。わからないなあ。


「……ほら。言わんこっちゃない。水神の神子は陽の気が強くてね。陰の気が強い花神の巫女が側にいないといけないのよ。まあ、手に触れるか抱き合うくらいで済む事を願うけど」


「……何気に怖い事を言うね」


「ま。圭ちゃんはそこの辺りは覚悟しといた方がいいわよ」


 あたしは仕方なく頷いておいた。高子さんはこの話はもう終わりだと言うと。いつものレッスンを始めたのだった。


 翌日、頼高さんがあたしの部屋にやってきた。傍らにはお母様もいる。頼高さんのお母様は名前を沙久良(さくら)さんといって優しげな女性だ。実際は見かけによらず、なかなかにサバサバしていると清楽さんや高子さんは言っていたが。


「……圭。今日は母上がお前に用があるそうだ」


「……はあ」


「俺はちょっとこの後に仕事がある。すまんが夕刻までには戻るよ。失礼します。母上」


 頼高さんは沙久良さんに軽くお辞儀をした。あたしの肩にも軽く手を置く。


「圭。母上の側に今日はいろ。その方が安全だしな」


「わかりました」


「そうか。では。行くから」


 頼高さんは肩から手を離す。ちょっと名残惜しくなったのは内緒だ。そのまま、彼は仕事場に行ってしまった。あたしは見送ったのだった。


 頼高さんが行ってしまうと沙久良さんは表情を引き締めた。あたしの方を向く。


「……やっと。二人きりになれたわね。改めてよろしくね。圭さん」


「はい。よろしくお願いします」


「そんなに固くならなくていいわよ。圭さん。楽にしてちょうだい」


 沙久良さんはそう言うとあたしに近寄る。ヒソヒソ声でこう話しかけられた。


「……圭さんが花神の巫女だと言うのは高子から聞いたわ。水神の神子が頼高なのはわかっていたけど」


「はい」


「これから圭さんには護身用具を渡しておくわ。いずれは必要になるだろうから」


 沙久良さんはそう言うと懐から小さな何かを取り出す。よく見るとそれは弓のような形をしていた。


「……破魔の弓よ。後で矢も何本か渡すわ。矢筒もね」


「はあ。本物の弓矢は初めて見ました」


「それはそうでしょうね。もし矢が足りなくなったら言ってちょうだい。補充をするから」


 沙久良さんは言うとあたしに小さな弓を手渡した。持ってみると片手に乗る程の大きさだ。そして軽い。


「それから。圭さん。その弓を使う時は息を吹きかけて。すぐに使えるようになるわ」


「わかりました。ありがとうございます」


「破魔の弓は妖かしや幽霊専用なの。明日にはもう一つの護身用具を頼高が手渡してくれると思うわ。今日から破魔の弓のお稽古を庭でしましょう」


 沙久良さんはそう言って踵を返す。あたしは慌てて付いて行った。

 こうして破魔の弓矢のレッスンも始まった。なかなかにハードなレッスンであったのは言うまでもなかった。

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