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四話、新たな異世界での日々

 あたしは翌日の朝方に目を覚ました。


 清楽さんや高子さんが起こしに来てくれる。手には大きな漆塗りの洗面器とかを持っていた。清楽さんが木の枝を手渡す。


「……これをかじってみて」


「……はい」


 言われた通りに木の枝の先端をかじってみた。思ったよりも固くて歯が折れそうになる。


「ちょっとずつかじっていって柔らかくするの。それができたら歯磨きよ」


 あたしは黙って頷く。仕方ないのでガジガジと木の枝をかじった。


 20分はかじったかもしれない。やっと柔らかくなり歯ブラシに近い感じになった。けど顎が痛くて歯磨きができる状態ではない。それでも頑張って磨いた。一通りしたら渡された木のコップで口を何度かゆすいだ。最後に洗顔を済ませて麻布で水気を拭き取る。


「さ。こっちへ来て」


 鏡の前に手招きされたので言われた通りに行く。座布団代わりの円座(わろうだ)の上に正座をした。高子さんが櫛を手に取る。何かが入った小瓶を取り蓋を開けた。


「これから髪を梳くから。じっとしていてね」


「はい」


 高子さんは小瓶を振って中身を出した。透明な粘り気のある液体だった。それを手のひらで温めてから髪に塗り込んでいく。 


「……これね。髪の毛用の香油よ。いわゆるトリートメントね」


「そうなんだ」


 あたしが言うと高子さんは全体的に塗りこむ。昨日もそういえばやったな。そう思いながらもされるがままだ。高子さんは黙々とあたしの髪を櫛で梳き続けたのだった。


 身支度が終わると朝餉を済ませ、あたしは高子さんから礼儀作法やこちらでのマナー、文字の読み書きを習う。午後からは清楽さんに和歌やお料理などを習う事になった。


「……圭ちゃん。まずは礼儀作法からね。お辞儀にも幾つか種類があるのは知っているかな?」


「えっと。知らないかな」


「まあ、普通はそうだよね。お辞儀も相手の年齢や立場によって角度が違うの。例えば、年齢が近くて立場も似たような人なら。浅めのお辞儀か会釈くらいで済むけど。それがもっと年上で立場も上位の人なら。深々とする必要があるんだ」


 成程と目からウロコが落ちそうになる。高子さんは実際にお辞儀を実践してくれた。あたしも倣いながら真似をしてみる。


「圭ちゃん。手をつくって意味がわかる?」


「ううん。全然」


「そりゃそうだよね。えっと。じゃあ正座をしてみて」


 あたしは言われた通りに正座をした。高子さんは両手を膝の前で揃えるようにも指示をする。次に親指や小指を除いた指を両手共に床につき、深々と頭を下げるように言う。


「……これ。三本指をつくっていうあれだよね」


「そうだよ。こちらでも位が上の方に対しての礼として通用はするんだ」


「へえ。なら。覚えておかないと」


 あたしは内心でも三本指をつくのを練習せねばと思う。こうして高子さんのレッスンは続いた。


 お昼から清楽さんに付いて和歌の基本を教えてもらう。まずは五・七・五・七・七で自由に詠むようにいわれた。けど思いつかない。仕方ないので俳句や川柳でやろうとしたら。怒られた。


「……圭さん。ちゃんとやってちょうだい」


「はい」


 背筋をしゃんと伸ばして筆を持ち直す。硯に擦った墨に筆先を浸してとりあえずは詠んでみた。


<秋が来て 色とりどりの 紅葉たち 我が先よと 競い合うかな>


 はっきり言ってもろ現代風だ。今はこちらも秋真っ盛りなのでそれを取り入れてみたが。恐る恐る筆を置いて和紙は清楽さんに渡した。


「……あら。どれどれ」


 目で文字を追いながら清楽さんは難しい顔をする。どうしたのだろう。次第に不安な気持ちになった。


「……成程ね」


「あの。清楽さん?」


「なかなかに面白い歌をあなたは詠むわね。まあ、初めてにしてはまずまずかしら」


 清楽さんは笑いながら言う。まずまずとは厳しめの評価だ。まあ、頑張って慣れるしかなさそうだな。そう思いながら再び筆を取った。


 夕方になり高子さんや清楽さんは一旦自室に戻っていく。入れ替わるように頼高さんがやってきた。あたしは立ち上がって円座を用意する。頼高さんは当然のように座った。


「……圭。放ったらかしにしてすまなかったな」


「いえ。清楽さんや高子さん達には良くしてもらっています」


「そうか。あの二人に任せておけば大丈夫だろうとは思っていた」


 頼高さんはそう言いながらあたしに手招きをした。不思議に思いながらも近づく。頼高さんはにっと笑うとおもむろに頭に手を置いた。


「ちょっと仕事が立て込んでいてな。陰陽師のやら文官のやらでここ二、三日は邸にも戻れなかったんだ」


「そうだったんですか」


「圭の事は心配していたんだが。姉上や妹達が良くしてくれていたなら。後で礼を言わねばな」


 頼高さんは優しく頭を撫でた。いきなりの事だったのであたしは頭や身体がフリーズする。じわじわと顔に熱が集まるのがわかった。

 しばらくは固まりながらも頼高さんと話をしたのだった。


 一通り話をしたら頼高さんは頭から手を離した。あたしに邸からあまり出ないように注意をしてくる。頷くとはにかむように笑う。


「ではな。また、暇ができたら来るよ」


「はい。わざわざ、お忙しい中ありがとうございます」


「ああ。じゃあ。またな」


 頼高さんはひらひらと手を振りながらあたしの部屋を後にした。見送りながらため息をついた。





 

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