9話02
扉の向こう側にいたのは……紺のブレザーがよく似合う、ごく普通の女子高生のようです。いや、こちらの世界には高校なんて存在しないので、女子高生かどうかはわかりませんけど、大抵の方は自身に一番関連している容姿を取るので……きっと女子高生なんでしょう。たまに、見た目が半身蛇だったりする人もいますが、そういう特例は……気にしないのが一番ですね。
「どうぞ、お入りください」
私はドアを片手で抑えながら、もう片方の短い腕で彼女を室内へと招き入れます。どうぞ、いらっしゃいませ。彼女は私の誘いを受け、ゆっくりと室内へ足を踏み入れました。
「さあさあ、こちらです」
私は彼女を来客用のソファーへと誘導していきます。何故でしょうね、いつもならお客様の出迎えはコムさんが行っているんですけど……今日は私がやっています。気まぐれという訳ではないんですけど、たまにはアリなんじゃないでしょうか。
「どうぞ、腰を下ろしてください」
お客様はそう言われるまで直立したままでした。律儀と言いますか……内気な方なんでしょうね。彼女はソファーの端に座ります。
「えっと、中央……どうぞ」
お客様に端に座らせるのは、流石に気が引けてしまいます。私は彼女にソファーの中央を勧めました。
「あ……いえ、端が落ち着くのでお構いなく」
そう言うと……彼女はソファーの端の、また端へとスライドしていきます。まあ、それでいいと言うのですから無理強いはしないでおきましょうか。ソファー中央には、私が座ることにしましょう。そして、コムさんは彼女の反対側に座らせます。
「は……初めまして。私は……栗原真姫と言います」
彼女はしどろもどろな感じに自身の名前を口にしました。私達も自己紹介しないといけませんね。
「私は堀尾祐姫って言います。おゆきさんって呼んでくださいね。それで、こっちのが小紫です。小紫と呼ぶと長いので……コムさんって呼ぶのが便利ですよ」
よし、これで自己紹介は済みましたね。コムさんの視線が私の後頭部に刺さっている気がしますが……気のせいでしょう。
「本日はおいで下さいまして、本当にありがとうございます」
そう言いながら、私は深々と頭を下げました。これで後頭部の視線から逃れることができます。しかし……その視線は栗原さんに刺さってしまうのでした。当たり前ですね。
「ひ……す、すいません」
コムさんの視線に怯える栗原さん。まったく……ひどい人ですよね。許せませんよね。
それから……栗原さんが冷静になるまで私はコムさんを放置したまま世間話に興じるのでした。
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栗原さんと世間話をしていて、わかったことがあります。まず……彼女がこちらに来た理由は【圧死】らしいです。私は、そのような死に方をしていないのでわかりませんけど……辛そうな死に方ですよね。漫画のようにペラペラになる訳ではないでしょうし、凄惨な現場だったんじゃないかなと思います。ただ、それを伝えた所ですね……栗原さんは『凄惨と言えば凄惨だったとは思いますが別の意味で……凄惨な現場だったのかもしれませんね』と、おっしゃいました。えっと……それって、どういう意味なんでしょうね。
他にも、栗原さんには美姫さんという妹がいる事だったり……その妹さんとは仲が良く以心伝心の関係とか、家族仲が良かったとかも伺いました。そしてですね、肝心な事は……彼女の趣味は【読書】だと言うのです。でも、趣味が読書というのは……少し不鮮明と言いますか、解像度が低い感じがしますよね。つまりですね……読書という表現は、本を読む趣味だとは理解できるのですが、いったい何を読んでいるのかまでは伝わりません。そこで私は気づいてしまったんです。そして……私は探りを入れてみました。
「えっと、栗原さんって……お腐れしていらっしゃいます?」
探りと言うには直球ストレートな聞き方ですが、ストレートな方が割と成功率が高い。これは私の持論です。そして、栗原さんは……
「あ……はい。腐ってます」
そう自白したのでした。