シャトル視点その3
もう何だか訳が分からない(いや、意味が分からない)状態で王と王太子の間で王太子は廃太子の上毒杯を賜って死亡した事にするという流れで話が纏まった。
本当に大丈夫なんだろうか、この国は?!
まぁ、国が危なくなったら家族で即行国を捨てるけどな、多分。
一緒に心中するつもりはない、俺は(親は知らん)。
「という事で僕はジャスターとして今後生きていく事になったのですが、ここで1つ提案があります。アイリシャス嬢と結婚させてください」
「「「何を?!」」」
我が家族+糞王子が声を上げた。
誰が声を出してもいいが、お前は許さんぞ、糞王子!
「僕はジャスターとしてアイリシャス嬢とこれまで接してきました。弟の婚約者なのだからと募る想いに蓋をしてお嬢様が幸せになるのならばと見守ってきました。ですがこの度お嬢様は弟に婚約破棄をされた。僕にもやっとチャンスが巡ってきたのです。このチャンスを逃したくはありません。是非、お許しを頂けないでしょうか?」
「ま、まぁ♡ロメオ様、いえ、ジャスターさんと呼べばいいのかしら?」
「ジャスターと呼んでください、お義母様」
「まぁ♡お義母様だなんて、キャッ♡」
母上...何故あなたが照れているのですか?!
「ジャスターさんは何時からアイリちゃんの事を?」
「変態だと思われても致し方ないとは思いますが、もう随分と前から、気付いたら惹かれておりました」
「うわぁ...ロリ、グヘッ!」
ヘネルが余計な事を言い掛け、母上の石礫(魔法)が顔面を直撃していた。
母上は何というか、少々少女趣味な思考があり、長年の秘めたる想いのようなストーリーが大好物である。
だからだろう、もう目がキラキラしている。
我が母ながら...やめて欲しい。
「実はお嬢様は今回の事を予見しておられ、断罪された後に1人で住む家を既に用意しておられます」
「「「えぇ?!何だって?!」」」
「い、家を用意?!一人暮らし?!駄目だ!絶対駄目だ!うちの可愛いアイリシャスを一人暮らしなんてさせたら直ぐに飢えた狼に狙われて...駄目だ、絶対駄目だ!!」
「アイリちゃん...腑甲斐無い母を許して!アイリちゃんが苦しんでいた事にも気付かなかった母を許して!!」
「断罪される事を予見って何だよ?!予見出来る位に酷い事を可愛い可愛いアイリシャスはされていたって事か?!お前はやっぱり殺す!!」
「兄上、加勢します!」
「それについては異議はないわ!」
「あぁ、やってしまえ!」
「ちょ、ちょっと待て!殺してはならん!王太子になるのだぞ!!」
「「「こんな王太子は認めん!!」」」
「まぁまぁまぁ、落ち着いてください、ね」
ロメオ殿下改めジャスターさんが素晴らしい笑顔で場を収めた。
「お嬢様が一人暮らしを予定している家は僕が用意しました。そして僕は空間移動魔法が使えます」
「な、なんと!」
「まぁ♡凄いわ♡」
「ご希望とあらば侯爵家と繋ぐ事も可能ですよ」
「是非!是非繋いでくれ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
ここで口を挟んできた糞王子。お前、何故口を開く?!死にたいのか?!
「このような騒ぎを起こした僕がこんな事を言うのは筋違いだと十分に承知しています!ですが!僕は、アイリシャス嬢を愛しております!」
「「「お前が愛を語るな!!」」」
「駄目よー、魅了されて他の子にコロッと行ったゴミなんかにうちのアイリちゃんは渡せないわ、死にたいのかしら?ウフフ」
「クッ...でも...」
「キリアンよ!お前はアイリシャス嬢を愛しているのか?!」
「はい...目が覚めた今では何故あの娘を信じたのか自分でも信じられません...愛していたのはアイリシャス嬢だったはずなのに...」
「そうかそうか、うむ、分かった!アイリシャス嬢との婚約は続行」
「「「させてたまるかぁぁぁ!!」」」
「そなたらにとっても良い話ではないか!王家と繋がる事は大変光栄な事ではないか!」
「失礼ながら...貴様は阿呆なのか?!そもそもアイリシャスを絶対に泣かさない、不幸にしないとの約束の上で渋々!渋っ々!渋っっ々婚約を了承したのだぞ、我が家は?!その約束が反故にされた以上王家との婚約なんて断固拒否だ!」
「しかし、アイリシャス嬢はキリアンを好いているのだろう?元の鞘に戻るだけではないか」
「何故アイリシャスがキリアン殿下を好きだと勘違いなさっているのでしょうか?あ゛ぁん?!」
父上、気持ちは分かるが最早王族への態度ではありませんよ!
「王子だぞ?!王子を好かぬ女子はおらん!」
「あ゛ぁぁぁん?!あんな事されて好意を持つ女がどこの世界にいるって言うんだ?!脳ミソ腐ってんのか、ゴラァ!これだから糞って呼ばれるんだよ、この糞が!」
母上...さっきまでの乙女モードは何処へ?
「あらヤダ私ったら」
「な、何故だ?!王族だぞ?!王子だぞ?!喜ばしき事ではないか?!」
「王があんたじゃなくて、王子がこいつじゃなきゃな!」
「し、しかしだな」
「しかしもヘチマもないわ!アイリシャスは王家にはやらん!絶対に!」
「ではやはり僕が頂いてもよろしいでしょうか?お嬢様には好きな事をしていただいて、僕はお嬢様をお守りする。僕と婚約すれば流石に王家と言えどももうお嬢様には手出し出来ませんしさせません。良い案だと思いませんか?」
「ロメオ!」
「僕はジャスターですよ、陛下。それにお嬢様は公衆の面前で婚約破棄をされました。まさかあれを今更撤回は難しいと思いますよ、陛下」
ドス黒いオーラが見える。
「し、しかしっ!」
「侯爵家が国を出てもよろしいのですか?モルガン侯爵家を失う事は我が国にとって軍事力そのものを失うと同等。よくお考え下さい、陛下」
「だ、だがっ!キリアンはアイリシャス嬢を好いておるのだぞ!弟の幸せを考えられんのか、お前は!」
「今までずっと考えてきましたよ?それを壊したのはキリアン本人ではございませんか?それに陛下は僕の幸せは考えてはくださらないのですか?僕だってアイリシャス嬢を、お嬢様を心よりお慕い申し上げておりますが」
「これとこれとは話が違う!」
「陛下?欲を出しすぎると身を滅ぼしますよ?」
「ぐっ...」
王が黙った所でジャスターがまたまた良い笑顔で我ら家族の方を向いた。
「僕がお嬢様と結婚すれば、僕が覚えた空間移動魔法をお教えする事も吝かではありません」
空間移動魔法とは魔法陣を設置した場所同士の空間を繋げて瞬時にその場所へと移動出来る魔法であり、大昔に賢者と呼ばれた魔法使いが考案した魔法なのだが、その賢者以外に使える者が現れず幻と言われていた魔法で、王家に頼まれた任務を終えたら速攻で家に帰りたい(アイリシャスに会う為に)我が家にとっては喉から手が出る程に欲しい魔法の1つだ。
特に両親は家から遠く離れた地へと赴く事が多い為にどうしても身に付けたいと今まであらゆる文献を取り寄せては研究を重ねていた。
この提案は正直心が揺れる。
「僕はお嬢様と家族が団欒する時間を奪うつもりはありませんし、その輪の中に加えていただければ嬉しい限りです。僕は家族というものを知りませんので...」
そう言って目を伏せたジャスターは母上の琴線に激しく触れたようだ。
「家族を知らないなんて...なりましょう!うちの家族に!それで王家と縁が切れるなら一石二鳥だわ!ね、そうよね!」
「あ、あぁ、だが、な...」
「このままだとまーた糞共がアイリちゃんに手を出してくるわよ!」
母の一声でジャスターがアイリシャスの婚約者になる事が決定した。
帰りの移動中に両親が何やら話し込んでおりそれがまさかのジャスター婿入りの話だとは思っていなかったのだが、「あら?ジャスターさんが婿入りしてくれたら、あなた達だって一緒に暮らせるじゃない?」との母上の言葉に「それは素晴らしい!」と思った。