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5話01



 みなさんはゾンビを知っていますか?


 それはパニックホラーの定番中の定番。サメに次いで人気のある題材ではないでしょうか。そうですね、例えば……何らかのウィルス感染によってゾンビとなった者に噛まれると、被害者もゾンビになってしまい……その連鎖が街をパニックに陥れるなんてストーリーが【お決まりの展開】のように思われます。


 じゃあ……ここでテーブルをひっくり返しましょう。もしもですね、最初のウイルス感染者が都会ではなく……人口密度が極めて低い土地で発生したらどうなるでしょうか。例えば……辺境の荒野地帯を想像してみてください。もしも自分がゾンビになってしまったとして、仲間を求めて周囲の人を噛みにいこうとするじゃないですか……それが遥か遠くなのです。視界に隣家が一つもないんです。あなたは決して早くはないゾンビ歩きで……ようやく隣家にたどり着きました。そこで異変に気づかれるんです。隣家の住人はあなたよりも素早い動きで、車に乗って逃げていってしまいました。あなたのゾンビ歩きの速度では絶対に追いつけません。こうして……ゾンビはまだ見ぬ仲間を求め、草原を彷徨うのでした。


 どうです? 急にゾンビという存在が哀愁を帯びたものに感じられませんか? ちょっと可哀相だって気になりますよね。

 

 本日伺うのは、そんな物語。それは私達の【退屈】を埋める、どんな【面白い】物語なのでしょうか。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




「退屈で死にそう……」

 

 それは小さめの事務所のような部屋の中、幼女が発した言葉であった。彼女はその容姿とは真逆、欠片ほどの活発性を見せることすらなく……安っぽいデスクに頭を突っ伏している。


 その向かいには男性が同じの姿勢のまま、身動き一つしていない。まるで死体のようにも見えるが……それは、ある意味では正解だ。何故ならば、彼らは死後の世界の住民であり、無限の時を……動かない事で浪費している最中であったのだ。


 例えるなら……やる気のないゾンビと言えばわかりやすいであろう。しかし……そんな彼らにもやる気が出る時があった。それは【面白い】物語を聞き、そして【謎】を考えている時なのだ。彼らは、そのような物語にだけは貪欲なゾンビのように群がるのである。しかし今、彼らの事務所には……そのような語り部は来訪していなかった。きっと彼らは、次の来訪者が訪れた時にはムクリと起き上がり……物語の【謎】を貪欲に食い漁るのであろう。


 机の天板と額を合わせて寝ている男性は小紫祥伍(こむらさきしょうご)と言い、幼女からはコムさんと呼ばれている。普通に普通な普通の容貌をしている。簡潔に言えば普通なのだ。他に言うべき特徴は見当たらない。


 机の天板と額を合わせて寝ている女性は堀尾祐姫(ほりおゆき)と言い、普通の人からはおゆきさんと呼ばれている。現世の時とは異なった、幼女の容貌をしているのには意味があるのか、ないのかは……よくわからない。


「そういえば……僕、思うんだけどさ」


 何か思いついたのだろうか……小紫は机の天板に向けて、そう発した。


「……何をですか?」


 天板で反射した音声を受け取ったおゆきさん。自身も同じく天板に向けて相槌を打つ。


「ホラー映画でゾンビとサメとか出てくるじゃない」


「まあ……流行ってましたからね」


「じゃあ……ゾンビとサメって、どっちが怖いんだろうね」


「……人間が一番怖いんじゃないでしょうかね」


「そっかそっか。言われてみればその通り」


 なんとなくだが納得は出来たのであろう。小紫は額を天板に接触させながら頷いている。窮屈な首周りが苦しそうであった。


 その後は……延々と無言の時間が続く。その間にも、彼らはゾンビとなって……【面白い】物語を捕食する機会を伺っているのだ。


 そして、その機会は……ようやく訪れた。




 ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━




「おはようございまーす」


 明るい声と同時に、事務所のドアがノックされた。小紫は跳ね上がるように起き上がるとドアの方へと足を運ぶ。おゆきさんも同様に足を向けた。しかし……体型が幼いので、小紫より到着が遅れてしまったのは仕方ない。


「すいません。ご足労いただきありがとうございます」


 小紫はそう言いながらドアを開き、来客を出迎えようとするのだが……心臓が止まるかといった表情を見せた。


 おゆきさんも目の玉が飛び出るほど、驚愕の表情になっている。




 その理由はといえば……ドアの先、彼らの視界に映っていたのは【ゾンビ】と呼ばれる存在であったからだ。


 それは文字通り……目の玉が飛び出していて、心臓が止まっている存在のことだ。



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