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二話、姉妹と一緒に

 頼高さんのお邸に馬で連れて行ってもらった。


 ちなみに前に頼高さんが乗り後ろに乗っけてもらったが。頼高さんはかなり慣れた手付きで手綱を操る。芦毛といったか。馬も言うことをよく聞いて従順だ。そんな事を思いながら夜明けで白んでいく空を見上げた。


 二十分くらいは走っただろうか。徐々に大きな門構えの邸が見えてきた。かなり立派な佇まいだ。ほわぁと見上げながらため息をつく。


「……圭。今は秋だからな。それに雨に降られたから冷えるだろう。すぐに湯殿を使え」


「……ありがとうございます」


「礼はいい。あ、姉上と妹が来たな。馬を厩舎へ連れて行くから。後はあの二人に聞くといい」


「わかりました」


「ではな」


 頼高さんはひらりと降りるとあたしを半ば抱きかかえながら馬から降ろす。そうした後でスタスタと背中を向けて馬と一緒に行ってしまった。入れ替わるように着物姿の女性二人組が小走りでやってくる。


「……あら。見ない顔だと思ったら。あなた、頼高が連れてきた(わらわ)ね?」


「童ですか?」


「だって。見慣れない衣を身に着けているし。髪も短いし。どこからどう見たって迷子でしょう」


 あたしは迷子と言われて固まった。一応、髪は肩につくまでは伸ばしているのだが。童っていったら。要は子供と間違われているのか。しかもこの様子だと。


清楽(きよら)姉様。この人は童じゃないと思うわ。髪は短いし珍しい格好をしているけど。女人よ」


「……え。それは本当なの。高子(たかきこ)


「うん。だって声を聞いたら大体はわかったわ。ねえ。迷い人さん。お名前を教えてくださいな」


 女性二人組の内、年下とおぼしき子の方が微笑みながら尋ねてきた。艶々とした真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばしたあたしより少し背の高い美少女だ。目つきは切れ長で二重で。どことなく頼高さんと似ている。


「……名前は。高野圭と言います」


「圭さんと言うのね。私は賀茂頼高の妹で高子というの。隣にいるのは姉で清楽。さ。髪や衣がずぶ濡れだわ。お湯殿に急ぎましょう!」


「あ。そうだったわね。ごめんなさいね。圭さん。着替えも用意するわ!」


 高子さんと清楽さんはそう言うと。あたしの右腕を掴んで引っ張る。そのまま、お湯殿と呼ばれる建物に連れて行かれた。


 高子さんがあたしが着ていた制服を脱衣場らしき部屋にて脱ぐように言う。渋々、着ていたブレザーの上着やスカートを脱ぐ。ぶるりと身体が震え上がりクシャンとくしゃみが出た。


「あらあら。本当にごめんなさいね。気の利かない兄様だわ」


「いえ。お湯を使わせてもらえるだけでも有り難いです」


「……圭さん。私には敬語を使わなくてもいいわよ。あなたとそんなに年は離れていないはずだし」


 高子さんはからからと笑いながら言う。あたしはどう答えたものやらと思った。そうしながらもブラウスのボタンを外していく。パサリと脱いで高子さんに手渡す。


「……あたし。年は十八歳です。高子さんは?」


「やっぱりね。私は今年で十九歳よ」


「え。意外だな。あたしよりちょっと上だったんだ」


 驚くと高子さんは悪戯っぽく笑った。


「あら。私も意外だと思ったわ。あの朴念仁の兄様が。あなたみたいに若い女人を連れて帰って来るから。見た時は本当に驚いたわ」


「……そう。あの。ちょっと後ろを向いていてくれないかな?」


「あ。そうね。私が見ていたら脱ぎにくいわね」


 高子さんはすぐに察してくれてくるりと背中を向けた。あたしは手早く肌着類も脱いだ。高子さんはタイミングを見計らってこちらを向く。


「……さ。これは湯帷子(ゆかたびら)といって。湯浴みをする時に使う衣よ。着てちょうだいね」


「うん」


 高子さんは手慣れた様子で白の薄い着物を着付けてくれた。右手を繋いでもらい、浴室に入る。もうもうと湯気が立つ中に入り「そちらに座って」と指示された。指差された方に腰掛ける所がある。そちらに浅く座ると高子さんはすぐに浴室を出た。


「しばらくはここでゆっくりして。もし出たくなったら声をかけてね」


「わかった。ありがとう」


 お礼をいうと。高子さんは頷く。浴室の引き戸が閉められたのだった。


 三十分くらいはいたようだ。汗だくになってきたので引き戸に向かって呼びかけた。そうしたら高子さんがすぐに引き戸を開けてくれる。


「……もういいの?」


「うん。上がっていいかな」


「わかったわ。圭さんの衣類は母様が洗ってくれているから。さ。手を」


 頷いて高子さんの手を握った。浴室を出る。引き戸が閉められたら隣にある浴槽のある部屋に案内された。清楽さんもスタンバイしていて高子さんと二人で頭から足の先まで丁寧に洗ってくれる。ちなみに髪の毛は小豆の粉のエキスで洗い、お米のとぎ汁でトリートメントした。身体は米ぬかエキスが染み出したぬるま湯で洗われる。最後に程よい温度のお湯が張られた浴槽に浸からせてもらった。人心地ついたら上がり清楽さんが真っ白な麻布と呼ばれるタオルで髪や身体についた水気を拭き取ってくれる。


「……後で香油を髪に塗り込むわね。お香も焚き染めないと」


「はあ」


 清楽さんは一通り水気を拭き取ると。手際よく湯帷子を脱がすと。(あこめ)という下着などを着付けてくれた。次に小袖、長袴と重ねたら。ちょっと大きめのサイズの単衣に袿を三枚程着せてくれる。


「さ。着付けはできたわね。あなた用に準備したお部屋があるから。そちらに行きましょう」


「わかりました。清楽さん」


 頷くと清楽さんはにっこりと笑う。右手を握られた。恐る恐る握り返すと笑みが深まる。高子さんと三人で用意してくれたらしいお部屋に向かった。

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