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12話05




 与えられた文字から意味のある文章を作る作業。やってみると……かなり面白いです。思わず夢中になってしまいました。しかもなかなかの力作が仕上がったんじゃないでしょうか。


「ジャーン! どうですか、これは力作です」


 そう言うと(アタシ)は、コムさんと刑事さんに傑作を披露するのでした。




連絡なの

警察は子供におかしを用意する

たまった前金は身代ろう




「えっと、よく意味がわからないんだけど……教えてくれる?」


 コムさんの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいるように見えます。あれれ、そんなにわかりにくいですかね? そして刑事さんは……笑っていました。いや、笑うどころか爆笑しています。


「そんなにわかりにくかったです? ほら……まずは警察に子供向けのお菓子を用意しろって連絡がありましてですね、そして駄菓子屋さんにはツケ払いしてるんですね。だから、その前金は代わりに払っておくっていう手紙なんですよ」


「いやいや。それはわかるんだけどさ。誘拐の脅迫状用の文字列から……まさか、こんな文章が出来るとは思わなかったんだよ」


「このような脅迫状ばかりでしたら……我々の仕事も平和だったでしょうね」


 コムさんと刑事さんからは芳しい反応が得られませんでしたね。仕方ありません。だって、(アタシ)も文章作るのが面白くなっちゃって、脅迫状だということを忘れていましたから。とは言っても……この文章を作った成果とでもいうのでしょうか、脅迫状の方もある程度の目星は付いています。


「まあ冗談はさておいて、多分ですけど……こんな感じですか?」


 (アタシ)は切り抜き文字が貼られた紙を手のひらに具現化すると、コムさん達に見せつけます。実はちゃんと考えていたんですよ。偉いですよね。そして、その紙には……




お前の子供は□かった

身代金□□□□□を用意しろ

警察には□うな

また連絡する




 と、そう貼ってあります。子供とか身代金などの熟語が作りやすかったので、思った以上に簡単でしたね。


「なんだ……てっきり、さっきのが本気なんじゃないかと思ったよ」


 コムさんは安心した表情を浮かべていますけど……それって(アタシ)に対して失礼なんじゃないですかね。(アタシ)だって、やる時はやるんですよ。まあ……やらない時はやりませんけど。


「ふむ。ここまでは完璧ですな。で、残りの□はどうなりますかな」


 確かに脅迫状は九割は完成しましたが……刑事さんの指摘通り、□の部分だけはまだ確定出来てはいません。しかし、ここまで来れば推理可能なレベルでしょう。


「えっとですね……結論から言うと、数字だけは確定できませんでした。これはですね……多分、どうにもならないと思うんです。けど、他はわかってますよ。最初の□から順に行くと……まずは【預】ですよね。これで……【お前の子供は預かった】となります。次が【数字四つ】と【万】でしょうか。【身代金□□□□万】を用意しろって文章になるんだと思います。そして最後は……【言】。【警察には言うな】という文章になりました」


 そして(アタシ)は、先程の新聞記事を手繰り寄せました。


「そこから考えるとですね……【2月13日。□博をめぐる不正献金問題の渦中】の□は【万】が当てはまりますよね。そして【当団体は□□と称して】の二つの□は【預言】と書いてあったと思うんですが……どうですか?」


 ふふっ。自信なさげに「どうですか?」なんて言ってみたんですが……内心は自信満々です。きっと(アタシ)は、渾身のドヤ顔を見せていることでしょう。


「素晴らしい。正解です」


 刑事さんは拍手と共に正解を認めてくれました。どうです? これが(アタシ)の本当の実力なんですから、もっと褒めてくれてもいいんですよ。


「流石にそこまで完成してたら、不正解する方が逆に難しいんじゃない?」


 むう……もっとコムさんは(アタシ)を褒めるべきなんじゃないんでしょうか。まったく、わかってない人ですね。


「ちなみに数字の方は10月24日、4月20日、10月17日、9月25日で5000万が正解なのですが……これは解けなくても仕方ありません」


 刑事さんが最後に残った数字の【謎】を教えてくれました。やっぱり解けないみたいですね。まあ、ヒントが皆無だったので当然でしょう。


「【1□月】が二つと【2□日】が二つだから……数字の選び方だけでも3の二乗と10の二乗、つまり899通りあるのかな。総当りで考えるには……ちょっと大変だろうね」


 コムさんが確率を語っていますが……あれ? その計算だと900通りじゃないでしょうか。そんな計算を間違えるだなんてどうしたんでしょう。(アタシ)はコムさんの顔を不安そうに覗き込みました。


「あ……えっとね。四つの□の全てに0が入る事だけはあり得ないんだ。だって、そうなると身代金が【0000万】になっちゃうからね。だから、その分を除くと899通りになるんだ。更に言えば4つの数字で正しい物を選べたとして、その並べ方もあるからね……偶然に正解したとしても結構な確率になっちゃうんじゃないかな」


 あー、なるほど。そういう事でしたか。まあ900通りが899通りに減ったとしても大して変わらないですもんね。やっぱり総当りするには無理がありそうです。ちなみに……どうでもいいですけど、この場合だと身代金の最高金額は9922万円なんですね。そうなると、何処かから【億】の文字を切り抜いてきた方が楽だったんじゃないかなって……そう思いました。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




 さて、なんとも長い余興でした。脅迫状の【謎】を解き終えた(アタシ)達はいつものソファーへと向かうと、そこに腰掛けます。そして……ようやくの自己紹介ですね。(アタシ)達は自身を紹介し終えると、次は刑事さんの番になります。


「ご丁寧にありがとうございます。私は野本路斗(のもとろと)と申しまして、生前は刑事として警視庁に所属しておりました」


 生前に刑事をやっていたのは既知なのですが、多少の驚きは名前ですか……いやいや、人様の名前を変だなんて言ってはいけませんね。


「珍しい名前だとお思いでしょう。この名前はゲームから借用してきた名前だそうでして、おかげで会話の種には困りません。私も子供の頃は恨んだものでしたが……刑事となってからは思ったより使い勝手が良く、親には感謝ですな」


 そう言うと刑事さん……いえ、野本さんは小さく笑いました。それはなんとなくですが、くたびれた雰囲気とマッチして見えますね。


「やはり借用元は……あの国民的RPGゲームからなのでしょうか?」


 そして……コムさんが名前の由来に反応してしまったことで、話題は別方向に盛り上がっていってしまいました。(アタシ)は……この場を作り笑いで乗り切ろうと思います。




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