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三話、思ったよりもご飯が美味しい

 あたしは自室用に整えられたお部屋に入った。


 といっても几帳や屏風、壁代とかいう間仕切りやカーテンみたいなので室内を仕切った空間だが。奥には寝室や御帳台というベッドが設置してあった。それらを清楽さんが細やかに説明してくれる。


「……圭さんが使うのはこちらになるわ。後であなた専属で女房を雇う予定だったけど。ちょっと持ち合わせがわが家にはなくてね。仕方ないからあなたの身の回りのお世話は私や高子、母様がやるから。慣れてきたら自分でやってもらうことになるけど。いい?」


「わかりました。何から何まですみません」


「そう。なら。何かわからない事があったら訊いてね。忙しくなければ教えるから」


 頷くと清楽さんは銅鏡――鏡の前にあたしを連れていく。その前にある円座(わろうだ)と呼ばれる藁で作った座布団状の物に座る。高子さんが香油らしき液体が入った小瓶を清楽さんに手渡した。それの蓋を開けて中身を手のひらに出して体温で温める。こうした上で髪に塗り込んでいく。全体的にしたら櫛で梳いていくらしい。清楽さんは丁寧に丹念に櫛であたしの髪を整えてくれた。終わった時には髪の毛に天使の輪が一つできていたから「香油って凄い」と思った。まあ、丁寧にしてくれた清楽さんの働きが大きいんだけど。


「……ありがとうございます。清楽さん」


「ふふっ。また髪を洗ったらしてあげるわ。今日は夕餉をとったら。すぐに寝てちょうだいね」


「はい」


 あたしは再び頷く。清楽さんは高子さんと一緒に「また夕餉の時間になったら来るわ」と言って部屋を去っていった。あたしはほうと息をついた。


 夕暮れ時になって再び清楽さんと高子さんがやって来た。清楽さんの手には四角いお膳がある。その上に漆塗りのお茶碗などがあった。中にはホカホカと湯気を立てるご飯やおすまし汁、川魚の塩焼き、沢庵漬けみたいなのが盛り付けられている。高子さんも四角い容器に山盛りに積まれた木苺を両手で持っていた。


「……圭さん。夕餉を持ってきたわよ」


「ありがとうございます。美味しそうですね」


「そう言ってもらえたら嬉しいわ。これらは私と母様で作ったの」


 あたしは凄いなと素直に思う。清楽さんはお膳を目の前に置いてくれた。漆塗りのお箸を手に取って「いただきます」と告げる。お椀を持ちお箸で中にある玄米入りらしいご飯を口に運ぶ。思ったよりもほんのり甘みがある。香りも芳しくて頬が落ちそうだ。お椀を置いたらおすまし汁や沢庵漬けも食べてみる。あっさりとしていて疲れた身体には有り難い。川魚の塩焼きもお箸で解しながら口に運んだ。


「……美味しいです」


「良かった。それはね、鮎を塩焼きにしたものなのよ」


「鮎ですか。なら。大事に食べないといけませんね」


 あたしは川魚の名前を聞いて内心で「ショエー!!」と叫んでいた。あの川魚の女王と呼ばれる鮎だよ!現代日本なら京都とかの辺りにありそうな水が綺麗な川でないと採れない、食べられないとかで有名なあの高級魚の!

 ちょっとそんじょそこらでは入手できないお魚を食べられるとは。じーんとなりながら味わったのだった。


 夕餉が終わると清楽さんはお膳を持って部屋を去っていく。代わりに高子さんが木苺が山盛りになった容器を置く。今までずっと持っていたらしい。あー、肩が凝るわと言いながら高子さんは腕をぐるぐると回している。ちょっと見かけにそぐわない行動に戸惑う。


「……あ。驚いた?」


「……まあ。それなりには」


「私ね。意外と肩凝りが酷いのよ。やっぱり書類を書いてばっかりいたからかな」


 高子さんはそう言いながら木苺をポイッと口に放り込む。あたしも一個を手に取り食べた。甘酸っぱい味が口内に広がる。うん。疲れた時には丁度良いわ。


「圭さん。あなた、私に前世の記憶があるといったら。どうする?」


「どうするって。まあ、あたしも異世界トリップしているわけだしな」


「まあ。そうだよね。私はもともとこことは違う世界に住んでいたのよ。地球の日本という国にね」


 あたしはあ然とした。まさか、高子さんが現代日本人だったとは。


「今は高子と名乗っているけど。前世では高野千紘といったの。圭さんの名前を聞いた時は本当に驚いたわ」


「……え。高子さん。前世の名前は千紘さんていったのね」


「うん。姉が高野千花といったんだけど」


 あたしはあまりの事に驚き過ぎて二の句が継げない。高野千花といったらあたしの母親の名前だ。まさか、高子さんは五年前に亡くなった千紘ちゃんなの?

 歳の近い叔母に当たった人。確か、彼女はあたしより四歳上の明るく朗らかな女性だった。綺麗な黒髪をショートカットにした溌剌としたお姉さんで。


「……もしかして。あたしの事は覚えてる?」


「……うん。覚えてるよ。大きくなったね。圭ちゃん」


 高子さんはそう言ってあたしに近づき、頭を撫でた。ポタポタと目から涙が出る。やっぱりこの呼び方は千紘ちゃんだ。懐かしいような悲しいような。しばらくは高子さんもとい千紘ちゃんと涙涙の再会を喜び合うのだった。


 その後、木苺をつまみながらいろんな話を二人でした。千紘ちゃんは

 こちらの世界の事や元の世界での昔話などを笑いながら話す。あたしは千紘ちゃんが亡くなった後の事をぽつぽつとした。


「……そうだ。圭ちゃん。お姉ちゃんや義兄さんがいなくて寂しいだろうけど。私がいるから安心して」


「うん。千紘ちゃんがいるから。そこのところは心配していないよ」


「まあ、弟の頼高もいるから。いざという時には頼ったらいいよ」


 あたしは頷く。千紘ちゃんはまた頭を撫でながら立ち上がる。


「さ。木苺も食べちゃったし。私はそろそろ戻るね」


「わかった。お休みなさい。千紘ちゃん」


「うん。お休み。圭ちゃん」


 千紘ちゃんはひらりと手を振りながら容器を持って部屋を去っていく。それを見送りながら御帳台のある奥に向かった。

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