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カンペ

急に暗転。

別にカットと言う言葉がかかった訳ではない。

そりゃー、二次元の世界でそんなのかかる訳がない。

そもそもここが二次元の世界なのかまだ半信半疑だったけど。

二次元の百瀬くんが手の届くところにいる。

それこそがここがアニメの世界の中にいるって事では無いのだろうか?

だけど。

さっきまで側にいた百瀬くんはもういない。

気が付いたら真っ暗な場所にいた。

さっきまで天体ショーを見ていたたくさんの人達は一人残らず消えていた。

空も何も無い。

足が地面に着いているのかどうかも分からない。

フワフワとしていてまるで宙に浮いてるような感覚だった。

ただの静寂な闇の中。

不思議と怖いと言う感覚は無かった。

何故だろう?本能的に今はこのままで大丈夫と言う感覚だった。

今までに無い感覚はその後も続く。

自分の横を静止画のように見た事のあるアニメの場面が通り過ぎていく。

私がここに来てしまった事で、ヒロインとの出会いの場面を塗り替えてしまったものの他はどれも私の見た事のある場面だった。

部活に行く百瀬くんを教室の前で出待ちしている女の子達に囲まれるのもいつもの光景だった。

ハンドリングをしながら仲間と談笑する百瀬くん。

ああ、あの弾けるような笑顔。

尊い。

どれだけこうしていただろうか?

パッと周りが明るくなった。

たくさんの視線を感じる。

どうやら出番らしい。


「ちーす、北村先輩!」


百瀬くんが私に気が付いた。

北村先輩北村先輩……、北村先輩と言えば、百瀬くんの通う陸常のバスケ部の先輩だ。

根っからの体育会系の北村先輩は何事にも熱くなれない百瀬くんによく雷を落としている。

私、私、北村先輩の中に入ってしまったの?

ん?入るっておかしいかな?

私が北村先輩になってるのー?

一体どう言う事だろう?

やはり私が来てしまった事でストーリーが変わってしまったのは事実だが、どこまで変わってしまったのだろうか。

少なくとも今分かるのは、百瀬くんはヒロインと出会わなかった。

むむむ、これは私としては嬉しい展開なのでは?

これはこのままいけば百瀬くんは誰とも結ばれないのではないのだろう?

それはそれでおいしい展開…。

うふふ。

って、私何て事思ってしまったんだろう。

誰も好きにならなかった百瀬くんがヒロインを本気で好きになった時の初々しさ。

いつも自信満々で誰の言う事にも耳を貸さなかって百瀬くんがヒロインの言葉だけは一言一言、吐息さえ漏らさないぐらい真剣に聞いている百瀬くんが本当に可愛い…。

きっと、このアニメを見ている人達のほとんどが時にはやっかみながらも二人の恋の続きが見たいはず。

それなのに…。


「北村先輩……、まだ調子戻らないんすか?」


ヒソヒソ声で話す百瀬くんの息が顔にかかる…。やばい、やばい。しっかりしなくちゃ。

でも、何て言っていいか分からないよ。

私のセリフ……。

あれ?あれ何だろう?

体育館の窓から丸ゴシック体の文字が浮いていた。


百瀬「ちーす、北村先輩」


北村「ちーすじゃねーよ、挨拶ぐらいちゃんとしろ」




あれはもしや……、私がしゃべるべきセリフなのでは!


「ち、ちーすじゃ、ねーよ、挨拶ぐ、ぐらいちゃんとしろっ」


言い終わると窓に違う文字が浮かんだ。


『北村 、百瀬の頭を拳骨で殴る』


な、なんと、百瀬くんの頭を殴るなんて…。

いや、でもやらないと進まないし…。


ポカっ。


精一杯の拳は情けない音をして終わった。


「イッテー、北村先輩、ひどいっす」


目尻に涙を浮かべて自分の頭をさすっている百瀬くんはアニメのままだった。

窓をちら見しながら私は続けた。


「よーし、練習始めるぞ!」



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