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7話04



 まさかまさかの被害者が判明してしまいました。大量殺人犯とは聞かされていましたが……思っていたよりも身近な被害者に、(アタシ)とコムさんは唖然とするよりありません。そして大野さんは、困惑する我々を尻目に【物語】を続けるのです。


「デビューから三年程が経過し、娘の著書は出版される度に売上を増していきました。それと並行して姿容の露出も増すと……さらに人気を集めるのです」


 景気のいい話ですね。これがバブル時代なんでしょうか。それとも時代関係なしに、人気作家とはそういうものなのかもしれません。まったく……(アタシ)にも天賦の才とやらが欲しかったですね。せいぜい、今……(アタシ)が持ってる才能と言えば、コムさんをいじり倒すくらいしかないんですから。


「それから、私は当時住んでいた住宅街の一戸建てを売ると……人里から離れた山を買い取りました。娘の為です。彼女の人気が高まるにつれ、我々は周囲の喧騒から逃れる必要に迫られていたのです。それと……娘が執筆に集中できる環境を用意する為でもありました」


 人気者には人気者なりの悩みもあるんですね。特別な才能には憧れるものですが……結局は一長一短なのかもしれません。(アタシ)だったら、平凡でもいいから、都会で暮らしていたいですもん。


「当時はバブルの時代でありましたので、いくら利用価値の乏しい山であろうが地価は高騰しておりましてな……幸い、娘の収入が莫大になっておりましたので、山を丸ごと購入することが出来たのです。そして、そこに私達の住む館を建てました。一刻も早くそちらへ居を移したかったこともあり……建設会社には突貫工事を頼んみました。よって、屋敷は少し斜めに出来上がってしまいましたが……それは愛嬌と言うものでしょう。最も重要なのは娘の執筆用地下室を設けることでしてな。その為ならば多少の不便は仕方ありません」


 屋敷が斜めであろうが……娘さんの為にですか。本当に娘さん想いな方ですよね。うーん……やっぱり大量殺人犯とは信じられないです。


「それと、これは個人の我儘(わがまま)なのですが……小さなお(やしろ)を築かせました。その大きさは六畳程度です。(ほこら)と言うには大きく、神社と言うには小さすぎる……そんな規模の社ですな。主祭神は【阿陀比売命(あだひめのみこと)】です。ご存じですか? 【大山津見神(おおやまつみのかみ)】の娘です。【大山津見神】は各地の山岳信仰とも深い関わりがある山の神でして、私はその娘……【阿陀比売命】を祀る社として、館の隣に【阿陀(あだ)神社】を建立させたのです」


 【阿陀神社】ですか。そういえば……この前の物語で【あみだくじ】の話がありましたけど、阿弥陀と阿陀って関連性でもあるんでしょうか? ちょっと聞いてみましょう。


「阿陀って阿弥陀と似てる気がするんですけど、何か繋がりがあったりするんです?」


 (アタシ)は思ったままに、質問を投げかけました。


「ああ、言われてみれば……似ていますな。ですが関連性は無いと思われます。おそらくですが【阿弥陀如来】の伝来時期からして……読みが似ているのなら漢字も似てしまうのではないでしょうか。それは万葉仮名と言われるのですが……わかりやすく、現代的に言うと【当て字】ですな」


 万葉仮名って、コムさんが【夜露死苦】で遊んでたヤツですね。なるほど……阿弥陀と阿陀は読み方が似てるだけの【当て字】みたいです。


「疑問に思われるのも当然でしょう。私も娘から教わって以降、古事記を愛読していたものですが……万葉仮名には苦戦したものです」


 思い出しますね……中学高校くらいの国語の授業。(アタシ)も苦戦した記憶があります。


「そして館の建築から半年ほど経て、娘は地下室で執筆に取り組んでおったのですが……どことなく集中できていないように感じました。そんなある日の事です。彼女は編集長の息子……伊能尊と結婚すると言い出しました。寝耳に水な話に私は狼狽したのですが……それとこれは別件です。私は彼女の幸せを思うと……それを祝福し、許したのでした」


 いいお父さんしているじゃないですか。それにしても……この話がどうやって殺人事件に繋がるのか……まだ、予想がつかないですね。


「その後も娘は地下室で筆を執り続けたのですが……流石に執筆ペースは落ちました。これ以降、新作の出版頻度は目に見えて低下するのです。そして、それはメディアへの露出機会が減る事も意味しました。これでようやく落ち着いた生活が戻ってくるのではないか……と、私はそう思ったのです」

 


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