ウサギ
『あー、これ何しても無理なやつだわ』
と悟った私は自分に何が出来るだろうと考えた。
小説などでは商売をしたり冒険者登録をして地道に稼いだりする主人公達が描かれていたが生憎私には商才も冒険者登録出来る程の実力(魔法含め)もなかった。
普通転生なんて事になったら何かしらの凄技だったり知識だったりあったりするだろうに、私には本当に何もなかった。
逆に潔いと思う程に。
前世の知識を使って...とも考えたが、何か得意だった事がある訳でもなくのほほんと生きていたっぽい私に、前世の知識を使って何かしらの事を成す事も出来そうにない。
『え?!詰んだ?!もしかして詰んでる?!』
と気付くまでに1ヶ月かかった。
もう自分1人ではどうしようもないと悟った私は『どうせ死ぬ訳じゃないしその時になったら考えたらいいか!』と思考を放棄した。
もうどうでもいいやと投げやりな生活をして1ヶ月位経った頃転機が訪れた。
我が家に出入りしているマグリブ商会の副会長のジャスターが私の落書きに目を留めたのだ。
「これはお嬢様が描いたのですか?」
ジャスターが手にしていた紙には不格好な頭の大きなウサギのイラスト。
「ヤダ!見ないでよ!」
前世で「画伯」と言われる程に絵の才能がなかった私が描いた、可愛いのか可愛くないのかも微妙なウサギ。
それを神妙な顔でマジマジと見るジャスター。
『笑われる』と覚悟したのにジャスターは予想外の反応をした。
「お嬢様!これ売れますよ!」
「はぁ?!」
もう「はぁ?!」しか言えなかった。
『こいつ何言ってるの?!』
もう頭の中は疑問符だらけ。
「そういう冗談はやめて!」
「冗談なんかじゃありません!本気ですよ!僕の勘が言うんです、これは売れると!是非、是非これを売り出す許可を頂きたい!」
「え?!正気?!」
「例え売れなかったとしてもその場合は僕の勘が外れただけ!もし僕の勘が正しかった時には改めてきちんと契約を結びましょう!それならばお嬢様には一切不利益は与えません!どうでしょうか?!」
「こんなの売れないわよ...やめた方がいいと思うのだけど...」
「僕を信じて任せていただけませんか?!」
そこまで言われたら頷くしかなく、私は『絶対売れない!』と思っていたのだが、ジャスターがあの絵を持って行って暫くした頃、私の周りで不思議な事が起こり始めた。
あのウサギのマスコットキーホルダーを身に着けた女子がチラホラと現れたのだ。
最初は見間違いかと思った。
フワフワした10cm程のぬいぐるみに紐が付いた物を筆箱や手提げバッグに付けて歩く女子。
『何だろう?』と思ってさり気なく見ていたらまさかの私の描いたイラストのウサギ。
「へ??!」
人生一奇妙な「へ??!」だった。
頭が大きく体は小さいアンバランス極まりないあのウサギは私が描いたイラストをそのまんま抜き取ったように再現されていた。
左右大きさの違う、だけど顔の割に大きな目も、ゴマ粒みたいにちょちょんと並んだ鼻(鼻穴かな)も「ミミズですか?」と聞かれそうなうにうにした口もそのまんま。
手は短く足は胴から突然足首から下が生えたみたいな短さ。
その癖尻尾は丸く大きい。
『本気で売り出したの?!』
もう絶句し、その後から急速に恥ずかしさが訪れ、プラプラと揺らしながら歩く女子から奪い取って走って逃げようかと思った。
そのうち、チラホラとしかいなかったウサギ持ちの女子達が目に見えて増えていき、そのうち学園の大多数の女子達があのウサギをプラプラさせている光景を目の当たりにした。
『何が起きてるの?!これ現実?!』
有り得ない光景に半ばパニックだった。
そんな時ジャスターがやって来た。
「お嬢様!僕の勘は正しかったですよ!」
「何が起きたの?!」
「あの絵をぬいぐるみとして再現させていただきました!ただのぬいぐるみでは駄目だと思い、小さくて持ち歩ける物を!と考え、紐を付けて持ち歩けるようにした所大当たり!凄い売上ですよ!」
「そ、そう...」
もうね、信じられなかった。
その後、あれよあれよという間に契約が結ばれ、あのイラストの作画料として売上の3割が私に入ってくる事が決まった。
それが契約的にどうなのかなんて分からなかったけど、あんなイラストでお金が手に入るなら凄い事だよね?と思った。
そしてそのお金を追放後の生活資金として貯めればいいんじゃない?!と思い立った。
大した額にはならないだろうけど足しになれば...と思ったのに、蓋を開けてみたらとんでもない金額が入る事となったのである。
そしてジャスターに「お嬢様!次のイラストをお願いします!」と頼まれたのである。