怖い家族
家に帰ると家の中の空気が違う事に気付いた。
わざわざ出迎えてくれた両親は私を労わってくれた。
「何も心配はいらない。きっちりと落とし前を付けてもらうからな!」
そう言ったのは父。
「アイリちゃんを傷物だなんて言わせないわ!あちらの有責で、しっかりと全ての醜聞を背負ってもらってくるわね」
そう微笑んだのは母。
私、自分の事でいっぱいいっぱいですっかり忘れていたのだが、うちの両親、怒らせてはいけないタイプの人間だった。
嗚呼、ここに兄達がいなくて良かった...。
そう思ったのも束の間、父の言葉で私は「終わったな、王家」と思った。
「シャルト(長兄)とヘネル(次兄)は先に王城へ行っている」
うちの家族は怒らせると怖い。
特に私が絡むとその恐怖度は数段跳ね上がる。
我が家は侯爵だが、実は国内トップの魔法の使い手一族でもある、私以外は。
私は魔法の才能があまりないのだが、父も母も兄達もとんでもない魔法の使い手で、うちの一家だけで国1つ滅ぼしかねない程の力を持っている。
だからどんなに王家であっても我が家を敵に回してはまずいと言う事は知っている為、我が家に下手な真似は出来ない。
うちの家族は家族で平和に過ごせればどうでもいいタイプの人間の集まりなので、うちの家族にさえ危害が加えられる事がなければ基本的に何もしないのだが、今回の件はガッツリ私が絡んでいる為最早誰にも止められない。
当事者の私であっても。
私と王子の婚約はそんな我が家の手綱を握りたい王家の思惑が濃厚に見えていたそうなのだが、私が5歳の頃からずーっとお願いされ続け、絶対に不幸にはしない!辛い目にもあわせない!悲しませる事もしない!と陛下自らが約束した事で父が折れて結ばれた物だったらしい。
5歳の頃から8年間もお願いし続けた陛下も凄いが、それを断り続けていた父も凄い。
その約束が反故にされたのだからうちの両親&兄達の怒りは相当な物だろう。
如何せん私は家族に愛されているので...溺愛に近い、いや溺愛かな、位に。
この家族がいれば国外追放とかを心配する必要などなかったんじゃないかと思うのだが、ゲームの強制力とか目に見えない力が働く可能性もあったし、何よりうちの家族が異様に強い事なんて当たり前の事過ぎて特別な事とも思わなくなってしまっていて失念していたのだ。
お城に血の雨が降らないといいなぁ...。
王宮破壊しないでね、お願いだから。
明日の新聞の一面にうちの名前がデカデカと載るなんて事にならないといいなぁ...。
何だかお城の方面からドッカンドッカン不穏な音がするんだけど、気の所為だよね?
...あれはきっと雷の音だ...そうに違いない。
うん、考えるのはよそう。
...はぁ、胃が痛い。
*
数時間後、やっと戻って来た両親。
清々しい程に晴れやかな顔をしている。
一体何をしてきたんだろうか?
そして王家はどうなったんだろうか?
「結論から言うとな、王太子殿下が廃嫡になる」
「はぁ?!何で?!何でですか?!王太子殿下は関係ありませんよね?!」
「何でってそりゃ、うちを継ぐ為だ」
「え?!待ってください!え?!どうしてそうなったんですか?!話が見えなさすぎて訳が分かりません!」
「殿下は廃嫡されて、うちの婿に入ってくださる」
「ん?婿?はい?!」
「アイリちゃんの旦那様になってくださるそうなのよ、マグリブ商会のジャスターとして」
「え?お兄様達のどちらかがこの家を継ぐのでしょう?」
「そのつもりだったけどね、アイリをお嫁に出すと心配事が増えるから、だったらアイリのお婿さんに継いでもらった方が安心だって話になったんだよ」
「そしたらアイリちゃん、この家にずっといられるでしょ?」
「何でそんな話になっちゃったんですか?!」
「え?だって殿下がアイリちゃんの事が好きだって言うから。もう王家にアイリちゃんを嫁がせるなんて絶対嫌だって言ったら、ロメオ殿下が「では僕は廃嫡にしてもらいますので婿入りさせてください」って仰って」
「殿下のあの魔力量と魔法の腕ならばアイリをしっかりと守ってくれるだろうし安心だ!」
「何よりもアイリちゃんを心の底から愛してるってあの言葉に感動したわよね」
ねぇ?!どうしてそうなったのか、一から説明して!!




