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12話10




「私はパソコンのデータを調べてみました。パッと見たところ、デスクトップにはゴミ箱しかありません。しかし、何らかの情報が得られないかとファイルの検索をかけてみました。すると【住人.txt】というファイルが出てきたのです。更新日も最近でした。このファイルこそが……この集合住宅の住人の秘密に迫るものかもしれない。そう思った私は、そのファイルを開いてみたのです」 

 

 おぉ。パソコンに怪しいファイルがあったみたいですね。これで住人の全員が同姓同名だったという【謎】が解明されるんでしょうか。なんだか秘密の扉を開くみたいで、ドキドキしてきちゃいます。


「そうですね。せっかくですから、そのテキストファイルを具現化してみましょう」


 すると、(アタシ)達の目前にはホログラムのような……空間を透過したディスプレイが具現化されました。なんだかSFみたいですね。具現化にもこういう使い方があったんですか。素直に感心しました。そうですね……(アタシ)も今度、何かで試してみましょう。


「それでは開きますよ」


 野本さんがそう言うと……ディスプレイには【住人.txt】の文面が表示されるのでした。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 私がこのアパートに収容されてどれくらい経っただろう。それは余りにも長く感じたが、実際にはそれほどの時間は経過していない。きっと生活習慣だろう。ただ、引きこもるだけの生活に私の時間感覚は狂ってしまったようだ。


 しかし、そんな生活にも慣れてしまった。生活保護によって最低限の暮らしは保証されている。その気になれば外出だって出来るはずなのに、なぜだかそんな気分にはなれない。


 結局、その理由は……私が存在しない人物になってしまったからであろう。




 私はフリーライターを生業としていた。世間を賑わす大事件をフリーでなくては切り込めない視点から記事にする。その信念を持ち活動を続けてきた。そして私は、とある事件に出会ってしまったのだ。その事件は表向きには大した事件として報道されなかった。しかし、私の知る所によれば不可解な資金の動きが確認できたのである。私はその流れを探った。しかし、それが間違いだったのだ。


 その後、資金の流れをフリーライター仲間の沙華彼方と調査を続けていた時、沙華から連絡があった。なんと自身に脅迫状が届いたと言うのだ。これ以上の調査を続けると身に危害が迫るといった文面で脅迫されたらしい。だが、問題は脅迫状そのものではなかった。私同様、沙華はフリーライターとして身の安全には特に注意を払っていたはずだ。メールアドレス等と異なり、自身の居住地などは決して明かしたことはないと言う。にも関わらず、沙華の下に脅迫状が届けられた。


 結局、それが原因となり沙華は調査から手を引いた。私も手を引くかどうか迷いはしたのだが、幾分か諦めの悪い性格をしていたようで、翌日からも調査を続行してしまった。それがマズかった。私は調査中、薬物を仕込まれてしまうと拉致されてしまったのだ。人気のない倉庫のような場所で意識を取り戻すと、私が目にしたのは黒いドレスを纏った女性。彼女は仮面を付けており顔は見えなかったが、整った顔立ちをしているのではなかろうか、そう思えた。その女は私に告げる。私の調査は触れてはならないところまで迫ってしまった。だから、私の口は封じられなければならないと。


 私はそれに抗おうとした。しかし彼女は私の身内にまで危害が及ぶと忠告をする。そして、何も死ねと言っている訳ではないとも告げた。どういう事かと問えば、つまり私は死んだことにされるだけだと、何処か遠くで別人として生きていけるのだと提案されたのだ。身内への危害に及び腰になった私には、その言葉に抗うことが出来なかった。そして私は彼女の提案に小さな頷きを返事としたのだ。


 その後、私は生命保険に入っているかどうかを問われた。これまでにも危険な調査をしてきた私だ。当然のように入っている事を話すと、彼女は私の死は事故死であったように見せかけるつもりだと語ってくれた。彼女の組織が一部を抜くので満額とはいかないが、かなりの額が家族には残されるだろうとも彼女は告げる。弱っていた私の精神は、それで満足してしまったのだ。そして私は自身の死を受け入れた。


 それから、しばらく後。私の死を報じる記事が新聞の片隅に載っていたのを目にした。


 ・居眠り運転か、車がダムへと落下

10月17日深夜。山間の道を走行していたと見られ□車がガードレールを突き破り、ダム湖へと転落していた事が判明した。運転手は死亡したものとみられる。


 これが私の死亡記事だ。生きたままにして自身の死を知らせる記事を見ることになるとは思わなかった。なんともまあ、不思議な気分だ。しかし、気になることが一つある。それは遺体をどう偽装したのかだ。いくら車ごとダム湖へ転落させようが、例え車の引き上げが出来なかったとしても、遺体の引き上げはダイバーによって行われるであろう。しかし、そこには誰が乗っていたのだ? それが気になった私は監禁場所を差配していた彼女に問いかけてみた。


 彼女の答えは簡潔なものだった。


「偽装に使える遺体なんていくらでもあるわ」


 どうやら、私は虎の尾を踏んでしまっていたようだ。この組織はフリーライターごときが相手になる組織ではない。今となっては後悔している。私も沙華と共に調査から手を引くべきだったのだ。しかし、もう遅かった。




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