表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/108

5話04



 もはや街は壊滅状態であった。そんな中、一人の女性が立ち上がる。そう……それは公園で逃走に成功したカップルの片割れ。彼女は意を決した表情で、傍らに落ちていた杖を拾い上げたのだ。そんな彼女に、彼女のパートナーを(あや)めたゾンビが襲いかかる。その時……彼女は杖から刃を抜き放ったのだ。その杖は……仕込み杖であった。それは【戒杖刀(かいじょうとう)】と呼ばれる、由緒ある逸品。その一閃はゾンビを胴から真っ二つにするのであった。


【何故だかわかりませんが……そんな由緒ある武器が、そんな場所に落ちていた事にツッコミを入れたら負けだというのはわかります】


 彼女は走って逃げている。背後からは戒杖刀で切られたはずのゾンビが追いかけてきていた。次第に詰まっていく距離。彼女が捕まってしまうのは……時間の問題であった。その時……彼女は懐から銃を取り出した。それは【ダン・ウェッソン・リボルバー】という銃だ。マグナム銃とも呼ばれている。彼女はそれをゾンビに向かって放った。すると……その銃弾はゾンビの眉間を貫き、ゾンビは倒れるのであった。


【何故だかわかりませんが……彼女は銃を持っていたみたいです。それよりも……さっき真っ二つに切られたゾンビが、次のカットでは何事もなく走って追いかけてくるほうがホラーですよね】


 彼女は走って逃げている。逃げた場所は廃車場であった。そして、再び……先程のゾンビが襲いかかってくる。廃車の影に隠れる彼女。しかし……見つかってしまうのも時間の問題であろう。もはや逃げ場はなかった。その時……彼女はまだ動く車を発見したのだ。それに飛び乗った彼女。そしてエンジン音が唸りを上げる。彼女が乗った車両……それは戦車であった。それは【オチキス H35】と呼ばれる、二次大戦で使われた軽戦車なのである。そして彼女は、容赦なくゾンビを轢き潰すのであった。


【何故だかわかりませんが……戦車があったそうですよ。やったね、ゾンビを倒せたよ。良かったね】


 それからも……彼女の逃走劇は続いていく。森で拾ったチェーンソーで追跡してきたゾンビを切り刻む彼女。ゾンビに油をかけて焼く彼女。液体窒素をかけてゾンビを瞬間冷凍し、それを砕く彼女。海を泳ぎ、サメにゾンビを襲わせる彼女。溶鉱炉にゾンビを落とす彼女、そしてサムズアップしながら溶鉱炉に沈んでいくゾンビ。だが、そのどれもが……ゾンビに致命傷を与えることができなかったのだ。


【何故だかわかりませんが……(アタシ)、ゾンビの方に愛着が湧いてきました。もはや致命傷という言葉の意味は、辞書では解決できない次元へと到達しています】


 追い詰められた彼女。その場所はお寺の長い参道……その階段を上りきろうかといった場所だった。




 * * *




 その時……室内は明るく照らされ、テレビ画面は暗転しました。色々な意味で面白い作品でしたので、続きが気になってしまいますが……上映が止められてしまったのはどういう事でしょう。(アタシ)は隣の安さんを眺めます。そうすると……その奥のコムさんも目に入ってしまいました。コムさんの瞳はキラキラしています。楽しそうですね……羨ましいです。そして、安さんが口を開くのです。


「実はこのシーンの収録。ここで事故が起こるのです」


 ちょっと思い返してみましょうか。ヒロインは最後に【神頼み】として……お寺の参道を駆け上がっていました。(アタシ)には……【神頼み】なら神社だろというツッコミを行う気力は残っていなかったんです。そして彼女の背後からは……短距離ランナーばりの健康的な動作で追ってくるゾンビ。このゾンビが安さんですね。ヒロインは階段を登りきると背後を振り返りました。もうゾンビは間近まで来ています。


 ここで……上映が打ち切られました。


「この後に起こった事故で、私はこちらの世界の住人となったのです。では、それが【どんな事故】だったか……わかるでしょうか?」


 事故ですか……いったい、どんな事故だったんでしょうね。


「ヒントは……ここまでの映像にありましたので、お考えください」


 安さんから問題提示がなされました。それを受け……(アタシ)は考慮し始めます。


 そうですね、ここまでの映像がヒントだと言うのなら……刀とチェーンソーで切られ、銃で打たれ、戦車に轢かれ、焼かれ凍らされ、サメに食べられ、溶鉱炉に沈むような事故が起こったのでしょうか。まったくもって意味がわかりませんよね。


 そんな(アタシ)は、頭脳をB級ホラーに支配されたまま……その事故の詳細についてを熟考するのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ