8話04
【本能寺の変】の【謎】について、私は色々と思案を巡らせましたが……結局は定説に辿り着いてしまいます。要は謀反の動機が【魔が差した】とする説ですね。他にも朝廷や徳川家康、羽柴秀吉が黒幕という説もあるようですが……どれも決め手に欠けているように思えます。
うーん。わからないですね。コムさんの方を見てみますと……そちらも【謎】が解けたようには見えません。【陰謀論】や【オカルト】から考察しているであろうコムさんが苦戦するくらいなんです。真面目で誠実で清廉潔白かつ容姿端麗な私が考えたところで、解けなくても仕方ありませんよね。ここは適当に……突飛な意見でも出して、お茶を濁すことにでもしましょう。
「ふふ、わかりましたよ。【本能寺の変】の【謎】を解く……その答えとやらを」
私は名探偵気取りで、そう発しました。そして決めポーズとして、右手の人差し指をデルピュネーさんに突きつけて言うのです。
「犯行は……人の手によるものではなかった! そうですよね……デルピュネーさん、瀬戸さん」
自分で言っておいて何ですけど、じゃあ誰がやったんだと言われたら……どうしましょう。宇宙人説で逃げ切るしかありません。
「な……なんだってー!」
瀬戸さんは私のテンションに乗ってくれたのか、大きなアクションと共に驚嘆してくれました。それにしても、乗ってくれたにしては迫真の驚き方ですね。これは、ひょっとして……
「なぜ……なぜ、わかったのじゃ!?」
えっと、本意ではありませんでしたが……私、正解を引いてしまったようです。
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山勘で正解を引き当てた私は……気まずい思いと戦っています。鮫と戦った朝比奈義秀、織田信長を討った明智光秀以上に苦しい戦いを強いられているのです。なぜかと言えば、なぜ正解したのか……それが自分でもわからないのです。助けてコムさん。私はコムさんに助力を求める視線を送りました。するとコムさんは、その視線からそっと眼を逸したのです。
「正解されて、悔しいのじゃ~」
「まさか……知っているとは思いませんでした」
私の気持ちも知らないまま、デルピュネーさんと瀬戸さんは私を称賛してくれます。そもそも『知っているとは思いませんでした』と言われた私ですら、知っているとは思いませんでしたからね。それは驚くでしょう。それどころか……私が一番驚いたまであります。さて、それで……この場をどう切り抜けましょうか。とりあえずは、わかっている素振りで……この場を乗り切るとしますか。
「ヒントはアタイって言ってたのが……決め手ですかね」
私は、さも知った顔で嘯きます。歴代の名探偵の素振りを思い返しながら、それを演じる努力も忘れません。そうだ、眼鏡を具現化しましょう。それをクイクイやっていれば……はい、それっぽい!
「あちゃ~。ヒントを出しすぎてしまったのじゃ~」
「ちょっと、調子に乗りすぎてしまいましたね」
お願いしますから早く解答を言ってくれませんか。知ったかぶりしているのは精神的に辛いんです。しかし、そんな私の願いは叶いません。デルピュネーさんと瀬戸さんは反省会を行っています。どこの語り口が悪かったのかとか、どこでバレてしまったのかを……一つ一つ確認しています。
本当にごめんなさい。どこも悪くなければ、どこででもバレていませんでした。ただ、私の山勘が悪かったんです。
そんな私の心中には【順逆無二門 大道徹心源 五十五年夢 覚来帰一元】が去来するのでした。
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「バレてしまった以上はしょうがありませんね。その通り……解答は【ヒト型爬虫類陰謀論】です」
瀬戸さんはため息一つつくと、消沈したまま……そう言いました。もう一度言いますね。消沈したまま……【ヒト型爬虫類陰謀論】と、そう言ったんです。【ヒト型爬虫類陰謀論】という言葉を聞いたのは……私の人生でも始めてでしょう。いや、もう死んでいるので人生というのは適切ではありませんね……人生・死後を含めても始めてです。
「つまりですね……朝比奈義秀も明智光秀も【ヒト型爬虫類】こと【レプティリアン・ヒューマノイド】だったんです。そう考えれば……異常な怪力や、鮫を三匹も捕まえてくる事にも納得できますよね」
できません。
「光秀の前半生がわからないのも、それが原因なのじゃ。キンカン頭であったのも納得いくじゃろ? なにしろ爬虫類なのじゃからな」
いきません。
「そしてですね。【順逆無二門 大道徹心源 五十五年夢 覚来帰一元】からは……寿命が五十五年と読み取る事ができますよね」
まあ……それくらいなら許容しましょう。
「ここで豆知識なのじゃが、コモドオオトカゲの寿命は五十年と言われており……これこそが光秀が【ヒト型爬虫類】である証左なのじゃ! さらにはコモドオオトカゲは腐肉を喰らう。これこそ安土城で腐った料理を出した理由なのじゃ~。要点をまとめるとじゃな、つまり……光秀は【ヒト型爬虫類コモドオオトカゲ科】であったと導き出されるのじゃ~」
許容して大損しましたね。
「じゃ……お客様をお送りしますね」
私はお客様の帰宅を外まで送ることにしました。はい、本人達にその意思が無いのは知っていますけど……これは強行しなければなりません。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ。ひょっとすると……今こそが人類の危機かもしれんのじゃ」
「待って……もっと話を聞いてくださいってば。ええと【コモドオオトカゲ】を【アナグラム】するとですね……」
ちょっと気になったので、デルピュネーさんと瀬戸さんを扉へと強制連行するのは一時停止しました。そして続きを促します。
「【コモドオオトカゲ】は【コドモオオトカゲ】になるんです。これは子孫にも【ヒト型爬虫類】が潜んでいるのを意味していて……とにかく地球が危ないんですよ……あ、ちょっと待って、押さないでください」
いやいや……本日はためになる話をありがとうございました。私は勢いよく扉を開くと、両名を押し出し……勢いよく扉を閉めます。
「他にも【コモドオオトカゲ】は【トドモオコゲガオ】になるのじゃ~。これこそがトドやオットセイが顔が黒くなった理由なのじゃ~」
扉を挟んで、まだ何か言っています。いけませんね、今度からこの扉は防音にしましょう。そして私はソファーに戻るのです。コムさんの瞳は……まだ輝いていました。これには私も、トドのような表情を浮かべるのでした。
休題 『ヒト型爬虫類陰謀論』 了