生い立ち①
side︰ロメオ
僕は『ジャスター』と『ロメオ』2つの名を持っている。
ロメオとはこの国の国王の正妃であった母から授かった名だ。
そしてジャスターとは母方の祖父から平民として生きていけるようにと授けられた名だ。
*
僕の母は国王の寵愛を受けた正妃だった。
だったという言葉から分かるだろうがそれは過去の話だ。
良くも悪くも人を疑う事を知らなかった母は当時側室であり現在正妃の座に着いている女に嵌められ、その座を追いやられたのだ。
話は簡単だ。
母の侍女達を抱き込み、母には都合の悪い嘘の噂を流し、母の幼馴染であり国王の側近でもあった男との不義を疑わせ、2人に薬を盛り恰も関係を持っているような寝姿を国王の目に晒したのだ、あの女が。
母の幼馴染であった侯爵家の次男ロバートは国王の逆鱗に触れその場で斬り殺され、母は一切の弁解も許されずに王宮を出され離縁された。
ロバートの生家であったウィスボン侯爵家は伯爵に降爵の上領地の半分を取り上げられた。
ロバートには最愛の婚約者がいた為何かの間違いだと何度も訴えたそうだが国王は聞く耳を持たなかった。
母の生家であるラミアス公爵家も不貞を働く女を育てた家だと糾弾され伯爵に落とされ財産と領地の半分を取り上げられた。
その上で母を家に迎え入れる事も許さないと国王から圧力がかかり、母は帰る家もなく市井へと放たれた。
母の実父であるラミアス伯爵は秘密裏に手を回し、当時はまだ頭角すら現していなかった小さな商会を抱え込みそこの商会長である男、ブーザン・マグリブに母の面倒を見させた。
王宮を追われた後に僕が腹にいる事が分かったのだが、その時にはもうすでに母は元夫であった国王には何の期待も持ち合わせてはおらず、秘密裏に僕を産んだ。
僕は王家の特徴である金髪碧眼を色濃く受け継いで産まれた。
この国では金髪碧眼は王家だけの特徴であり、特に深い青色の瞳を持つ者は魔力量が多く王家の血を引く者だと言われている。
顔立ちも父である国王の幼少期に瓜二つだと誰もが口を揃えて言う程に似ていたらしいのだが、そう言われても僕自身父を見た事もなかったので全く気にもしていなかった。
10歳まで僕はラミアス伯爵家とマグリブ商会に守られながら平民として、後にマグリブ商会を継ぐ者として生きていた。
その生活が一変したのは母の死後である。
11歳になろうかという時に王都で流行病が猛威を振るい母が命を落とした。
母の葬儀はマグリブ商会を主体にして小規模で行われたのだが、そこに国王がお忍びで来ていたのだ。
激情に任せて母を放逐し、ロバートを斬り殺した国王だったが、数年経ち冷静に考えた時に初めて2人の関係に疑問を持ったらしい。
笑わせる。
そして母の葬儀で自分に瓜二つの男児を見た国王はそこで初めて自分のした事を後悔する事になった。
その罪滅ぼしが僕を王族として、自分の実子として認めて迎え入れる事だった。
僕としては迷惑この上ない話だったが国王の決定は絶対で、僕は11歳になったその日に王宮へと入った。
そこからの数年は苦痛の連続だった。
側室から正妃へと上り詰めたあの女には常に命を狙われ、あの女イザベルの息のかかった教育係からは教育と称した虐待を受けた。
僕を無理やり王宮に迎え入れた国王は迎え入れるだけで僕を放置した為、僕への行為は日増しにエスカレートしていき、普通の教育でさえも命を脅かすものへと変貌していった。
特に酷かったのは魔法の訓練だった。
僕の中には膨大な魔力が秘められていたのだが、それを発現する事が出来ずにいた。
そうとは知らない教育係は僕を「王家の恥」と罵りながら僕を標的に魔法をぶつけ始めた。
最初は小さな火の玉や水の玉だった物が次第に顔程もある大きさに変わり、肉食動物が獲物をいたぶるかのように僕を追い詰め、怯える姿を嘲笑っていた。
15歳の時、僕は自分の中の魔力を暴走させて王妃宮と離宮を全壊させた。
そうなって初めて国王は僕をちゃんと見たのだと思う。
その目には畏怖の念が見て取れたが、僕は正直どうでもよかった。
それからの僕は命を狙われようと自分の力でどうにでも出来るようになったし、魔力量が多い為に僕に適う者もおらず色々と自由になった。
イザベルの目も緩み、8歳年下の腹違いの弟がイザベルの目を盗んで僕の元へと遊びに来るようになったのもその頃からだった。
弟のキリアンは僕の魔力量の半分以下しか魔力を持たない、恐らく王族としては落ちこぼれと言われる子供だったが「兄上のようになりたい!」と勉強や魔法訓練を頑張っていた。
金髪碧眼ではあったが顔はイザベルに瓜二つでその顔を見るのは嫌だったが、素直に懐く弟は可愛かった。