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生い立ち②

side︰ロメオ


その頃から僕は再び市井へと出るようになり、マグリブ商会へも顔を出すようになっていた。


王位継承権を持っていると言っても王になるつもりもなかったから、将来はマグリブ商会を継ごうと思っていた。


だから祖父から与えられていたジャスターを名乗りマグリブ商会の副会長として働き始めた。


王子と副会長の二重生活は身体的にキツい事もあったが、城にいるのならばキツくても商会で働ける方が楽しかったので苦にならなかった。


そんな中で出会ったのがお嬢様だ。


王子としての僕からしたら自分よりも身分が低い年下の女の子だったのだが、敬うだけの価値があると思える少女だった。


教会の収益により運営されている、貴族の慈善活動にも含まれていない孤児院に目をつけ、環境を改善し、簡単な勉強を教え、それが周囲へと広がり大人達まで文字や計算を学ぶようになり、その事が後々に領地をも潤す結果へと結び付いた。


弟と同じ歳の、8歳も年下のその少女はいつの間にか僕の中に住み着き、居座っていた。


それが恋なのだと自覚したのは彼女が13歳になった時。


彼女の婚約者が弟に決まった時だった。


僕の方が先に見つけたのに...。


そう思った自分が滑稽で、21の男がまだ幼い少女にこんな感情を抱く異常性に慄いた。


幼女趣味でも持っているのかと自分を疑ったが、お嬢様と同じ年頃の少女を見ても心動かされる事はなく、お嬢様が特別なのだと分かりホッとした。


それからの僕はお嬢様を見守りつつも自分の気持ちは押さえ込んだ。


王子として婚約者をとの声は力で黙らせ、国王には「自分の婚約者は自分で決める!口出しする事は許さない!」と宣言した。


18歳になった時、僕は不本意にも王太子として立太子させられた。


弟では力不足だとの周囲からの判断が大きかったようだが、能力的にも魔力的にも弟よりも優れている僕を国王が最終的に選んだらしい。


イザベルは最後まで「キリアンがもう少し成長するまでお待ちください!」と訴えていたと聞いている。


この点に関してだけは僕はイザベルを推したい気持ちが強かった。



お嬢様が学園に入学し暫くした頃、お嬢様が描いた絵が目に留まった。


お嬢様はとても恥ずかしがっていたがその絵は今までに見た事もないタッチの物で、商人としての僕の勘が「これは売れる!」と囁いた。


顔を真っ赤にしてオロオロするお嬢様が愛らしく、その美しい手で描いたのだと思うと謎の生物すらも愛おしく感じた。


ウサギだと分かった時は正直面食らったのだが、不格好で愛嬌のあるウサギはお嬢様の一面のように思えて一気に愛着が湧いた。


僕の勘の通りウサギは女性の間で爆発的な人気になり、僕はお嬢様と契約を交わした。


「一割でも十分よ!」と頑ななお嬢様をなんとか説き伏して交わした契約により生まれた利益でお嬢様が「家を買いたい」と言った時には唖然としたのだが、話を聞いてなるほどと思った。


今の学園は不自然な程に何の話も流れて来ない。


普通弟が婚約者以外の女に入れ込んでいたら、それが例え学園内の事であろうともウワサが流れるはずなのに、それすらも一切流れて来ないのだ。


お嬢様の未来予知の話も納得いった。


そういう不思議な力があるからこそのこれまでの言動であったのだと思えば、8歳で異様な程に大人びた雰囲気を出していた事も、孤児院に目を付けた事も納得出来たのだ。


だから僕はお嬢様を信じた。


家を用意しつつ、学園に潜り込めないかと画策し、学園を調べ始めたのだが、思いの他セキュリティが固くなかなか厳しいものがあった。


お嬢様が不自由なく生活出来、かつ僕も頻繁に行く事が出来、安全面でも納得出来る家を見つけ、お嬢様の好みの内装を施した頃、お嬢様に新作をお願いした。


常々新作はお願いしていたのだが中々頷いてはくれなかったお嬢様も、家の購入でお金を使い果たしたと思っているので新作を描いてくれた。


実はお嬢様の住むかもしれない家はお嬢様のお金は一切使っておらず、全部僕のポケットマネーで用意した。


本当に弟がお嬢様を追放なんてしてしまったらお嬢様にはそれまでと変わらぬ生活を送ってもらわなければ僕は自分を許せない。


お嬢様が稼いだお金はお嬢様自身が使うべきであり、弟の不始末は兄である僕の責任でもあるのだからその位当然だと思った。


そして時々その家を訪れて、お嬢様と2人で穏やかな時を過ごせればそれだけで僕は満たされる。


そう思っていた、あの時までは。


どうにか臨時講師として潜り込めた学園は僕の想像を遥かに超えたヤバい場所だった。


誰もその異常性に気付いていない事も不思議だった。


そんな中で、好意を増長させられているとは言え他の女に現を抜かす弟を目の当たりにした時初めて「お前にはお嬢様はやれない」と強く思った。


王族は魅了などの精神魔法に囚われないように小さい頃から訓練を受ける。


僕がこの学園に来て直ぐにその異常性に気付いたのもそのお陰だ。


同じ訓練を受けていたはずの弟はそれに気付く事もなく、あろう事か僕の大切なお嬢様を悪と決めつけ蔑んでいた。


その顔がイザベルにそっくりで嫌悪感しか湧かない。


僕が変身魔法で姿を変えている事にも気付かず、僕の目の前でもシシリア・エドゥナと腕を組み交わし、顔を寄せ合い、周りすらも見えぬと言った様子で2人だけの世界を作り上げている。


「お嬢様は僕がもらってもいいですよね?」


通りすがりにそう囁くと苦々しく顔を歪めて「あんな女を望むなんてとんだ物好きもいたもんだ」と僕を見下すように見て汚らしく笑った。


可愛いと思った弟はもういなかった。


学園に入学する前までの弟はお嬢様、いやアイリシャスに好意を寄せていた。


彼女と会うとなると数日前から浮かれていたし、プレゼント1つ選ぶのでさえ吟味に吟味を重ねていたのを知っていたし、何より彼女を見る目には確かな熱を感じていた。


それがこうまで変わってしまうとは...。


魅了系統の魔法は少なからず好意がなければかかる事はない。


弟は大なり小なりシシリアに惹かれたのだ、魅了系統の魔法にかかる程度に。


それだけで十分だと思った。


あいつにアイリシャスはやらない、やってなるものか!


そう心に決め、僕は臨時講師と商人と王子の3つの仮面を被る事になった。

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