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ケサランパサラン

ジャスターに家が見つかったとの知らせを受けたのは2学年に進学して半年が経った頃だった。


私が追放されるであろう国境付近の森の中とは正反対に位置する町の外れの一軒家。


1人で暮らすには大きすぎる家だったが、水道もあり庭には手押しポンプ式の井戸もあり、そこそこな広さの庭もあるという。


電気はこの世界では魔力を流せば前世の蛍光灯のような明るさでランプが灯るので問題ない。


前世の記憶を思い出してからは簡単な料理も出来るようになったのでいつ追放されても大丈夫だとは思う。


けれど家の購入でウサギの売上金は底をついてしまったので生活費に不安がある。


「お嬢様!新作をお願いします!」


ジャスターにずっと言われ続けていた事なのだが、ウサギショックで随分と心が抉られていたのでずっと保留にしていた。


でも新生活の生活費の為にはもう一旗か二旗程上げておかないととてもではないが生きては行けないと思う。


色々と悩んだ結果、私は前世で大好きだったシマエナガを描いた。


が、どう見ても、どう頑張って見てもシマエナガではない謎の丸い生き物が誕生してしまった。


この世界にはシマエナガはいないのでこれをシマエナガだと主張しても誰も「違うだろ!」とは突っ込まないと思うのだが、相変わらずの絵心のなさに泣きそうだ。


歪な玉子型の体に左右でやはり大きさの違う丸い目。


嘴だけはシマエナガのそれっぽく描けたと思うのだが、どう見てもシマエナガではない。


何が違うんだろう?


違和感しか感じないその丸い物体をジャスターはとても気に入ってくれた。


「ケサランパサランですね!」


ジャスターには私の描いたシマエナガが妖精のケサランパサランに見えたらしい。


この世界のケサランパサランは春の終わりを告げる妖精である。


野山をケサランパサランがフワフワと漂い始めると春が終わり夏がやって来る。


水と空気の綺麗な場所にしか現れないので滅多には見られないが、目撃者はそこそこな数がいる為実在しているようである。


因みに私は一度も見た事がない。


ジャスターはケサランパサラン(シマエナガ)のイラストをほくほく顔で持ち帰って行った。



今日は私が毎月慰問している孤児院への訪問日だ。


何となく覚えている前世の自分は保育士を目指していた程に子供が好きだったようで、今世でもやはり子供が好き(自分も子供のくせに)で、孤児院があると知ってからは毎月通うようになった。


この世界には保育園や幼稚園という物がないので、子供達と触れ合おうと考えたら孤児院一択だったのだ。


初めて訪れた孤児院はそれは酷いもんだった。


建物はあちこち傷んで雨漏りは当たり前。


床は今にも抜けそう(実際大柄の護衛さんが踏んだら床が抜けた)だしベット数も全く足りず、半数の子供達が床でゴロ寝が当たり前。


食事は日に一度。


子供達は皆ガリガリで汚い服を身に纏い、瞳には生気すらなかった。


孤児院とは教会の収益のみで運営されるのが当たり前なこの世界だったので、収益の出ない教会ではここよりも劣悪な孤児院はゴロゴロあるのだと知った。


これは駄目だ!これは本当に駄目だ!


そう思った私は父に泣きながら訴えた。


小説などの知識では貴族は慈善活動として孤児院に寄付をするのがステイタスだと思っていたのに、この世界では孤児院は慈善活動の域に入っていない事を知り唖然とした。


誰も見ようとしない場所、それが孤児院だったのだ。


前世での受け売りな言葉を並びたて「子供は国の財産だ!」とか涙ながらに熱弁し、何とか孤児院の環境を整えてもらう事を了承させた。


行く度に綺麗になっていく孤児院。


それと比例するように子供達の顔が明るくなり、瞳にもちゃんと生気が戻って来ているのを感じて嬉しくなり、私は文字や計算を教えるようになった。


自分よりも小さな子供に文字を教わるなんて嫌かな?と思ったけど、みんな乾いた土が水を吸い込むように与えられる知識を吸収してくれた。


私が教えた事を大きい子達が小さい子達に教える。


その過程を見ている大人達も自然と学ぶ。


素敵なループが出来上がっていった。


今ではすっかりと綺麗になった孤児院で、私は衝撃的な物を目撃してしまう。


『ケサランパサランの冒険』


「これ読もう!」


と駆け寄ってきた子が持っている絵本の表紙を見て倒れそうになった。


そこには私が描いたシマエナガ(ケサランパサラン)がドーンといたのだ。


何の嫌がらせかと思った。


「これね、とっても面白いよ!ケサランパサランもすっごく可愛いの!」


「新しいのも出てるんだって!」


子供達は目をキラキラとさせている。


『拷問?!これ拷問ですか?!』


そう思いながらも顔には出さずに読んであげた。


話は絵本としてはとても良く出来ていて確かに面白かったのだが、イラストが...如何せんイラストが...。


最後の方なんて泣きたくなっていた。


「このケサランパサラン、とても人気なようでして、ぬいぐるみや小物も販売されているようなんですよ。子供達も欲しがっているんですが...」


『あー...グッズ販売までされてるんですか...で、子供達も欲しがっていると...』


口から魂が抜け出そうだった。


でもね、欲しがってるなんて聞いてしまったらプレゼントしたいなぁと思ってしまう訳で...。


孤児院からの帰り、ジャスターがいる商会に行ってみると店内に入ってすぐの目立つ位置にケサランパサランコーナーがあり立ちくらみがした。


「お嬢様!いらしてくださったんですね!」


私を見つけたジャスターが駆け寄って来て、ケサランパサランが大好評だと鼻息荒く説明してくれた。


ウサギの方もまだ売れ筋商品らしく、ハンカチ等にも刺繍されていた。


孤児院にプレゼントしたいと話したら「そういう事でしたら僕からプレゼントさせていただきますよ!」と言われ、ジャスターがグッズを、私がケサランパサランの絵本の新作を孤児院へとプレゼントした。


後日、孤児院の子供達からケサランパサランの絵付きの手紙が届いた。


手紙は本当に嬉しかったけど、ケサランパサランの絵は喜べなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] アイリシャス様のHPはもう0よーー!と叫びたいですw 断罪前に悪役令嬢が死んじゃうw
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